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第070話 地獄の行軍


「これはもう特色や差別化なんて生易しいものじゃない。全世界からその存在を狙われてもおかしくないくらい、恐ろしい『武器』よ。……だからこそ、貴方はこの事実を正しく理解しなきゃいけない。これは本当に凄いことなんですよ、ハクさん!?」


 力説しているリッケさんの迫力に気圧されているものの、俺もなんとなくその意味は理解できているつもりだ。しかしあまりにも唐突に突きつけられた事態に、頭が追いつかないこともまた事実でーす!


「わ、わかりました。でも少し落ち着きましょう。そもそもこれが本当に食べられるのかという点も含めて、俺たちはまずこれをちゃんと調べる必要があります。どれだけ凄くても、闇雲に環境を破壊するだけのヤバいものが出来上がりました~、ではシャレになりませんし。まずは調べましょう」



 そして俺たちは、早速自分たちの前に突如現れた怪しい植物の調査に取り掛かることとなった。

 伸びに伸びた怪しいピルピル草の鑑定と育成状況、食用の有無から従来との比較まで、鑑定スキル持ちの村人たちを含めて、数日をかけ徹底的に調査した。しかし……


「どういうことなの……? これだけ生体が変化しているのに、その実や周囲へ与える環境の値がまったく変化していないなんて!? 確かに土壌の栄養素や水分を大量に吸ってしまうから次の作付までに準備は必要だけど、草の特徴自体がまるで変わらないなんて……」


「ええと、それは結局どういう結果なんでしょうか。良いのか、それとも悪いのか……?」


 集まった面々がゴクリと息を飲む。マーロンさんやマルさんなどは、今にも目が飛び出そうな顔で互いに肩を強張らせている。そんな中、満を持して頬を伝う汗を拭ったリッケさんが、「そんなの決まっているじゃありませんか」と微かに笑みを浮かべる。


「大丈夫、注意が必要な部分は色々ありそうだけど、恐らく作物として育てられます。それにしても、これからとんでもなく忙しくなりますよ。急いで村人たちを集めてきてちょうだい!」


 安堵とともに、全員が一斉に両手を挙げて飛び跳ねた。一人ひとりが肩を叩き合い、握手し、これまでの労をねぎらった。


 そうしてリッケさんによるGOサインが出たことで、俺たちのピルピル草作りは一気に加速していくことになる。まずは巨大ピルピル草を育てるうえで絶対に必要となる土壌の準備からだ。


 通常のピルピル草であれば考慮する必要すらなかったが、巨大ピルピル草の栽培となれば話は別である。土壌に含まれる大量の栄養素だけでなく、水、空気、さらには根を張るために必要な柔らかく手入れされた土の準備など、実の収穫までに必須となる様々な要素を考え、ピックアップし、一つずつ環境に落とし込んでいく。


 ボアボアたち重量班を中心に取り掛かった土壌づくりは苛烈を極め、リッケさん監修のもと、それから昼夜を問わず作業は進められた。


「ほらほら、ボアボアさんたち、ダラダラしてる暇はないよ! 本格的な冬までもう時間がないんだからね。地面が凍っちゃったら、もう土壌づくりはできないんだよ。気合い入れて動きなさい!」


 さしものボアボアたちですら音を上げるほどの苦行ではあったものの、初霜が降りる数日前というギリギリのタイミングで準備を終えた俺たちは、全員が全員死相を漂わせながら畑に苗を植え、マルさんたちミナミコアリクイ族に伝わる秘伝の『特製汁』を片っ端からぶっかけ、初めてのピルピル草栽培を推し進めた。


「マルさん、『例の汁』が全然足りません! 急いで新しいものを作ってください、早く早く!」


「そんなこと言われてもね、この汁はなかなかできないんだな~。怒らないでほしいんだな~(大泣)」


 本格的な冬が到来し、雪が降りしきる中でも畑周辺だけは常夏のような活気が(ほとばし)っていた。涙と悲鳴が絶えない畑は終日誰かが走り回っているほど賑やかで、そんな中でも血と汗が入り混じった努力の結晶たちは、それはそれは見事に成長し、更地だったはずの畑の空を、少しずつ、青々と染め上げていった。


「さぁさぁ今度は猫族さんの出番だよ! ピルピル草の実がなっている高さに合わせて足場を組んで、収穫できるよう一気に準備を整えるよ。ボアさんたちも、足場を組むために大量の木材が必要になるよ。重量作業はキミたちの仕事なんだ、気合い入れて動くんだよ。さぁさぁ、最後の最後まであと一踏ん張りだ!」


 連日馬車馬のように走り回った俺たちは、半病人のようにフラフラになりながらも、怒涛の生産計画を走りきり、いよいよ初めての収穫の朝を迎えるのであった――


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