第200話 来訪者
彼女の提案に対し、俺は無意識のうちに顔を歪めていた。
サワーといえば、コーレルブリッツ公国の公爵付補佐であり、かつ超やり手なナイスガイだ。恐らくはなんらかのアドバイスをもらえるのだろうが、俺にとっては大きなリスクにもなる。できることなら公国関係者との直接接触は避けたいところだが……。
「サワーさんですか。だけどあの人、凄く忙しそうだし、前に不義理をしてますし、少し会いづらいですね」とマーロンさんが。これ幸いと俺も便乗して、そうなんですと同意する。
「農作物の件? それならあまり気にしなくていいかも。あれからサワ―さんとアスキート商会の間で色々あったみたいだし」
「え゛? な、なんすかその話。聞いてないんですけど……?」
「そりゃそうでしょ。期待していた『おイモさん』が、公国直属のギルドではなく、ソレユラント王国の、それも『クリムゾン・グローリー』に関連するギルドから輸入されてきたんですもの。公国直属ギルドの信用丸潰れってものでしょ?」
「あ、ええと、それは俺たちの口からはなんとも……」
「あれ以来、サワーさんとアスキート商会の関係もギクシャクしてるみたいでね。ハクさんたちも気を付けた方がいいわよ。きっと商会のロベリウスさん、前にも増して村を敵視してるだろうから」
また嫌なフラグを立ててくれるなぁ。
しかし俺の不安などつゆ知らず、マーロンさんが「でしたら」と付け加えた。
「あの……、それなら冒険者ギルド側からサワ―さんに仲介をしていただけませんか。さすがに我々から望み出るのは差し出がましいというか、厚かましすぎるというか」
マ、マジですか?!
俺のことなど関係なく頷いたローリエさんは「いいわよ」と簡単に了承してしまった。おいおい、そんなこと簡単に決めちゃっていいのかよ!
「だったら明日にでも、もう一度ギルドへ来てちょうだい。それまでに話を通しておくから。……ところで二人とも、それまでにちょっと時間ある?」
ほらみろ、すぐにこれだ。
交換条件と言わんばかりに指をクイクイ曲げて俺たちを呼び寄せた彼女は、コショコショと耳打ちするように言った。
「実はね、ここのところ入り用が多すぎて、ポーション系の素材のストックがないの。そこで悪いんだけど、ちょっとそこまで行って薬草なんかを採ってきてもらえないかしら。もちろんお礼はするし、例のアナグマ族? そっちの聞き込みが終わってからでもいいから」
片肘ついてフフ~ンと微笑むローリエさん。
これは一本取られたなと諦めた俺たちは、町中を一通り人探ししたあとならOKですと了承した。
「やった! ここのところ長雨のせいで冒険者がいなくて困ってたの。遅くなっても平気だから、よろしくお願いね~」
ポンチョとハイタッチしてヘラヘラと手を振ったローリエさんに見送られ、それからすぐに俺たちはマイルネの町中でアナグマ族の捜索を開始させた。道行く冒険者や商人、露店の店員などに目撃情報を聞き回り、根気強く探し続けた。しかし日が陰り、やがて人の姿がまばらになっても、俺たちが探す目的の情報はまったくといっていいほど得られなかった。
「まる一日探して情報が一つもないなんて。やっぱり珍しい種族なんですね……」
「う~ん、確かにそうかもね。思えば私も数回しか見たことないかもだし」
「にしても疲れました。ご飯でも食べに行きます?」
「ご飯!? ポンチョお腹減ったー!」
「何言ってるのよ。私たちには、まだギルドのクエストというお仕事が残ってるでしょ? いくら雑用だとしても、一度受けた仕事はきっちりしなきゃダメなんだからね」
俺とポンチョがブーブーとブーイングするも、マーロンさんはさっさと切り替えて準備に余念がない。ホント、どんなときでも真面目なんですから……。
「ポンチョさんや、残念ながらご飯はお預けですね……」
「え~(ショボーン)。ポンチョ、ご飯がいい」
「そのためにもさっさと仕事を終わらせるぞ! よーしモコモコさん、北の平原(※採取地)へ向けて競争だー!」
イヤイヤ走るポンチョの背中を押して北へと向かった俺たちは、隣国とを隔てるように連なる山脈の裾野に広がっている夕暮れの平原で、ポーションの材料になりそうな薬草やら木の実やらを探して回った。とはいえ、鑑定スキル持ちの俺にとっては朝飯前の作業なんですけどね!
平原は魔物の姿も少なく、初級冒険者たちにとっては格好の狩り場で、夜が近付くこの時間でも、チラホラ冒険者の姿が見えていた。スライムやコボルトといった低級の魔物を適当に狩りながらアイテムを集めた俺たちは、しばし夜の採取作業を継続した。
「町の北側にはあまりきたことなかったけど、意外に素材が落ちてるんだな。なぁポンチョ?」
しかし腹ペコの置物のように頭上で動かないモコモコさんは、不機嫌に欠伸をするばかりだ。
「私も村の周辺で素材を集めることが多いから、北の平原にはあまりきたことなかったのよね。それにしても、のどかな場所だよねぇ」
冬季は多量の雪が降り積もり、一面の雪景色となるため移動することすら困難になるものの、今の時期は一面が見渡せるほど見通しもよくて、さらには空いっぱいに広がった星々の瞬きが本当に美しい。
「……はずなんだけどねぇ。残念ながら、今はこの分厚い雲のせいで何も見えやしない。それどころか、いつまでも降り続いてるこの雨。本当にいつ止むんだよ?」
ブルブルブルと身体を震わせ、ポンチョが雨を振るった。「もうっ!」と怒ったマーロンさんがポンチョのお腹をさするも、さすがにお腹が減りすぎているのか元気がありません。
「今日のところはこれくらいにしましょうか。……って、あれはなんだ?」
採取を終え、後片付けをしていた俺たちの視線の先の先。
平原の奥から小さな光がこちらへ向け突進してくる。……なんだろうか?
『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!』
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