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第085話 最も重要なところ


「まだまだ俺が知らないだけで、世の中には様々な問題が溢れてるってことか。……だったらさ、徹底的にやってみたら? その雌雄を決するってやつ」


 俺の提案に、ボアボア、そしてシルシルが瞬時に反応を示した。しかし互いに相手が(いぶか)しくはあるものの、村のみんなを困らせてまで続けたいわけでもないらしく、飲むに飲めない溜飲に、やきもきしているのがよくわかった。


「とはいえ、今はそんなことを言ってる場合じゃないんだ。一旦その話は置いておこうか。それはそうと、リッケさん。ちなみにあれから丸四日くらいたったけど、()()()()、どこまで進んでる?」


「あ~」と天を見上げて状況を計算した彼女は、「実際に見てもらった方が早いね」と俺たちを招き入れた。双方仕方なく場を収めたボアとウルフたちは、一定の距離を開けたまま、先導する彼女に連れられるまま村外れまで移動した。


「まだまだ準備段階ではあるんだけど、着々と作業は進んでるよ~。といってもまだ始めたばっかだから、全体の四パーセントくらいでしかないけどさ」


 そう言う彼女の指の先では、恐ろしいほどの数の薄茶けた実が並んでいて、アリクイ族と猫族の村人たちが何やら作業をしているようだった。


「いやいや四パーセントでも上出来だよ。一日一パーセント換算だとして、三ヶ月で全作業終了ってことだよね?」


「いやいや、10日足りてないよねその計算……。ま、日数は置いておくとしても、()()()()のおかげでまだまだスピードは上がりそうさ。ったく、よくもまぁ、あんなものが思いつくね、ウチの村長は」


 食料庫が建ち並んだ一角で作業している彼らの手元には、各種専用の機器が置かれており、それぞれが割った実の中身を機器の中に入れて粉砕作業を行っていた。機器の正体は俺が夏の間に試作しておいた破砕機(はさいき)の一種で、火の魔石と水の魔石を動力に、ぶち込んだ材料を自動的に粉にしてくれるっていうシロモノだ。


 動力は熱と水から発生させた蒸気力を利用したタービンを回すだけの簡易装置でしかないが、この世界には魔法というインチキが存在しているため、素材を加工する方法も容易に準備できてしまう。俺の『調合師(コンパウンダー)』スキルを用いることで材料となる物質は簡単に作ることができるし、何より俺には前世の記憶がある。撹拌機(かくはんき)や破砕機などには業務で関わったことがあり、何より学生時代はこの手の作業を好んでしていた。過去の学びってのは、意外なところで役に立つ!


「乾燥さえ終わっていれば、これら器具にセットするだけで破砕作業は誰にでもできるから人を選ばないし、器具の数を増やしてやればスピードアップも可能だ。破砕機の種類についてはまだ沢山あるけど、まずはジョークラッシャーとロールクラッシャーで粗めに挽いてやれば運搬もしやすくなるし、その先はそれぞれ使う場面場面で細かくしてやればいいだけだから、ブツブツブツブツ……」


 しかしどうやら皆さん俺の独り言に興味がないらしく、スンと無視され、平坦な「すごいですねー(棒)」という言葉で流された。え、ちょっとそれ酷くない!?


「しかしわざわざこんな作業を確認してどうするつもりなんだい? 確かにこれら原料を処理するのは重要だけど、そこまで急ぎってわけでもないだろう」


 粉砕してサラサラになった実の粉を手にしながらリッケさんが疑問を口にした。しかしその事実を自分が口にしたことで何か思い当たったのか、「まさか」と前置きして質問した。


「そっちのワンちゃんたちのこともアレだけど……。まさか早速コイツが必要ってことなのかい? だとしたら、それはちぃとマズい状況だね」


 相変わらず察しが早くて助かります。

「そのまさかです」と返答した俺は、村の住人たちにマイルネの町で起こっている現状を包み隠さず伝えた。


 長雪の影響で他国との繋がりが途絶えていること。

 町の農業が壊滅的であり、既に食糧不足に陥っていること。

 そして餌や住処がなくなり、森や平原を追われたウルフのような者が沢山いることなど、近隣国で起こっている異変を伝え、自分たちがどうすべきかを考えてほしいと皆に打ち明けた。


「北は海が完全に凍っちまって麻痺状態、西の行路も分断中。東もこの有り様で、南はもともと飢饉の真っ最中って……。なんだいそりゃあ、八方塞がりじゃないか」


 端的、かつわかりやすく状況を要約してくれたリッケさんは、俺に変わって現状を村人たちに説明してくれた。もともと食べるものがなくて流れてきたアリクイ族などは気が気でないらしく、彼女の話を聞いているさなかも、常にハラハラしながら聞き耳を立てている様子だった。


「そういう理由(わけ)で、彼らウルフ族を受け入れたうえ、町の人たちも助けてあげたいと、まとめればそんな感じかな。で、率直に聞くけど……。村長、それとマーロンさん、二人はどうしたいと思ってるの?」とリッケさんが。どうにも打算的な顔をしているが、何か言いたいことがあるんだな……?


「俺たちはみんなが良ければ可能な限り協力したいとは思ってる。だけど……」


 俺が言い淀むと、それも当然とばかりに彼女は頷いた。

 そして悪どい表情を浮かべながら、「ヒッヒッヒ」と微笑んだ。


「当然、タダってわけにはいきませんわなぁ。それに、我が村にも村の事情ってもんがある。ってことでよろしいですかな、村長さん?」


 さもそれが俺の意見とばかり余計なポイントまでぶっ込んできたリッケさん。

 まぁ確かにそれはそうなんですけども!


「少々待たれよリッケ殿。しかし事はそれほど単純ではありませんぞ。皆もよくわかっておるだろう、今の我々が置かれた状況を」


 猫族の族長が釘を刺すように進言した。


 ……そう、確かにそうなんだ。

 俺が一番言いたい重要なポイントは、まさにそこなんだよ。


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