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第067話 ある女性の咆哮


 ハウスや畑で仕事していた面々が表へ飛び出し、「なんだなんだ」と声を上げている。早朝の爆音は一瞬にして村中を巡り、目を覚ました面々が一斉に飛び出してきた。何が起こったんだ!?


「はーい、みなさん落ち着いて。まずは慌てず騒がずいきましょうね。トゲトゲさんからはなんの連絡も受けてませんので、外からの攻撃ではないはずです。だけど警戒することは必要だから、まずは女性と子供たちをすぐ避難できるよう準備してくれるかな。俺は爆発の原因を見てくるから」


 どうしたどうしたと不安を口にする村人をなだめ、爆発音が聞こえた方角を見つめる。「さっきの音は何!?」と飛んできたマーロンさんと合流した俺は、「朝から勘弁してほしいなぁ」とボヤきながら音の発信源である森の中へと向かった。


 畑の脇を抜け、日当たりが悪い入り組んだ一角に入ったところ、そこにどこか見覚えのある光景が広がっていた。そこには自宅近くに建っていたはずの『ハウス』が置かれており、俺は意味がわからず首を捻った。


「はて、あれはついさっき見た俺の元作業場だったハウスの気がするのですが……?」


「そうだね。私もさっきリッケさんのチームが使ってるのを見たから間違いないよ」


「ええと、じゃあこれは……?」


「さぁ……? と、とにかく中を見てみましょう」


 俺はひとまずマーロンさんをその場に待機してもらい、入口の隙間から中を覗き込んだ。しかし隙間からは恐ろしいほどの蒸気が吹き出しており、思わず顔を引いてしまった。「なんだこれ」と改めてハウスの周辺を見てみると、自分がいる反対側の側面が激しく損傷しているようだった。俺はハウスの壁に穴を開け、蒸気を外へ逃しつつ覗き込んだ。すると中ではハウスを埋め尽くすほどの植物が密集して茂っており、俺は理解不能に陥り困惑するしかない。


「もしかして、育ててた何かがハウスを突き破って爆発したってこと? でもなんだってこんな……」


 ハウスを埋め尽くしていた植物は、見たことがないほど巨大な葉を茂らせ、しかもその幹は森の木々を思わせるほど太く頑丈に見える。さらには広がった枝葉までもが異常生育しており、ハウスの天井付近まで青々とした空間が広がっていた。


「誰がこんなものを……?」


 しばし俺とマーロンさんが中の様子を窺いながら戸惑っていると、背後からトタトタという足音が聞こえてきた。さらには「エライコッチャ、エライコッチャ」という悲鳴のようなものも。

 声の主は真っ直ぐこちらへやってきて、ハウスの様子をひと目見るなり「もあああああぁ!」と悲鳴のような声を上げた。


「あれ……? マルさん?」


「なにこれ~、なんなの~!? おいらの畑が()()()()だぉ~!!? 誰の仕業なの~(大泣)」


 号泣しながら飛び込んできたのはハウスの管理をお願いしていたマルさんだった。おんおん泣きながら中を覗いた彼は、ひとしきり中の植物を見つめて泣き腫らしてから、なにやら様子がおかしいことに気付いてピタリと泣き止んだ。


「それにしたって、なんだかおかしいんだな。このでっかいでっかい木ぃは、一体なんなんだな?」


 と、俺に聞かれましても……

 マルさんは目の前で生い茂っている怪しい植物を見上げながら、「これ、なんなんだな?」と何度も聞いてくる。だから知らんて。


「それよりマルさん、この施設はなんなんです? ハウスはいつもの場所に建ってた気がするんだけど」


「ハ、ハゥッ!? そ、そういえばハク様に報告するのを忘れてたんだな……。おいらたちね、ピルピル草の育成状況を比べるためにね、もとの場所とは別にね、幾つか新しいハウスを作ったんだな。ここは新しい肥料と環境を試すためにこしらえたんだけどね……。こんなものね、植えた覚えがないんだな」


 あまりにも立派な幹を指で叩いてみる。

 立派なわりにコンコンと響くような音がして、中が空洞に近いことがわかる。耳をつけてみれば、ゴォォォという水を吸い上げているような音が響いており、今この瞬間も成長し続けているのを窺わせる。


「この森に自生している固有植物かなにかだろうか。マーロンさん、悪いけどリッケさんを呼んできてもらえるかな。大至急!」


 ぶっ続けで仕事していたのだろう。白目剥いて倒れていたというリッケさんを担いできたマーロンさんは、ハウス前で彼女を下ろすなり顔に水をぶっかけ、「リッケさん、緊急事態です!」と耳元で叫んだ。「ハガッ!?」とゾンビのように飛び起きた彼女は、俺、マルさん、そして怪しくそびえ立つ大木を順々に見つめてから、「ん~?」と首を傾けた。


「疲れてるとこ悪いんですが、これを見ていただけますか。ピルピル草を育てていたハウスの中に、急にこの大木が現れたらしいんですが」


 リッケさんは現在進行系で伸び続けているおかしな樹木を見上げ、「あああああああ」と放心したように口走りながら、しばし呆然としたのち、突如「はへっ!?」と奇っ怪な声を上げ、今度は徐ろにハウス内の地面を掘り始めた。


「リッケさん、急にどうしたんです?」


「ちょっとハクさん、貴方も手伝って!?」


 言われるまま地面を掘った俺は、中から出てきた木の根を少し折って彼女に手渡した。それを四方八方から眺め見たあと、滲み出した樹液をぺろりと舐めた彼女は、「ヌアッ!!?」と急な大声を張り上げながら尻もちをつく。


「ちょ、ちょっとリッケさん。さっきから『ハウッ』とか『ヌアッ』とか、一人で大騒ぎですけど。最近ちょっと働き過ぎじゃありませんか? 少し休んだ方が……」


 そう言って肩を貸したマーロンさんの両頬をガっと掴み、フガフガ鼻息荒く顔を近付けたリッケさん。どうやら何か言いたげな様子だけど、頭が混乱して言葉が出てこないらしい。本当に大丈夫か、この人……。


「ハボブデバッ!? パパピピピ!」


「ぱぴぴ? なんですか、少し落ち着いてください」


「おち、おち、おち、おちついていられますかこれが!? ピ、ピピ」


 マーロンさんの顔面を手のひらでこねくり回したリッケさんは、彼女をポンと押しのけると、今度は巨大な植物にしがみついた。そして肌感や樹木の表面についている模様を確認しながら、今にも目が飛び出しそうな表情で叫んだのだった。


「ぴ……」


『ぴ?』


「ぴ…………」


『ぴ?』




「「 ピルピル草じゃねぇかよ、コレ!? 」」



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