第014話 薬草採取
俺の言葉にローリエさん、そしてマーロンさんの動きがピタッと止まる。そしてそして、今度は化け物でも見るかのようにクワッと表情を変え、同時に言った。
『私たちの話、聞いてました!?』
『△$♪♪×%○&◎#!!?』
「え、ええ、はい。でも森に入るわけじゃないし、大丈夫ですよ。ヤバそうだったらすぐ戻ってきますし」
「"すぐ戻ってきますし"、じゃないですよ! こんなときに何をすっとぼけたこと言ってるんですか!?」
「でもお金がないので俺たちは働かないと……。何より冒険者は自己責任の世界ですし、なんならローリエさんが養ってくれるとでも?」
「うぐっ、ああ言えばこう言う感じ、なんか腹立つんですけど! で、ですが、さすがに我々もGランクのハクさんお一人で行かせるわけにはいきません!」
「ローリエさん、心の声が漏れてますよ……。それにその点は安心してください。マーロンさんも一緒に行ってくれるそうですので!」
俺の勝手な発言に、マーロンさんがギョッとしている。しかしスッと肩を入れ、さも最初から話がついていたかのように「それでも駄目ですか!?」と確認する。
「マーロンさんがご一緒でしたら許可はいたしますが……。本当によろしいのですか?」
激しく首を横に振る彼を背後に隠しながら「もちろん大丈夫です!」と一方的に頷く俺。背後から「ムキー!」と威嚇しているネコの嘶きが聞こえるけど、とにかく今は無視の一手だ……!
「そういえば、そのゴールデンなんとかって、森の西側のどのあたりで目撃されたんですか? 念のため聞いておきたいんですけど……」
「目撃情報はモリスの森の西南にある、セデスの泉付近とされていますね。しかも周囲には大型のワイルドボアが数頭いたとの情報もあり、Gランクのハクさんが近付けばまず無事では済みません。絶対に近付かないでくださいよ!」
「それはわかってますって……。ではまた昨日と同じクエスト受注ということで。よろしくお願いしま~す!」
「ちょっと……!」と一言言いたそうなローリエさんを否も応もなく言い含めた俺は、背後でバタついているマーロンさんを掴まえ、そのままギルドを飛び出した。
わかりやすく「シャー!」と威嚇してやまないマーロンさんは、どうやら通じない言葉で俺を罵倒しているのだろう。巻き舌で畳み掛ける様は軽快で、それはそれは鬱憤が溜まっていたであろう事実を浮き彫りにしている。でも仕方ないじゃん!?
「も、申し訳ありません、ああでも言わないとクエストを受けられそうになかったので、つい……」
「◎△$♪×¥○&%#! ¥○&%#◎△$♪×!!?」
「言いたいことはわかります。自分はすぐにでもボアのところへ向かうって言いたいんでしょ? でもそれは無謀です。もし本当にゴールデンがいるのなら、貴方が行ったところでどうにもならない」
「¥&#○%△$×!!」
「それでも行くんだ! みたいな感じでしょうが、無謀なものは無謀です。申し訳ないけど、取り巻きにやられてた貴方の実力じゃ、アイツに挑んでも餌にされて相手の戦力を増やしてしまうだけ。本末転倒です」
「♀〇⇔!!」
「駄目です。絶対に死んでしまう人が目の前にいるのに、認められるはずないでしょう。それに……」
俺はビシッと彼を指さして言ってやる。
「貴方には、俺の薬草採取を手伝ってもらわなきゃならない。これはローリエさんとの約束です。絶対に守ってもらいますよ!!」
俺の言葉に、ついに堪忍袋の緒が切れたらしい。憤怒の表情で隠していた武器を手にしたマーロンさんが、俺に対して敵意を向けた。
しかしそんなことは無関係である。
駄目なものは駄目なのだ。
声を荒らげて向かってきた彼を正面から受け止め、パンッと武器を叩き落とし、「諦めてください」と念を押す。
あまりにも呆気なくやられてしまったからだろうか。地に落ちた己の武器を見つめながら無様さを呪うように涙する彼だけど、今は泣いている場合じゃない。
そのまま俺はヨイショと彼を担ぎ、さらにその上にポンチョを乗せて走り出す。
「○%、&#△$¥×!?」
「ですからクエストに行くんですよ、採取クエスト。ちゃんと手伝ってくださいよ、マーロンさん♪」
彼の肩に乗り、ポンチョさんもご機嫌ですね!
そうして俺は二人を連れ、モリスの森へと『薬草採取』に向かったのだった。