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第045話 大書庫のリッケさん


「あれ、第一章 完って……。この続きはないんですか?」


「残念ながら持っておらぬのです。私自身、そもそもこれは本当に蟻なのか? と疑ってしまい、最後まで読む気にならなかったのです」


 なにそれ、蟻じゃないこと知ってたんかい!

 だったらどうしてこんなもの見せたんだよ、とんだ時間の無駄じゃないか!!


「は、はは、それだとあまり参考にはならないかもしれませんね。ちなみに、この本の言う『彼ら』って誰なんですか?」


「申し訳ない、私は知らんのです。ただ『マイルネの大書庫』であれば、それと同じ書物が置かれているはず。一度書庫へ出向き、資料など探ってみてはいかがでしょう?」


 なるほど、言われてみればその手があった。

 ならば善は急げだと、俺たちは朝ご飯を食べ終わるなり、族長に礼を言い、マイルネの町を訪れた。しかし村の人々は誰も大書庫の場所を知らなかったため、これまでの挨拶を兼ねて冒険者ギルドで聞いてみることにした。


「お久しぶりです、ローリエさんいらっしゃいますか?」


 窓口で挨拶するとすぐに、奥からニッコニコのローリエさんが現れた。ですが……、うわ、なんだか嫌な予感が。


「お久しぶりです~、ハクさんに猫族のマーロンさん。随分と、お久しぶりですこと~」


 これは怒ってる、怒ってる気がする!

 笑顔の下から怒りが漏れ出してますけど!!?


「す、すみません、近頃ずっと忙しくて、冒険者活動が(おろそ)かになっておりまして……」


「いえいえ、構わないんですよぉ。ハクさんはまだまだEランクになったばかりの冒険者様ですし、大した仕事もできないでしょうしね~?」


 すっごい言葉のトゲだ……。

 あと言葉にはしていないけど、俺の存在を口実にマーロンさんがギルドの呼び出しを渋りまくっているのもきっと理由に違いない。


「は、ははは、力不足ですみません。村の農作物の管理の方が忙しくて、なかなか冒険者やってる時間が取れませんで」


「そうでなくてもお二人はマスターに疑われてるんですから、ちゃんとご対応いただかないと困ります。適当なことをしていると、そのうち討伐対象にされちゃったりして?」


 ローリエさん、目が笑ってない!

 マーロンさんともども、平謝りするしかありません。


「それはそうとして、本日はどのようなご要件で?」


 そ、そうでした!

 俺は族長に借りた文献をローリエさんにお渡しし、「町の大書庫がどこにあるか知りたいんです」と質問した。


「な~んだ、クエストを受けにきてくれたわけじゃないんですね。ガッカリ」


 露骨に嫌な顔だ!

 しかしお客を無碍にできない性格の良さが滲み出てしまい、わざわざ町の地図を取り出し、嫌そうな顔のまま教えてくれた。


「大書庫は町の北側、行政区の外れにございます。きっとこの本の続きもあるかと。もし続きが見つかって、時間に余裕がございましたら、是非当ギルドのクエストもよろしくどうぞお願いいたします!」


 無言の圧を背中に感じながらギルドを出た俺たちは、彼女に教わった地図を頼りに大書庫を訪れた。

 マイルネの北側にはこれまであまり用がなかったため足を運ぶことがなかったが、真面目な身なりというか、キッチリした様子の人々が多く、トゲトゲさんやポンチョを連れた俺たちは場違い感が否めなかった。それを気にしたのか、マーロンさんは足早に俺の手を引き、さっさと書庫の扉を開けるのだった。


「あの……、どなたかいらっしゃいますか……?」


 いわゆるゴシック建築調の厳かな扉の先は、大量の棚が立ち並び、見るも荘厳な風景が広がっていた。ボーッと見入ってしまった俺をよそに、「どうしましたか?」と声をかけてくれた女性は、雰囲気に飲まれてあたふたしているマーロンさんに笑顔で会釈した。


「当書庫は初めてですか? 紹介が遅れました、わたくしこちらで案内人を務めております、リッケ・トラガノーブルと申します」


「あ、私はマーロンといいます、よろしくお願いしましゅ!」


 マーロンさん緊張してる。

 こういうとこ苦手なんだね……


 純白の白衣をまとい、青色の美しい長髪を(なび)かせた女性は、右目だけに付けた丸メガネの角度を調節しながら、200点満点の笑顔を浮かべながら言った。


「ウフフ、こちらこそお願いいたします。それで、本日はどのようなご用件でしょうか?」


「あの、この本の続きが知りたくって」


「この本と申しますと……、こちらですか」


 彼女から本を受け取ったリッケさんは、パラパラと数ページ確認するなり「こちらです」と俺たちを案内してくれた。「そんな一瞬でわかるの?」と驚愕する俺の心配をよそに、巨大な棚の前で足を止めた彼女は、大きな梯子を不器用に立てかけて登るなり、俺たちが渡した本とはまるで異なる二倍はありそうな一冊を手渡してくれた。


「えっと、これは?」


「先程のものの原書となります。元は一遍の記録書となっておりまして、こちらではさらに詳細な記録までご覧いただけますよ」


 と、にこやかな笑顔でおもてなし。

 書庫に入ってからここまでにかかった時間は僅か二分。この人、有能すぎません!?


 俺たちはリッケさんに礼を言い、ひとまず本を読んでみることにした。前後編に分かれていた物語調だった文章はどうやら別人がまとめたものだったらしく、さらに堅い表現で中身が記されていた。


 ただし俺たちが知りたいのは蟻の情報だけだ。さっさとページを飛ばし、該当のページを探してみる。しかし『蟻』という表現はとんと見つからず、最後のページまでそれらしい話が出てくることはなかった。

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