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元チート級暗殺者のもこもこ村開拓記 ~すでに2度死んでる最強の殺し屋ですが、新たな人生はもふもふケモナーさんに囲まれた優雅で静かなスローライフを送りたい!  作者: THE TAKE
第2章 ピルピル草栽培開始!

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第058話 ある者の懺悔


    ★ ☆ ★ ☆ 



 多くの生き物が眠(ねむ)りにつく夜半(やはん)過ぎ。

 しかしある者は、わざわざその時間に目を覚まし、行動を開始する。

 誰(だれ)もいない夜の森を、ただひたすら静かに、音も立てず歩く者がいる。


 野生というものは、本当に面白(おもしろ)い。

 一度明確に良いと感じたものを忘(わす)れることなく、再度明確に繰(く)り返(かえ)そうとする。

 それは知恵(ちえ)ある者ほど忠実(ちゅうじつ)に、再現性を模索(もさく)したうえで再び実行しようとするものだ。


 当然それは、あの夜あのゲージを訪(おとず)れた者にも言えることだ。

 あの夜、一体の野生が触(ふ)れた非日常は、

 その者にとって、あまりにも甘酸(あまず)っぱい経験だったのだから……



 クンカクンカと鼻を鳴らす彼(かれ)は、あの夜と同じ匂(にお)いをまた感じ取った。

 自分だけがわかるあ(・)の(・)独(・)特(・)の(・)匂(・)い(・)が、鼻の奥(おく)にある嗅(きゅう)細胞(さいぼう)に反応し、身体を突(つ)き動(うご)かす。本能に抗(あらが)うことは難(むずか)しく、彼(かれ)の身体はまたひとりでに、野山を駆(か)け回(まわ)っていた。


 二山先からでも匂(にお)い立(た)つ、あの芳醇(ほうじゅん)な香(かお)り。

 いつもは一ヶ所に留(とど)まることなく、恐(おそ)ろしい速度で跳(は)ね回(まわ)り続けるア(・)イ(・)ツ(・)なのに、ただ成す術もなく、身動きすら封(ふう)じられ、同じ箱(ばしょ)に留(とど)まっている。それは素早(すばや)く動けない彼(かれ)にとって、思ってもいない好機、絶好のチャンスだった。


 地面の感触(かんしょく)を確かめるよう一歩一歩確実に歩みを進めるその性格は、実直そのもの。なんの迷いもなく、ただ目的のためだけに、ゆっさゆっさと揺(ゆ)らした身体は大胆不敵(だいたんふてき)。しかしその存在(そんざい)を闇(やみ)に紛(まぎ)らせながら、不敵に目だけを輝(かがや)かせている。


 開けた空間が目の前に。

 彼(かれ)は周囲を警戒(けいかい)し、敵がいないかを確かめた。

 ここで捕(つか)まってしまえば、あの濃厚(のうこう)な匂(にお)いを近くで感じることはできなくなってしまう。

 絶対に失敗することはできないと、緊張(きんちょう)しながら息を飲む。


 目的の場所は、怪(あや)しい建物が並(なら)んだ一角の外れにある。森と建物の境に建てられた、小さなカゴの中だ。暗闇(くらやみ)でも利(き)く目と鼻が、明確にあそこだと伝えていた。カサカサと動くあ(・)の(・)生(・)き(・)物(・)の息吹(いぶき)と、お尻(しり)の先から分泌(ぶんぴつ)している甘(あま)い液の匂(にお)いが鼻の奥(おく)を柔(やわ)らかにくすぐっている。居ても立っても居られずバリバリと腹(はら)を掻(か)きながら、彼(かれ)はいよいよ動き出した。


 周囲に人影(ひとかげ)は……、ない。

 モンスターや、生物の匂(にお)いもしない。


 風下に身を隠(かく)しながら、彼(かれ)は重たい腰(こし)を上げ、次の影(かげ)元へと移動する。絶対に足音を立てぬよう、そして絶対に一処(ひとところ)に留(とど)まらぬよう、自分にできる全速力で向かうのだ。


 もう少し、あともう少し。

 もう少しで、あのとろけてしまうほど香(かお)り高(たか)く、芳(かんば)しい旋律(せんりつ)の一節が自らの手に。ハフハフ口を動かさずにはいられない。ぐるぐる胃を動かさずにはいられない。脳(のう)を巡(めぐ)らせ想像せずにはいられない!


 意を決して、彼(かれ)は最後の角を曲がった。

 この先にア(・)レ(・)がある。

 愛(いと)しい彼女(かのじょ)に会うように、一歩一歩確実に歩みを進めた彼(かれ)は、あの夜と同じように、グッと伸(の)ばした震(ふる)える指先でゲージの端(はし)を握(にぎ)った。そしてさらに力を込(こ)め、愛(いと)しき彼(かれ)らの姿(すがた)を拝(おが)むのだ。


 それは、無数に燦(きら)めくダイヤモンド。

 それとも俄(にわか)に輝(かがや)くサファイアか。

 焦(あせ)る両足が地面を離(はな)れて空転し、何もない空気の壁(かべ)を蹴(け)ってしまう。

 もはや自分の欲求(よっきゅう)を止めるものはどこにもいない!


 しかし興奮(こうふん)の坩堝(るつぼ)に達したとき。

 そんなときが生物にとって、最も危険(きけん)なタイミングとなり得るのだ。

 彼(かれ)がゲージを覗(のぞ)き込(こ)んでテンション最高潮(さいこうちょう)爆(ばく)上がり!

 ……となったその瞬間(しゅんかん)、誰(だれ)かが彼(かれ)の肩(かた)をトントンと叩(たた)いた。



「泥棒(どろぼう)は犯罪ですよ……」、と。



 急転直下、彼(かれ)は慌(あわ)てふためいた。

 肩(かた)を叩(たた)いた何者かは、光源(こうげん)を自らの顔へ向け、まるでバケモノかのような笑(え)みを浮(う)かべている。


 永遠に思えるほどフフフフフフと「フ」を繰(く)り返(かえ)したそのバケモノは、

 ギンギンに見開いた化け猫(ねこ)のような眼(め)を押(お)し出(だ)し、

 舐(な)めるように彼(かれ)のことを見つめている!


 顔、そして身体、指先、手、足、そして最後にまた顔、と。

 そしてバケモノは、細い指先をゆらりと動かし、彼(かれ)の鼻先にちょんと触(ふ)れ、「く、くくく、フヒヒヒヒヒヒヒヒャヒャヒャ!」と、壊(こわ)れたように笑い始めるではないか!


 硬直(こうちょく)する全身の筋肉(きんにく)。

 これが恐怖(きょうふ)に支配されたものの末路か!?


 あれだけ楽しみにしていた匂(にお)いすら感じなくなり、抵抗(ていこう)する気力はもう浮(う)かばない。

 蛇(へび)に睨(にら)まれた蛙(かえる)とはこのことで、見上げた先でチロチロと動いている敵の舌先が、今にも自分を食い殺さんとしているようで、彼(かれ)は思わずぽすんと尻(しり)もちをついてしまった。


「可哀想(かわいそう)に、そんなに怯(おび)えてしまって。さぁ、どうしてくれようか、泥棒(どろぼう)さん?」


 ヌッと伸(の)びるように広がる影(かげ)。

 驚嘆(きょうたん)し、見上げたバケモノの姿(すがた)は、彼(かれ)の身の丈(たけ)の三倍はあるだろうか。


 長い髪(かみ)を振(ふ)り乱(みだ)し、ヒヒヒと繰(く)り返(かえ)す耳障(みみざわ)りな笑(え)みに加え、手にした鋭利(えいり)な物体はバケモノの武器だろうか。荒(あら)くなっていく呼吸(こきゅう)を止められず、彼(かれ)は仰向(あおむ)けに仰(の)け反(ぞ)り、ついには倒(たお)れてしまった。


 このまま腹(はら)を貫(つらぬ)かれ、串刺(くしざ)しにされる。

 彼(かれ)は自分の不幸な未来を想像してしまった。


 しかしそれもこれも、自身が招いたものだ。

 自分は虎(とら)の尾(お)を踏(ふ)んでしまったのだ。

 絶対に踏(ふ)み越(こ)えてはならぬ領域(りょういき)に、足を踏(ふ)み入(い)れてしまったのだ、と。


 いよいよ覚悟(かくご)した彼(かれ)は、そっと目を閉(と)じた。

 背後(はいご)に光源(こうげん)を背負(せお)ったバケモノに見下され、成す術もないままに――




「……って、怯(おび)えきってるじゃないですかリッケさん。そんなに虐(いじ)めるものじゃないですよ、……意地悪だなぁ」


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