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第043話 前途多難!


   ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「それでトゲトゲさんや。俺たちはまず何を見つければよいのかね?」


 小型擬態したまま夜の守護を兼ねて前を歩くトゲトゲさんは、マーロンさんを通して俺たちに説明してくれた。


「ええとね、トゲトゲさんが言うには、その生き物は小さな小さな魔物なんだって。しかもその魔物は地面の下に住んでるみたいで、天気の良い夜にしか出てこなくて、しかも暖かい昼間の時間帯には一切見かけないんだとか」


「な、なんですか、そのわがままな生態……。まるでウチのモコモコさんみたいじゃないですか。ね~、ポンチョさん?」


 頭の上にいるモフモフさんは、晩ごはんをお腹いっぱい食べて当然のように寝ておりますから、もちろんガン無視中のガン無視ですよ。残念!


「なら具体的にどこを探せばいいんでしょうね。そもそも本来のトゲトゲさんから見ると、俺たちですら小さな小さな生き物なわけで、サイズ感でいうとどれくらいなの?」


「えっとね、サイズ的にはポンチョの爪くらいの大きさだって」


 頭からポンチョを降ろし、ちょっとばかし指先を拝借。まぁまぁ小さなおテテだこと。

 爪は……、一番大きくて1センチ弱ってところかな。


「驚いた、本当に小さいな」


「だね、でもこの森にそんな小さな魔物がいるの?」


 するとトゲトゲさんは、不意に巨大化し始め、森の隙間にその巨大な肉体を伸ばしていった。いつ見てもギャップがありすぎて変な感じと苦笑いを浮かべたマーロンさんを尻目に、周囲を触手を使って確認しつつ、それはそれは不気味で巨大な顔を俺の真横に横付けしながら伝えてくれた。


「ボギョバギャドギョゴギャガボゲー」


 うんうん、わかりません(笑)。

 しかしどうにか聞き取ってくれたマーロンさんが、「あっちだって」と俺を先導してくれた。やはり持つべきは優秀な相棒さんですね!


「凄いスピードで東に移動してるって。ねぇトア、私のことはいいから、トアだけでも先に行って正体を見てきてよ!」


「俺だけ先行したってトゲトゲさんの言葉がわかんないからどうにもならないよ。それよりいい方法がある」


「え?」と言ったマーロンさんを抱えた俺は、慌てふためく彼女をお姫様抱っこしたまま森の木々を足場に上空へと飛び上がった。先導するように尻尾で方向を指示してくれる我が従者に導かれるまま、夜の森を駆けた俺たちは、いよいよ追いついたらしき何者かの後方へ音もなく着地する。


 10時の方向、約20メートル先。

 そこに大量の何かが(うごめ)いている!


 一歩一歩踏み込むうち、周囲の熱が上がっていくのがわかった。ギュイギュイと何かを踏みしめるような音が漆黒の森を抜けていく。さらに数秒後、いよいよ足の踏み場なく広がったその『黒い絨毯』は、枯れ木と落ち葉で覆い尽くされた地面を、超スピードで、そこに存在していた何もかもを食い荒らしながら進んでいくではないか。


「これは……、蟻か!?」


 一匹ごとのサイズは確かに五ミリ前後。しかしその数は想像を絶するほど多く、直径約10メートルほどの玉状になり、恐ろしい速度で森を走り抜けていく。その様は異形のバケモノのようでもあり、一見しただけではその正体が蟻であることを想像することすらできない。


「これはこれは……。地面に落ちた葉っぱや木の枝なんかを一瞬で食い尽くしながら進んでるな。なるほど、コイツらはきっと、この森の『掃除屋』なんだな」


 森の循環に必要な生き物は無数に存在している。しかしそのシステムについて、俺たち人は何も知らないに等しい。この蟻一匹の生態にしたって、俺たちは何も知らないどころか、その存在意義すら見いだせてはいないのかもしれない……


「ちょっとトア!? これどうするつもりなの!? いつまでこうしてるつもりなのよー!?」


 恥ずかしそうに俺の顔を遠ざけながら暴れる彼女に「少しだけ我慢して」と前置きしてから蟻玉の前方に先回りした俺は、迫りくる蟻に向けて睡眠(スリーブ)の魔法を放った。しかし左右鋭角に方向を変える蟻は、右、左、上、下と方向転換したかと思えば、今度は勢いよく地面に潜ってしまった。


 巨大な穴とともに姿を消した蟻たちの足音が遠ざかっていく。底すら見えないほどの穴を覗き込んだ俺たちは、「う~む」と頭を抱え、途方に暮れるしかない。


 よくよく考えてみれば、相手の正体がわかったところで、彼らにどう働いてもらうかを一切考えていなかった。そもそも小さな蟻たちをどのようにして村の畑へ誘導し、どう受粉の手伝いをしてもらうのか。そもそもの部分がハッキリしていなかった。


 トゲトゲさんに聞いてみても、残念ながらその先の答えを持っているはずがない。何よりトゲトゲさんは、彼らが超スピードで移動を繰り返す中、なぜかピルピル草を食い荒らすことなく素通りしていたことに気付いただけで、それ以上の知識など持っていないのだから――


「相手が一匹のモンスターなら対処もできるけど、大量の蟻となると困っちゃうなぁ。使役しようにも、どれを使役すればいいかわからないし、さすがにあれと対話するってのもね……」


 マーロンさんも首を横に振った。

 彼女たちも蟻との対話は経験がないらしく、そもそも言語が通じるかどうかも怪しいという。


「確かにあのスピードで受粉作業ができたなら、恐ろしい速さで作業は進むだろうけど……。う~ん、無謀な気がしない?」


 小型化して戻ってきたトゲトゲさんともども、

 全員が口を真一文字に結び、言葉を失った。



 これはこれは……

 前途多難である!!


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