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第071話 幸運と不運


「森だ……、森ができてる……」


 マーロンさんがそう呟いてしまったのも無理はない。


 俺たちが生み出したその新緑の光景は、ほんの二ヶ月前までは本当に木の一本もない、ただ広いだけが取り柄の更地(さらち)でしかなかった。そんな場所を、みんなの力で土を耕し、栄養を行き渡らせ、苗を植え、水をやり、手を加えてはまた水をやり、それを幾度となく愚直に繰り返し、ようやく作り上げた。疲れ果て誰かが倒れたとしても、誰かが手を差し伸べ、歯を食いしばり、這いずりながらも諦めなかった。


 冬の寒さに凍えることもあった。

 見知らぬ害虫や、経験のない病魔に悩まされたこともあった。しかしそれでも誰一人折れることなく、解決しよう、前へ進もうと努力を重ねてきた。


「その結果が、この森ほどに美しく育った緑色のカーテンだ! 冬の寒さに負けず、雪の重さに負けず、諦めろ諦めろと(おびや)かし続けた病にも負けず、こうして雄大に成長したピルピル草の姿を見よ。これが、これこそが我々で生み出した、最大にして最高の結果である。村の民たちよ、誇れ、そして喜びの声を上げろ! 我々はやり遂げた、本当にやり遂げたのだ!!」


 収穫用に建てられた足場の上で、リッケさんが手足を踏み鳴らしながら村人たちを煽り立てた。その姿はもはや一端(いっぱし)の先導者で、今や誰が村長だかわかったものではない。俺の影ってば、ここのところずっと薄すぎませんか!?


 リッケコールが巻き起こる中、俺は猫族とアリクイ族の族長と握手し、そしてボアボアの鼻とハイタッチした。きっと誰が欠けてもこの結果は成し得なかった。それほどまでに壮観で、それほどまでに美しい緑色の天井だった。


「そしていよいよ収穫となるわけだが……。その前に、我々の代表である『あの方』に挨拶してもらおうじゃないか。だよね、村のみんな!?」


 ドッと沸いた村人の視線が、一斉にこちらへ押し寄せる。体ごと持ち上げられ、担がれるまま足場の上へと運ばれた俺。人々を煽りに煽りながら、隣に立つ彼女が俺の耳元で(ささや)いた。


「さぁお願いしますよ。みんな貴方の言葉を待ってるんですから。ねぇ、村長?」


「あ、ええと……?」


 彼女にポンと背中を押され、一歩前に出る。その瞬間を待ちわびていたかのように、あれだけ騒がしかった村人たちが一斉に静まり返った。


「ああ、……ええと、そうだな。じゃあ一言だけ。みんな、まずはお疲れ様。見てもらえばわかると思うけど、これだけのことができたのは全部みんなのおかげだと思ってます、本当にありがとう。いつも笑っちゃうんだけどさ、みんな優秀すぎるのよ。今回に限っちゃ、俺本当に何もしてないし、これだけのことができたのも、本当に頑張ってきたみんなのおかげだと思ってて。だからみんなは、まず自分自身のことを誇ってほしい。何より自信をもってほしい。俺たちは本当に凄いことができる、やり遂げることができるんだぞって!」


 畑を埋め尽くすほどの歓声が(とどろ)き、いよいよ最後の言葉を待つばかりとなった面々が一斉に膝を曲げた。俺はその期待に応えるよう右腕を高く掲げ、肺だけでなく、胃の中にまである全ての空気を吐き出しながら叫んだ。



『 それじゃあみんな、収穫だー! 』



 その場で飛び跳ねたり、中には助走をつけて走り回る者もいた。互いに健闘を称え合う者もいれば、胴上げを始めた者もいた。それぞれが思い思いに喜びを口にし、最高の瞬間を分かち合った。



「それでは僭越ながら」と俺が最初の実を狩ったところで、いよいよ収獲作業が始まった。それにしても嬉しい悲鳴と言うべきか、想定外と言うべきか。村人総動員で作業を行なったにも関わらず、あまりの収穫量に手間取ってしまった俺たちは、それから二週間という膨大な時間をかけ、ようやく全ての実を収穫することができた。


 総収穫量、占めて922サーバス。当初予定していた量など遥かに凌駕し、新たに幾つも保存庫が必要となってしまうほどピルピル草の実収穫に成功したのだった。


 そうして俺たちは、夏のハクイモ、冬のピルピル草と、ひとつの村ではとても消費できない量の食料を確保するに至った。しかしそんな俺たちの成功の裏側で、まさかあんなことが起きていようとは想像もしていなかった。


 収穫完了からちょうど三日後に始まったその異変は、俺たちの村だけでなく、周辺国全土を巻き込んだ、大きな大きな流れへと発展していくことになるーー




 俺たちが異変の発端に気付いたのは、それから六日目のことだった。収穫作業に区切りをつけ、俺の自宅に集まった各担当の代表者たちが、次の作付へ向けた畑作りについて意見交換をしていたときだった。


 最初に何気なく話を切り出したのは、猫族の族長だった。窓の外を眺めながら、「一気に寒くなりましたね」と前置きし、彼は数日前から降り続いている雪を見つめて言った。


「はて、この雪はいつからでしたかね。今年はかなり降りそうです」と。アリクイ族の族長も「確かに」と同調し、リッケさんが「三日前の夕方からでしたかね」と持ち前の記憶力をひけらかして付け加えた。


「雲も分厚いようで、いつまで降り続くことでしょうか。まさかずっと降りやしないとは思いますが」


 冗談を言った猫族の族長に皆が笑みを浮かべた。

 ハハハと笑い飛ばした俺たちは、よもや彼の口にした冗談が現実のものになるなどとは、想像もしないままに――


特産品が完成したと思ったら、

今度はモフモフ村や町に危機がやってきます。

さぁみんなはどうなるのでしょう??


ということで、引き続き3章をお楽しみください!

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