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元常闇暗殺者のふわもこ村開拓記 ~2度死んだ最強の殺し屋ですが、次の人生は森の奥地でモフモフさんたちに囲まれた静かなスローライフを送りたい!  作者: THE TAKE
序章 解放と再スタート

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第003話 新たな一歩



   ◇◆◇◆◇◆



 先人(いわ)く、そこは呪われた(まち)なのだという。

 ほかならぬ俺もそうだと感じている。



 人を人と思わず、殺し、奪い、凌辱(りょうじょく)する。

 この世の所行(しょぎょう)とは思えぬような場面を、俺自身数え切れぬほどこの目で見てきた。たとえそれを実行したのが俺だったとしても、あえて言う。あそこは『地獄の一丁目一番地』だったと。



 足りないものは奪えばいい。欲しいものは奪え。何もかも奪え。

 エルズマート王の方針はいつも単純明白だ。


 限界まで(きた)え上げた兵と、厳選された最新式の魔道具。加えて太古の技術として今なお残る大魔法を駆使した軍事力。文字どおり軍備の幅は凄まじく、他国にとっては脅威でしかない。ましてやそれが無法者国家となればなおさらだ。


 種族、環境すらお構いなし。

 全てを蹂躙(じゅうりん)して他国へ進軍する様は、まさに鬼畜(きちく)という言葉がよく似合う。殺戮(さつりく)略奪(りゃくだつ)生業(なりわい)とし、国土を広げてはまた奪う。踏み荒らした後に残るものはなく、全て吸い付くされ、抜け殻になった(ごみ)だけが残された。


 さらに不幸は連鎖(れんさ)する。

 何よりも問題なのは、奪った側であるエルズマート国の民が幸福でないことだ。

 他国から奪った富の多くは、王族と貴族、そして一部の商人だけが牛耳(ぎゅうじ)り、無関係の民は飢えて死んでいくばかりだった。「卓越(レジェンド)級」と称される優れた能力を持つ者のみが優遇され、新たな戦力として衛兵隊に入ることを許されたが、そうでない者たちは冷遇され、まともに生活することすらできない。身元のない者は、俺のように売られていくか、保証なく飢えて死ぬか、命からがら他国へ流れていくしかない有り様だ。とまぁ、一旦それはそれとして……



「ねぇねぇト~ア、ポンチョお腹へったー! ご飯まだ~?」


「おいおい、さっき食ったばっかだろ。どんな珍プレーだ、このぷにぷに!」


「お腹へった、お腹へった、お腹へったー!」


「うるせぇ。わーったわーった、ひとまずコレでも食っとけ!」


 ひとかけら残っていた干し肉を口へ放り込み、よ~く噛めよと指を立てる。

 嬉しそうに噛みしめている姿は幸福な子供そのもので、俺は「ふぅ」と息をつきながら地図と周囲の景色とを見比べていた。


「ねぇねぇト~ア、ここどこ~?」


「それを確認してんだろ。ったく、ここはどこなんだ。この地図、本当にあってるんだろうな!?」


「あ、とりー! ねぇト~ア、とりー!」


「とりー、じゃねぇよ。ちゃんと獲物(えもの)がいたら知らせろっつったろ。俺たちはこう見えて、食料なし、金なしの浮浪者(ポンコツ)なんだぞ。もう少し緊張感持てよな!」


 なぜか嬉しそうなポンチョを背負った俺は、遠く羽ばたいていく鳥の背中を追って飛び出した。獲物の視覚に入らぬように木々の隙間(すきま)()って真下まで接近し、そのまま姿を消して跳び上がり、真後ろから鳥の首を斬り落とした。


「ったく、無駄走りさせてくれやがって。こちとらまともに飯食ってねぇガス欠なんだぞ」


「ト~アすごーい! ポンチョもトリ見たーい!」


 背中で暴れたポンチョが手を伸ばし、俺の顔にしがみついた。空中で目隠し状態になった俺たちは、そのまま森に落下して地面を転がった。


「いってぇな馬鹿野郎。空中で目隠しする奴がいるか!?」


「アハハハハ! トーア落っこちたー!」


「笑ってる場合か! ったくよぉ」


 そうだった、忘れてた。

 そういえば、まだ笑いながら転げ回っている『コイツ』のことを説明していなかった。


 コイツの名はポンチョ。

 それが本名なのか、それともアダ名なのかは誰も知らない。


 肉親はおらず、俺と同じ天涯孤独(てんがいこどく)の身だ。種族としては恐らくヤブイヌ族の獣人で、黒と灰色の長い毛に全身を(おお)われている。といっても見た目は5、60センチしかない子グマのぬいぐるみそのもので、ピョンとした短い耳、むにむにの短い手足、そしてつぶらな(ひとみ)がチャームポイントだ。俺が言うのもなんだが、さわり心地はモフモフだし、あまりにも可愛(かわい)らしい珍獣である。


 本来ヤブイヌ族は、大人になるにつれて灰色の毛が濃い茶色のものへと抜け替わり、柔らかかった毛質も硬く刺すよう針のようになり、その表情も従来(じゅうらい)獰猛(どうもう)な戦士へと移り変わっていく。が、ポンチョの場合はそれがない。


 というのも、コイツには一つ『大きな問題』があって……

 と、それはもう少しあとにしよう。それより今は、先にすることがあった。


 馬鹿笑いしている珍獣の尻尾を掴んだ俺は、それと同じ持ち方で捕まえた鳥をぶら下げながら、周囲の景色を回し見た。


 そろそろ日が落ちる。

 今夜はここらで夜営にするとしよう。


「ポンチョ、これから寝床を探して飯を作るぞ。お前も手伝え」


「え~、ポンチョ、食べて寝るだけがいい~!」


「働かざる者食うべからずだ。寝る場所の確保と(まき)集め、なにより雨がふせげそうな屋根があればベストだな」


 これまで見えていた星はかげり、雲が空を覆い尽くしていた。そろそろ降ってくるぞとわざとらしく頭を隠した俺は、ポンチョを置いてゆっくり走り出す。置き去りにされたと慌てて追いかけてくるアイツの泣き顔を笑いながら、嘘に決まってるだろと高く放り投げてやる。良いね、これでこそ対等だ!


「最高だなポンチョ、この世界は、最高だ!」


「ポンチョお腹へったー!」


「お前そればっかじゃねぇか。ほかに言うことないのかよ?」


「ハハハー! ポンチョ楽しー!」


 これでいい。これこそ普通の人生だ。

 当たり前に笑い、当たり前に泣き、当たり前に飯を食い、当たり前に寝る。


 そんな当たり前すら叶わなかった20年もの時間を取り戻すように、俺たちは網膜(この目)に映ることすら拒んだエルズマート王国を抜け出し、東の果ての果てへ。地図にある最も東の地を目指して旅に出た。


 誰一人、自分たちのことを知らない場所へ。

 ただそれだけを目的に、俺たちの旅は始まった。


「やべぇ、降ってきた。このままじゃズブぬれだ、急げポンチョ!」


「キャー! 雨こわーい!」


 もう二度と、この幸せな時間を手放しやしない。

 心の底に刻みつけ、俺たちは新たな人生の一歩を踏み出したのだった――


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

もし少しでも面白いと思っていただけましたら、評価やブックマーク等を頂けますと励みになります。

多分ポンチョも喜びます!

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