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元チート級暗殺者のもこもこ村開拓記 ~すでに2度死んでる最強の殺し屋ですが、新たな人生はもふもふケモナーさんに囲まれた優雅で静かなスローライフを送りたい!  作者: THE TAKE
第3章 雪雪危機一髪!

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第072話 異変


 あれだけ青々と広がっていた新緑のカーテンも、今や折り重なるように降(ふ)り続(つづ)けている白い悪魔(あくま)の重みに敗北(はいぼく)し、地面は溶(と)けず増えるばかりになった白に染(そ)まり、もはやそこが畑だった片鱗(へんりん)すら見せてはくれない。あれから一ヶ月降(ふ)り続(つづ)けた雪は、森から全(すべ)ての色を奪(うば)い去っていた。


 村人たちの住居も雪を処理(しょり)し続けなければ押(お)し潰(つぶ)されてしまうほどの量に襲(おそ)われ、今や次の作付の準備すらままならぬ有様だ。


「よもやこのようなことになろうとは……。もしハク殿(どの)やリッケ殿(どの)が収穫(しゅうかく)までの日程を前倒(まえだお)しして作業を進めていなければ、今頃(いまごろ)我々(われわれ)は冬の食料不足に怯(おび)え、食糧(しょくりょう)庫の前で震(ふる)えるばかりの毎日となっておりましたぞ」


 猫(ねこ)族の族長の言葉に皆(みな)が静かに頷(うなず)いた。しかし彼(かれ)の言葉はあながち嘘(うそ)ではなく、仮にピルピル草の収穫(しゅうかく)がなく今の状況(じょうきょう)に陥(おちい)っていた場合、ハクイモだけを頼(たよ)りに春を待つことになっていたことだろう。備えだけでいえば十分な量ではあるものの、不測の事態を考慮(こうりょ)するとまだまだ心許(こころもと)ないのも事実。だからこそ今回の収穫(しゅうかく)前倒(まえだお)しによる成功は、本当にナイスプレイだったと言わざるを得なかった。


「何を仰(おっしゃ)います。それもこれも、俺(おれ)やリッケさんだけでなく、皆(みな)さんの知識や努力、そして少しの運が味方してくれた賜物(たまもの)なんですよ。間違(まちが)っても俺(おれ)たち二人(ふたり)だけの成果……なんて思わないでくださいね!」


 いやはや情けないと笑う族長たち。しかしそれに水を差すように、近くで耳障(みみざわ)りな音が響(ひび)いた。どうやら音源(おんげん)はマーロンさんの持ち物らしく、彼女(かのじょ)は眉(まゆ)をひそめながら胸元(むなもと)に手を入れた。


「マーロンさん、それって……?」


「ああ、ギルドからの緊急(きんきゅう)招集だ」


 ギルドカードが激(はげ)しく警笛(けいてき)を鳴らし、周囲に緊急事態(きんきゅうじたい)を知らせていた。対外的にAランクの冒険者(ぼうけんしゃ)であるマーロンさんのもとには、緊急(きんきゅう)度に応じてギルドからの呼(よ)び出(だ)しがしばしば発生する。これまでも度々呼(よ)び出(だ)されることはあったが、これほど激(はげ)しく緊急性(きんきゅうせい)を知らせる音が鳴ったことはなかった。珍(めずら)しく彼女(かのじょ)が狼狽(うろた)えている。


「こ、これ、Bランク以上の冒険者(ぼうけんしゃ)を緊急(きんきゅう)招集する呼(よ)び出(だ)し音だ。マズいよ、どうしようハク!?」


 本来のランクはCであり、しかもこのところは農作業にかかりきりで、鍛錬(たんれん)が疎(おろそ)かになっていた。分厚い雲の掛(か)かった薄暗(うすぐら)い寒空の下、種族のプライドすら忘(わす)れて縋(すが)った彼女(かのじょ)は、無様に醜態(しゅうたい)を晒(さら)してしまう自分の姿(すがた)を想像して頭を抱(かか)えていた。しかし反対に何も事情を知らないリッケさんは、その不可思議(ふかしぎ)な状況(じょうきょう)にしばし頭を傾(かたむ)けていた。


「貴女(アナタ)はAランクの冒険者(ぼうけんしゃ)なのだから、特に問題ないように思うのですが……、何か特別な理由(ワケ)でも?」


 俺(おれ)は仕方なくリッケさんにこれまでの事情を説明し、彼女(かのじょ)が置かれている状況(じょうきょう)を伝えた。これまでの経験から一瞬(いっしゅん)で全(すべ)てを察してくれた彼女(かのじょ)は、「別に思(おも)い悩(なや)むことなどないじゃありませんか」と俺(おれ)の背中(せなか)をパチンと押(お)した。


「それなら村長さんを連れて行けばよろしいかと。村のことは私(わたし)たちでやっておきますので、お二人(ふたり)はさっさと行って、さっさと用事を済(す)ませてきたらよろしいですよ」


 うるうる瞳(ひとみ)を潤(うる)ませリッケさんの手を握(にぎ)ったマーロンさんは、「そうさせてもらいます!」と即決(そっけつ)し、俺(おれ)の意見など聞かずに「すぐ参ろう!」と手を引っ張った。本当のところを言ってしまえば、最初からそのつもりだったんだけどね。


「じゃあ少しだけ町へ行ってきます。雪の処理(しょり)など大変なことは重々承知してますが、どうか村のことをお願いします」


 任されますと手を振(ふ)ってくれた村人たちに見送られ、俺(おれ)たちは雪降(ふ)りしきる森の奥地(おくち)を出発した。町へと続く道はあえて整備しないままにしていたのが仇(あだ)となったか、未熟(みじゅく)な冒険者(ぼうけんしゃ)ではまず無事で済(す)まないほど荒(あ)れに荒(あ)れており、微(かす)かな視界(しかい)すら奪(うば)ってしまうブリザードに加え、降(ふ)り積(つ)もった大量の雪、そして延々(えんえん)と続く深い森たちが、俺(おれ)たちの行方(ゆくえ)を阻(はば)んでいた。


「これは酷(ひど)いな。こんなところで遭難(そうなん)したが最後、まず無事に生きて帰ることはできないだろう。町から我(わ)が村に到達(とうたつ)するだけでも、最低でもC、いや、それ以上の冒険者(ぼうけんしゃ)ランクでなければ野垂(のた)れ死(じ)んでしまうぞ」


「ですかねぇ……。少なくとも目を瞑(つぶ)って魔力(まりょく)感知して走れるくらいじゃないと、苦労するのは確実かもね。ところでマーロンさんや、『Cランク以上でなければ』とか格好(かっこ)つけて言ってますけど、貴女(アナタ)様はずっと私(わたくし)に『お姫様(ひめさま)抱(だ)っこ』されてるだけに見えるんですけど?」


「そ、それは!? た、たまにはいいでしょ……。こんなことでもないと二人(ふたり)きりになれないし、ゴニョゴニョ……」


「は~い? なんですって? 何か言いました~?」


「う、うるさい! はぐれる可能性を考えると、こうするのがベストと言ったのはトアじゃないか!? と、トアは黙(だま)って私(わたし)を運べばいいの!」


「ハイハイ、わかってますよ♪」


 背(せ)の高い木々の天辺(てっぺん)を碁石(ごいし)を蹴(け)るように抜(ぬ)けていく俺(おれ)たちは、最高速でモリスの森を駆(か)けていった。しかし俺(おれ)たちが思っていた以上に森の状態は悪く、一番積もっていた谷の底などは30メートル近くになる背(せ)の高い木々が埋(う)まってしまうほどで、この異常気象(いじょうきしょう)の凄(すさ)まじさをまざまざと物語っていた。


「私(わたし)たちも長年この森に住んできたけど、族長ですらここまで酷(ひど)い雪は初めてだって。本当に何もなければ良いのだけど……」


 などと嫌(いや)~なフラグを立てたがる彼女(かのじょ)の額にチョップし、「余計なことを言わないの!」と注意しながら高く飛び上がる。雲の上からなら多少は見通しも良いかなと思ったものの、あまりに分厚い雲は天井(てんじょう)すら見当たらず、俺(おれ)たちは改めてこの状況(じょうきょう)のマズさを思い知らされていた。


 通常なら半日もあれば楽々到着(とうちゃく)できる道程を丸二日半かけて踏破(とうは)した俺(おれ)たちは、一面雪景色(ゆきげしき)になった平原を抜(ぬ)け、いよいよ町へと近付いた。しかし近付くにつれその異(・)様(・)さ(・)は勢いを増し、町の景色(けしき)が見えてきた頃(ころ)、その疑念(ぎねん)は確信に変わった。


 俺(おれ)たちが見たもの。

 それはいつもの活気で溢(あふ)れていたはずの町が、全(すべ)ての色を失い、生き物の息吹(いぶき)すら掻(か)き消(け)されたような、惨(むご)たらしい姿(すがた)だった。


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