第007話 Gランク
―― 翌朝
「というわけでポンチョさんや。残念ながら、我々にはもうお金がありません!」
「おかね~? ポンチョお金よりお肉がいー!」
「ですからね、そのお肉を買うための金がないのよ。ってことで、残念ながらお仕事の時間ですッッ!!」
ベッドの上でドラムロールのように自分の口でダラダラダラダラ音を鳴らし、目に涙を浮かべながら宣言する。しかしポンチョは音に合わせて腰をフリフリ踊るばかりで、ちっとも緊張感がありません。少しはお前も現実見ろよな!
「そんなわけで、我々は働いてお金を稼がなければなりません。わかったら拍手ッ!」
意味もわからず楽しそうに拍手するモコモコ。ふむ、これはこれで可愛いしアリですね。
身支度を整えた俺たちは、残高 銀貨5枚、銅貨7枚(銀貨1枚1000円程度、銅貨1枚100円程度の価値だよ!)を握りしめ、初めてとなる場所を訪れた。そう、言わずと知れた冒険者ギルドである!
「ねぇねぇト~ア、ここなに~?」
「いわゆる冒険者が仕事を斡旋してもらう仲介業者だ……って、んなこと説明してもわかんねぇか。簡単にいうと、お仕事をくれる場所だな」
「お仕事くれるの? ポンチョもお仕事するー!」
「おうおう、存分に働いてくれたまえ。ってことで、さっそく初体験のギルド内部へと潜入してみましょうか!」
年甲斐もなく少しばかりドキドキしながら冒険者ギルドに入った俺たちは、さも初心者らしく、あっちを見たり、こっちを見たりしながらあたりを窺ってみる。するとそんな怪しい二人組が気になったのか、すぐにギルドの窓口担当者の女性が声をかけてくれた。
「あのぉ……、恐れ入りますが冒険者の方でしょうか。申し訳ございません、こちらはお子様連れの方はご遠慮願いたいのですが……」
「ああすいません。といってもコイツをほっとくわけにもいかないんで、できたら二人でギルドの使い方を教えていただくわけにはいきませんかね……?」
キュルンと瞳を潤ませるポンチョの可愛さにやられたのか、女性は難しい顔をしながらも「奥へどうぞ」と招き入れてくれた。やはりモフモフは正義だな!
「無理言ってスミマセン。コイツ、一人にしとくとすぐどこか行っちまうもので」
「仕方ありませんね。私にも子供がおりますので、気持ちはよ~くわかります」
にこやかに微笑み返してくれた30歳くらいの女性担当者は、「私は当ギルドで窓口案内を担当しております、ローリエと申します」と自己紹介してくれた。
「俺はハク(※偽名)といいます。少々入り用がありまして、冒険者登録をしたいと思っているのですが」
「ということは、ギルドへくるのは初めてですね。でしたらギルドにご自身の情報を登録しなければなりませんので、身分証のご提示と、登録用の銀貨3枚をお支払いいただけますか?」
「ぎ、銀貨3枚……? それまた世知辛いことで……」
「申し訳ございません、規則ですから」
俺はもはや空同然の布袋から銀貨を3枚取り出し、「ええいままよ」とテーブルに並べた。何事もなく身分証と金を回収したローリエさんは、簡単な登録を済ませ、新規作成したギルド証明書を発行してくれた。
「ほほう、これがギルドカードというやつですか?」
「はい。ハク様は初めての登録となりますので、まずはGランクからのスタートとなります。ランクはGからSSランク、いわゆるマスターランクまでの九段階があり、昇級資格を満たすことでランクアップすることが可能です」
「ふむふむ、なるほど」
「昇級に関する細かな内容は、後ほどそちらの掲示板にて確認いただければと思います。またそれとは別に、ランクに応じた依頼可能期間というものがございまして、Gランクであれば一ヶ月に最低一依頼以上、クエストをこなしていただく必要がございます」
「ほう。ちなみに期間を過ぎてしまった場合はどうなるのですか?」
「その場合は一旦ギルド資格が停止となり、再度クエストを受注いただくためにはカードを再発行していただく必要がございます。その際には再度発行手数料が必要となりますのでご注意ください♪」
銀貨3枚とはいえ、今の俺たちにとっては大金だ。これはしっかり覚えておかなくてはと頭を擦った俺は、「他にも注意事項はありますか?」と確認する。
「基本的に、クエストの受注はそちらの掲示板に貼り出された用紙を窓口へ提出いただき、承認されることで正式に受注契約完了となります。またクエストの終了・報告につきましても、こちら窓口で受け付けております。完了条件に関しましては、それぞれ用紙に記入されておりますので個別にご確認ください」
「ふむふむ。ちなみにGランクで受けられるクエストは、Gランクのものだけでしょうか?」
「基本はご自身のランクの一つ上のものまでとなりますが、同行する冒険者の方やクランのランクに応じて多少の憂慮がございます。簡単に言ってしまうと、一緒に出かける冒険者様のランクが高ければ、受注できるクエストのランクも上がるって感じですね」
理解もしてないのにふむふむ頷いているポンチョの頭を撫でながら、ローリエさんがフフフと微笑む。大まかな概要はわかったかなと足りない頭に情報を刷り込んだ俺は、「もう聞き忘れたことはないかな」と確認してみる。
「それでは一つだけ追加の情報を。稀に緊急クエストといって、近郊ギルドより強制の案件が回ってくることがございます。その際は申し訳ございませんが、実施いただいている案件を後回しにしていただき、緊急の案件を実施いただければと存じます。……ただ、通常は高ランク冒険者の方々だけに発生するものですから、あまり気にしていただく必要はないかと思います!」
「そんなのもあるんですね。あれ、でも緊急クエストの通知って、そんなのどうやってわかるんですか?」
「それはこちらのカードが直接クエスト発生を音で知らせてくれます。なお通知を無視した場合、状況に応じてランクダウンの処置などペナルティが発生する場合もございますのでご注意を」
「わっかりました。ではひとまず、Gランクのクエストを受けてみたいと思います!」