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第075話 対話


「ねぇトア、本当に大丈夫なの!? こんな吹雪の中でウルフに襲われたら、私たちどうしようもないよ!」


「確かに大変だけど、それは向こうも条件が同じですからねぇ。そんなことよりマーロンさん、胸元でぬくぬくしていらっしゃるわがままなモコモコさんの相手はそちらでお願いしますよ」


 村から出たときと同じく抱えた彼女の胸元からちょこんと顔を出したポンチョが、赤くなった鼻をスンスンさせ、ご機嫌に周囲を窺っております。しかし、ウチのモコモコさんは飽きるのは本当に早いですから! 急いで仕事を終わらせないと、また駄々をこねて喚き散らすに決まっています。早いところ面倒事を解決してしまわなければ!


 俺は遠距離にまで魔力感知を張り巡らせ、目と鼻の先も見えないような視覚を諦めて、完全に目を閉じた。しかしたったそれだけの行為で、途端に見えてくるものがある。こればかりは殺し屋家業で培ってきた場数と経験が物を言うらしい。全ての障害物を避けて目的地を目指す程度は造作もなく、俺は完全な闇の中を一直線に平原へ向かって駆け抜けた。


 小一時間走ったところで、張り巡らせていた感知の輪に何かが引っかかった。数キロ進んだ先の谷になった窪地で複数の生き物が身を寄せているようで、俺は抱えた二人に声を出さないよう注意してから、まずは敵の様子を窺ってみましょうと提案した。


「窺ってみるって、どうやって?」


「風下から隠密(ヒドゥン)無色化(スケルトン)を使った状態で接近します。なぁに、どれだけ奴らの鼻が良くても、これだけ視界が悪いとアイツらだって簡単には動けませんから。大丈夫です」


「またそんな簡単に! もし見つかったら、私たち八つ裂きにされちゃうんだからね!」


「そうなったら残るのはポンチョだけになっちゃいますね♪」と冗談を言いつつ、俺は隠密(ヒドゥン)無色化(スケルトン)のスキルを使い、二人ともども完全に姿を消し、そのまま足早に相手との距離を詰めていく。ずっと気が気でないマーロンさんの口に手を当てた俺は、「しー」と耳元で呟きながら、窪地になっている谷部分へと接近する。


 どうやら相手の数は10~20といったところか。穴底の空洞になっている場所で身を休めているらしい。どうやら魔物にとってもこの天候は相当に堪えているらしく、数分様子を窺ってみるも、一向に動く気配はみられなかった。


「う~ん、どうしましょうね。もう正面から行っちゃいます?」


「は? 正面って、そんなことしたら相手の格好の餌食だよ」


「まぁどうにかなりますって。それじゃあ行きましょー」


 と彼女の同意を得ぬまま傾斜を滑り降りた俺たちは、そのまま穴底へ正面から乗り込んでいく。しかし何者かの接近に気付いたのか、魔力の幾つかが俺たちを迎え撃つため、空洞の入口に陣取って一列に整列した。


「ちょ、ちょっとトア!? 無茶よ、止まって~!!?」


「大丈夫大丈夫。じゃあこのまま突っ切りますよー!」


 雪崩のように全身に雪をまとって滑り降りる俺たちは、薄暗い谷底の入口で敵を向かい撃つべく並んでいたグロウウルフの姿を捉えた。ウルフたちは迫りくる何者かを警戒しているものの、敵の正体がわからず困惑しているのか、吹き上がる雪に全ての情報を遮断され、どうにもならず慌てふためいているご様子。とくれば――


「よーし、中央突破だー(棒)」


 並んだ四体の袖を一気に、かつ一瞬で通過する。

 ウルフたちは俺たちが通り過ぎたことにすら気付けず、雪崩のように突っ込んでくる雪の塊に気を取られ、ワンワンと犬のように地団駄を踏むばかりだ!


「す、凄い。本当に気付かれてない……」


「だから大丈夫って言ったでしょ。ほら次がくるよ、気合い入れて!」


 第二班として穴の中から出てきたウルフたちが、敵の襲来を察知して遠吠えを上げた。しかし風のように流れてくる俺たちの姿を捉えることができないのか、空気のように素通りを許してしまっている。俺たちは穴蔵全体を使ってスノーボードを楽しむように、きりもみ回転で上下左右に円を描きながら、一気に穴の最奥を目指して進んだ。


「ちょっと、でもこのままだと群れの主のところまで一直線だよ!? そんなことして、私たちどうなっちゃうの!?」


「もう忘れちゃったのかな? 前にも同じようなことがあったと思うんだけど」


 足元を氷の魔力でコーティングした俺は、地面だけでなく穴の側面全てを超スピードで滑りながら突き進む。そして穴の最奥、感知した中で最も大きな魔力を持つ一体の袖で、ゆったりと着地した。


 そこには他のウルフとは比べ物にならないほど雄大で、銀色に輝く美しいウルフが横たわっていた。その大きさは他のウルフたちより一回りも二回りも大きく、顔だけでもマーロンさんの身体を上回るほどで、初見でこの迫力に気圧されない者など存在しないほど、圧倒的な圧を放っている。


「う、嘘でしょ、シルバーグロウウルフですって!? グロウウルフ種の上位亜種で、Bランクパーティーですら全滅することがあると言われるレベルの……、どうしてこんな魔物が、こんなところに」


 マーロンさんの顔から血の気が引いていく。どうやら俺たちの微かな気配を察知したのか、シルバーグロウウルフの視線が俺たちの姿を目端で追っている。が……、遅い!


 俺はさらにスピードを上げ、一気にウルフとの距離を詰めた。そのあまりの速さに目を見開いたウルフは、俺の指先がウルフの鼻面に触れられる距離に入るまで身動きひとつできぬまま、呼吸すら忘れて俺の動きに見入っていた。



「できれば抵抗はしないでほしい。俺はアンタたちを傷付ける気もなければ、ここから追い払うつもりもない。ただ対話をしたいんだ。どうか俺たちの話を聞いてほしい」


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