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第074話 偵察隊参上!


 当然そうなってしまうよなぁ。

 高ランク冒険者の不在に加え、そもそもの人材不足が折り重なり、現時点でマイルネの町は重大な危機に(ひん)している。町を一見しただけでも衛兵たちは従来の仕事のほかに雪の処理や魔物の討伐に人員を割かれ、門戸の管理にすら手が回っていなかった始末だ。恐らくはギルド側も藁にも縋る思いで彼女を頼って連絡してきたに違いない。しかしだからといって、彼女にもどうにもならないことがある。何より……


「私ひとりでできる仕事の範疇を超えすぎてるよ! 彼らは私にこの町を救ってほしいと言っていた。でも私にそんな力はない! どうしたら良いんだ私は!?」


 ローリエさんとギルドマスターから多数の仕事を押し付けられてしまったマーロンさんが途方に暮れている。やっぱりこうなったと彼女の愚痴をひとしきり聞いたあと、俺はひとまず誰もいない場所へ行こうといつもの宿へと向かった。


「すいませーん、部屋を借りたいんですが……?」


 がらんとした宿屋入口は誰の姿もなく、いつもいるはずの番頭の姿すら見えない。どうやら冒険者の行き来がなくなったことで閑古鳥が鳴いているようで、開店休業状態となってしまった宿は、門と同じくそっくりそのまま色を失っていた。


「ったく、誰だいこの忙しいときに……。って、こりゃ驚いた、森の冒険者さんたちじゃないか。アンタたち、どうやってここまで出てきたんだい!?」


 しばらく待っていると、暖を取るため戻ってきた番頭の奥さんが俺たちを見つけ、宿の手配をしてくれた。どうやら番頭さんは町の雪処理に追われているようで、開店休業状態の宿を放置し、町の各所へ散って衛兵たちの仕事を手伝っているらしい。


「申し訳ないねぇ。ご覧のとおり、アタシらも町の救助作業に借り出されちまって、宿もご覧のあり様さ。食事の世話ひとつできないのが心苦しいんだけど、部屋だけは沢山空いてるんで、いくらでも使ってやっておくれ。すまないねぇ」


 今は給仕できる者も不在のため、部屋だけなら貸せるといってくれた奥さんに礼を言い、俺たちはひとまず二階の一室に入るなり、他人の目がない場所へ身を寄せた。すぐに頭を抱えて突っ伏したマーロンさんは、「私はどうすれば……」とうわ言のように繰り返している。なにもそこまで考え込まなくてもいいのに。責任感強すぎですって!


「背負いすぎなくても大丈夫だよ。俺も手伝うし、なんなら大船に乗ったつもりでいていいし!」


「……でもトアに頼るばかりじゃ私もダメだし。こうしてみんなに求められている以上、私もどうにか彼らの役に立ちたいんだ!」


「お、意外とやる気だ。だったらやるだけやってみるしかないんじゃない?」


「それはそうだけど……。……自信が、……なくて」


「ぷっ」と吹き出した俺の胸元をポコポコ叩くマーロンさん。

 まったくこの人は、本当にお人好しで、可愛らしいったらありゃしない。


「大丈夫、絶対に上手くいくって。そうと決まればやることやろうか。それで、ギルドの人たちはなんて?」


「そんな簡単に言ってくれちゃってさ。……まずは南の平原のグロウウルフをどうにかするのが先決だからって、明日の夜、私とギルドマスターの二人で討伐に向かいたいって」


「ギルマスと二人で? それはアレだね。よっぽど人手不足なんだね……」


「それによくよく話を聞いたら、どうも雲行きが怪しいんだ。数日前に南へ向かった冒険者が逃げ帰ってきたみたいなんだけど、グロウウルフの群れの中に普通のウルフとは別の『何か』がいたって噂で、しかも仲間の冒険者は軒並みやられちゃったみたいで、その人だけがどうにか生還できたとかで……」


「別のなにか、ね。う~ん、じゃあさ、いっそのこと先に向かっちゃわない? その南の平原」


「え?」と驚いたマーロンさんの手を握った俺は、「時間は一分一秒も無駄にしたくないからね」と手の甲にキスをした。「なにしてるのよ!?」と慌てた彼女の頭を撫でながら、俺は部屋に置いていた布袋の端をちょんちょんと足でつついた。するとモゾモゾと布袋が動き出し、中からポンッと何かが勢いよく飛び出した。


「じゃ~ん! ポンチョだよー!」


 寒い寒いとうるさいので俺の背中で寝ていたモコモコさん。

 移動中たくさん寝たからでしょうか、いきなり「じゃーん」とはご機嫌ですねぇ。

 ふくふくとしたツルツルの頬を擦り寄せて甘えるポンチョも一緒に撫でた俺は、これだからモフモフは最高だねぇと無言で頷く。うむ、素晴らしい。


「よーし、それじゃあ早速南の平原でウルフ探しだー!」


「おー!」と無責任にポンチョが手を挙げた。

 しかしマーロンさんは納得せず、「そんなの無茶だよ!」と反論した。


「トアはいつも簡単に言うけど、ギルマスですら足踏みしちゃう相手なんだよ。しかもまたポンチョを連れてくなんて、まだ何がいるかもわからないのに!」


「それは確かにそうだけど、様子を見ておくくらいの事前準備は必要なんじゃない? 敵の偵察は重要なファクターの一つですよ、Aランク冒険者様?」


 ムッとする彼女をどうにか説き伏せ、俺たちはまず町の洋服屋を訪ねて、ポンチョとマーロンさん専用の防寒着を購入し、夜間作業の準備を整えてすぐに南門を出発した。終始マーロンさんは不機嫌だったけど、本音を言えば『たかがグロウウルフの群れ』を相手に時間を浪費したくなかったことは内緒だ。


「ええと、地図によれば南の平原は町から数時間下った先、とあるけど……、まぁなんと言えばよろしいのでしょうか」


 どっちを見ても一面の銀世界。

 やはり町の南側も天候不順であることは変わらず、常に雪が降り続いている。

 しかも猛烈な暴風雪によりホワイトアウトした周囲は見通しが効かず、五メートル先も判別できないほどに吹雪いていた。


 これではもう、地図などあってもなくても同じだな!


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