第203話 違和感
そうして賑やかな食事を終え、しばしの休息をとっているうちにも夜は深まっていった。食べ終わるとすぐに眠ってしまったポンチョを頭に乗せた俺は、マーロンさんとともに後片付けを済ませ、出発の準備を整えていたのだが。
「おいおい、マジかコイツ……」
ひとしきり食べて飲んで騒いだ挙げ句、ネイサンがこれでもかと大の字になって寝ていやがる。ペシペシ頬を叩いてみるが、深く深く飲み込まれたように眠っており、どうやら目を覚ましそうもない。
「自由にも程があるだろ。ったく、しょうがねぇなぁ」
男を担いで馬の背に括り付けた俺たちは、「じゃあ戻りますか」と一路マイルネへと帰ることにする。
ズーピーいびきをかいている間抜け男の腑抜けた面に対して、どこかずっと浮かない顔をしているマーロンさんのことが気掛かりではある。しかし夜遅くまで残業して待機しているローリエさんのイライラ顔が目に浮かび、少しだけ足早に帰路を急ぐのだった。
壁門の衛兵に礼を言い、マイルネの町に入った頃には、随分と夜も深くなっていた。「遅くなっちゃったね」と苦笑いをこぼした俺は、さすがに閉まってるかなと思いながらもギルド本部の扉を叩いた。しかし煌々と焚かれた明かりの中、未だ忙しそうに仕事をしているローリエさんの姿が窓口に見えていた。
「うわぁ、まだ働いてる。……ブラックですね」
「あ、ハクさんにマーロン様。お疲れさまです~」
台座に上半身をぐったり委ねながら手を振ったローリエさんは、どうやら随分とお疲れのご様子。昼間同様、冒険者の姿はまちまちなものの、職員さんたちは夜中も忙しそうに働いています。ご苦労さまです。
「ご注文の品を、お届けに参りましたー(棒)」
「あら本当に採ってきてくれたんですね! 助かります~。ハクさんが納品してくれる素材は高品質のものばかりで、いつも引く手数多なんですよ~」
台に置いた素材の束を強奪するように回収した彼女は、俺たちに背を向けたまま悪徳商人のように中身を確認し、「オホホホ」と誤魔化すように向き直りドスンと布袋を置いた。
「今回の報酬です。お受け取りください♪」
「あ、あはは……、ど、どうも……」
「それにしても、随分と時間がかかりましたね。いつものお二人であれば、もう少しお戻りも早いかと思ったのに」
と言われ、俺とマーロンさんは同時に渋い顔だ。改めてギルド入口に停めていた馬の上からネイサンを降ろした俺は、まだ間抜け面を晒して眠っている大マヌケを窓口前の踊り場に放り投げた。
「アガッ!? イテテテ、……ハッ!? こ、ここは、私はどうなって!!?」
地面に顔をぶつけ、ようやく目を覚ました男がキョロキョロと挙動不審に周りを見回している。そして数秒後、近くで呆れている俺の姿を見つけ、「は、ハク様~」と泣きついてきた。
「ここがどこかは存じ上げませんが、私めをお助けいただいたのですね! ああ、不肖私、ネイサン・マリオネットは、貴方様のお優しきお心遣いに感服するばかり! 一生ついていかせていただきますぅ!」
足にしがみつくネイサンを蹴飛ばしてローリエさんの前に差し出した俺は、「この魔物も買い取ってもらえますか」と単調に言った。
「ハク様!?」と慌てふためきながら自分は人間ですと釈明しているネイサン。それから無の表情をしている俺たちに改めて深々とお辞儀をしながら自己紹介をした。
「私、北はキュリオス王国にて商業ギルド『ホワイトコースト』を営んでおりますネイサン・マリオネットと申します。此度は公国との交易品をお届けするため、こうして直接自ら馳せ参じた次第であります。以後お見知り置きを」
舞台のフィナーレでも演じるよう大袈裟に挨拶したネイサンは、くるりと回ってローリエさんの手を取り、チュッとキスをする。嗚呼コイツ、なんてアレな奴なんだ……。
「は、はぁ……。それで村長さん、その商業ギルドの代表さんを連れてこられて、私たち冒険者ギルドにどのような御用件なのでしょうか?」
「いや、なんだかうるさい奴なので、あとはローリエさんにお任せしようかと」
ローリエさんとネイサンの両方から「はい!?」と声が上がる。しかし俺からしたら、それこそ「はい!?」だ。
「ただでさえ忙しいのに、余計な仕事を押し付けないでくださいよ! ええと、ネイサンさんでしたっけ? あとはそちらのハクさんの方で」
「そ、そうですよハク様! 不肖ネイサン、今後はこの身をハク様のためにお捧げする所存なのですよ!?」
すがりつく男を足蹴にした俺は、これ以上構ってられるかと放り投げ、ピラピラと手を振った。そして騒ぐ二人を強引にギルド内へと押し込み、俺たちはようやく面倒なクエストから解放されたのだった。
「まったく……。なんだって俺たちがこんな目に」
やっと一日のノルマを達成したものの、随分と夜も遅くなってしまった。しかしまだまだやることは山積みだ。
「アナグマ族は見つからないし、サワーさんとも会わなきゃならないし、先が思いやられるよ。ったく」
ひとり呟いてみる。
しかしどうにもならない違和感が……。
「マーロンさん……?」




