第035話 爆散
う~ん、やっぱり余計な疑念をもたれてしまった……。
マーロンさんも少し調子に乗りすぎて悪ノリしたせいで、身も蓋もなくあたふたしちゃってるよ!
「そ、そのようなつもりはございません。我らはここで森に諍いが起きぬよう、ボアたちと共闘し森を抑えているにすぎませぬ。マーロンよ、少々戯れがすぎるぞ。お前はもう下がっていなさい」
慌てて族長が助け舟を出すが、テーブルの顔は全く笑っておらず、緊張感も高いままだ。これはいけない!
「まぁ皆さん、互いに険悪になさっていても話は進みませんし……。どうでしょう、そろそろお腹も空く頃ですし、皆さんでお食事でもいかがですか?」
強引に話を切り上げた俺は、足踏みしている視察団の背中を押し、俺の村に新しく用意した客室(※来客用に使える宿代わりの建物を作ってもらった)に招き入れ、猫族の皆さんに準備していただいた料理を出し、彼らをもてなした。さすがに手を付けず様子を窺うばかりだった視察団を横目に、なぜか横並びで座っているポンチョが、我慢ならずに手掴みで料理にパクついた。
「ポンチョ、これ好き~♡」
妙なテンションで料理をがっつくポンチョの頭を撫でながら、「どうぞ皆さんも」と提案してみる。すると意を決したように、ローリエさんが先陣を切り、料理を一口 口にした。
「え……、なにこれ、美味しい!?」
あまりの美味さに驚いたのか、次々と手が止まらない様子のローリエさん。
どうやら毒は盛られていないと安堵したのか、他の冒険者たちも同じように料理を口にした。すると全員がその美味さに驚愕し、「なんなのだこれは!?」と口々に騒ぎ立てた。
「マーロンさん、この料理はなんですか!? 見た目はコリツノイモを使った料理かと思ったのですが、私たちが知っているそれとは味も風味も何もかもが違ってます。なんなんですか、これ!?」
お、わかってるねぇローリエさん、ふふふ。
みんなも黙ってるけど、料理を褒められて猫族の皆さんもどこか誇らしげだ!
「お察しのとおり、そちらはコリツノイモを使った料理です。どうです、美味しいでしょう?」
「これがコリツノイモ!? そんなはずありません、これほど甘くて口当たりが良いなんて、絶対に違います。そんなの私にだってわかるんですからね!?」
しかし疑って信じないローリエさんは、騙されませんよとぷくっと頬を膨らませてご立腹の様子。では仕方がありませんね。次はアレを持って参れ!
マーロンさんが仲間に目配せし、次は原型を残したまま熱され、ホカホカに焼き上げられた『コリツノイモの丸焼き』が運ばれてくる。見た目がまんまであるため、馬鹿にしないでくれとローリエさんが怒りを露わにする。
「今度はそうやって私たちを騙すんですね。コリツノイモなんて、スジスジしてるし味も薄いし、そのままじゃ食べられたものじゃないんですから! …………あれ、でもどうしてだろう。凄くいい匂いが」
フッフッフと俺たち全員の顔から薄っすらと笑みが溢れてしまう。
そう……!
皆さんの目の前にあるそれは、我々が作りし至高の一品。最も糖度の高い物を選別し、しかもそいつを熟成させ、もっとも糖度が高められる温度でゆっくりじっくりと焼き上げた、至極のコリツノイモなのですよ!
そして皆々を導くように、我が心の師であるポンチョさんが、最初の一手でむんずとイモを掴んだ。そして一瞬の躊躇もなく、それを大きなお口に運んで…… 食べたー!
「あま~い。ポンチョ、これ好きぃ~♪」
恐ろしい説得力である。
見よ、このトロけきったバカ顔を。どこに嘘などあろうものか。
居ても立っても居られず、ローリエさんが最初の一口を放り込んだ。するとどうだ、まるでポンチョがしていたようにトロンと表情が柔らかくなり、「ふわぁぁ」と情けない声が漏れているではないか。そしてイモがなくなるまで一切止まらない手。ヨシヨシ、狙い通り!
「美味しい、美味しすぎる……。なんなのよこれ、こんなのコリツノイモじゃない、美味しすぎるぅぅ……」
いや、もう泣いてるし……。
ローリエさん、ストレス溜めすぎなんじゃないっすかね。逆に心配になっちゃうよ。
彼女の美味しそうな姿に導かれ、他の冒険者たちもイモを口にするなり、その甘さや芳醇な香りに驚きの声を上げた。一連の過程をずっと難しい顔で見ていたテーブルでさえ、それを一口 口にするや否や、驚きを隠せない様子だった。
「バ、馬鹿な……。これがコリツノイモだと? なんの冗談だ」
「フン、ポンチョ、これ毎日食べてる✨。凄い?」
ふふんとポンチョが自慢気にテーブルの肩を叩いている。こらこらモコモコさん、そんなことよりベトベトの口を早く拭きなさい。
「良かったです、皆様のお口にもあったようで」
するとそこで、マーロンさんが不敵に微笑んだ。
いや、ですからね……
そんな意味ありげな笑みを浮かべちゃったら、もの凄~く感じが悪いじゃありませんか……
「しかし……、解せませんな。なぜこのような物を我々に? どうにもそちら様の思惑が読めんのですが」
いやいや、歓迎の証に決まってるじゃないですかと俺がフォローするより先に、マーロンさんが「くくく」と冷笑を浮かべる。そして宣言してしまうのです。まざまざと我らの凄さをアピールするかのように!!
「これは我々がボアたちのために生み出した奇跡の産物。どうです、ご満足いただけましたか?」
彼女の一言に驚き、ガタンと椅子を倒し、テーブルが立ち上がった。「ボアの、餌……?」と驚愕した表情で一点を見つめる我らがギルドマスター……。
いやその一言、絶対変な勘違いさせちゃってますけど。大丈夫ですか、マーロンさん!?
「な、なるほど。これくらいの食べ物は、貴方がた猫族にとってはボアの餌程度でしかない、と。……しかも奴らの腹を満たせるほどコレを量産することが可能で、かつ我々町の人間が日頃口にしている食事のレベルなど、ボアたちが食べている物以下だと、そう言いたいわけか」
ほら~、また妙なこと言い出したよ!?
マーロンさん、極度の緊張のせいで、妙なアドリブが良からぬ方向に脱線しすぎてますからー!
「て、テーブル殿、我々に、そ、そのような意図はございません。これは近頃、我々がボアたちの餌不足を解決するため用意した『ハクイモ』という新たな品種で、本当に自慢の逸品なのです。それを皆様にもご覧いただきたかっただけで、ですよね、ハク殿!?」
助け舟のつもりか、慌てて族長が割って入った。
彼が「ですよね?」と聞くため皆さんの視線が激しくコチラを向いておりますが、そんなことよりも少々気になる単語があったんですが……。
ハクイモ?
なんすかそれ? ……ハク?
「え? ……え、ええと。はい?」
「そう、そうなのです! 言い忘れておりましたが、ハク殿には我らの新たなるイモ造りをお手伝いいただいているのです。そうだな、マーロンよ!?」
「そうでございます。この『ハクイモ』は、我が村とハク殿が協力し、ようやく生み出した奇跡の食材。そこいらの腰抜けが口にすれば、立ちどころに爆散してしまうことだろう!」
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