第012話 飯を食える幸せ
コイツ、めちゃくちゃだ。
言葉など通じなくても、貴方の表情ひとつで言いたいことはよ~くわかります。ですがこれは命運、宿命なのです!
「ねぇねぇト~ア、ポンチョお腹へった~(ションボリ)」
「ハイハイお坊ちゃま、これから料理いたしますので、もう少々お待ち下さいね。マーロンさん、そういうことですので、今回のお話は差し上げたお金でチャラ。チャラということにしてください。お願いですからチャラということで!」
ポンチョの機嫌と押しのテンションで強引に会話を切り上げた俺は、何も言えない状況を強引に作りながら食事の準備を開始する。宿屋の店主から拝借した料理用の備品一式を等間隔に並べてから、取り出した鍋とフライパンを吊るして火を起こした。そして大量に手に入れたボア肉の一部を切り出し、丁寧に下処理して豪快に網とプライパンの上に投げ入れる。
ジュウジュウと肉の焼ける香ばしい音と匂いが漂い、ウチのモコモコさんなどは手のひら返して上機嫌そのものです。本当にもう、単純さんですねぇ。
「マーロンさんも食べますよね。肉は焼きますか、それとも生の方が好みで?」
俺のことを親の仇でも見るように睨んでいるけど、どうやら空腹には逆らえないのか、「♀↓!」と網を指さした。しかも焼いている肉の赤い部分を示し、指で色味の指定をしているご様子。どうやらミディアムレアをご所望のようで……
「へいへい。そんじゃあまぁ、肉を焼いている間に、と……」
ポンチョのリュックに手を突っ込み、どこかに入れておいたはずのモノを探す。奥の奥まで探していると、ようやくコツンと固い何かが指先に触れた。
「あったあった、これこれ!」
じゃじゃ~んと取り出したのは、焼き肉には絶対欠かせないアレ、いわゆる『焼肉のタレ』だ。もはや現代人にとってコレのない肉など成立するだろうか、いいや、絶対に許されない!
「どんなに酷い人生だったとしても、美味しいものを食べているときだけは不幸を忘れられますからねー。ということで、現在不幸で不幸で仕方ないと思ってるマーロンさん、貴方もおひとつどーぞ!」
前世で知った最高の味を『調合師』のスキルを駆使して絶妙に再現させた至高の逸品を適当な皿に注ぎ込み、焼きたての肉をサッと添える。そして「今すぐそのタレを付けて食え、今すぐにだ!」と威圧し手渡した。
恐る恐る皿を受け取るも、まだ不機嫌なのか険しい表情のマーロンさん。ネコらしくクンクン匂いを嗅いでみせるも、その香しくも暴力的な魅力には抗えず、半信半疑のまま肉を口へと放り込んだ。すると――
『 …………美味ぁッ!!! 』
「…………は?」
「ち、♪×¥○&%#¢£%!!?」
……俺の聞き間違いだろうか。
この人今、美味いって言わなかった?
すぐに取り繕って、またよくわからない言葉を話しているけど、どうやら味自体は気に入ってくれたようだ。なぜか俺よりも誇らしげなポンチョがフフンと鼻を鳴らしているけど、まぁいいや、この際全部無視しとこう。
「肉は腐るほどあるんでどんどん食べてちょうだいな。ほらほらポンチョさんもお口にいっぱいタレ付けちゃって。お肉は美味しゅうございますか?」
「ポンチョ、お肉好き~♪」
「それはよござんすね」
「ポンチョお肉好きー!!」
「はいはい、どんどん食べておくんなまし」
「ポンチョお肉食べるー!」
「ええ、ええ。好きなだけどうぞ……」
「ポンチョお肉食べたーい!」
「ずっと食べてますけどね。夢でも見てるんですかぁ?」
「ポンチョ! お肉! 好きーー!」
それからポンチョとマーロンさんは二人で10キロ近い肉を平らげ、満足したのかそのまま馬小屋の中で眠ってしまった。どんだけ自由なんだコイツら……
ようやく静かになった夜半過ぎ。
俺はひとり余った肉をじっっくり焼き、いつしかぶりの食事を一口ついばむ。う~ん、美味い。
よ~く焼いた肉をゆっくり味わうなんて、いつぶりのことだろうか。人目を避け、冷めて固まった不味い飯を食う日々が本当に終わったのだという実感が全身に染み渡り、あまりにも、あまりにも……。
「幸せってのは、こういうのをいうんだろうなぁ」
誰にも気兼ねなく、飯を食える幸せ。
この当たり前の日々を噛み締めながら、俺は眠りこけたモコモコ二匹を仕方なく部屋へと運ぶのだった――
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