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第103話 未知の獣人


 主殿が(おっしゃ)るのであればと納得してくれた彼らを連れ、俺たちは食害にあって食い荒らされた畑へとやってきた。確かに彼らの言うとおり苗は見るも無惨に食い散らかされ、植えたはずの一角からは全ての苗がなくなっていた。


「せっかくみんなで苦労して植えたのにぃ」


 膝を落としてポロポロ涙を流すマルさんに、「わざとらしい」と訝る二人。

 しかし本当にマルさんが食べていないのだとすれば、別に犯人がいることになる。


 そうこうしているうちに、何事だと村人たちが集まってきた。

 アリクイ族、ウルフ族、ボア族のそれぞれが互いの主張を言い合っているが、やはりその構図が変わることはなさそうだ。


「シルシルたちが見た影は、確かにマルさんたちアリクイ族だったの?」


「実際にその顔を見たわけではございませんが、背格好に全身の丸さまで同じ部類の者が畑にいたのを目撃しております。我はその者らが日の出前から作業をしていると思いましたもので、特に声を掛けるなどせず仕事の準備に向かったのですが……」


「なるほど。するとボアボアたちが目撃したのは、その畑にいた誰かが苗を食べてる最中だったってことなのかな」


 ボアボアが激しく頷く。しかも見かけたその姿はマルさんたちと酷似していたらしく、もはや疑う余地がないと断言するばかりだ。


「ちなみにマルさんたちは、その時間は何をしていたの?」


「今朝はまだ寝てたんだな。苗植えが終わるまでは朝から作業してたけどね、今朝はそんなに早起きしなくても大丈夫だと思ってたんだな」


 だから酒に酔って無意識で食っちまったんだろと牙を剥くシルシルに、そんなことしないよぉと涙を流すマルさん。どうにも埒が明かない。


 そうこうしていると、ひとり畑を見つめていたマーロンさんが俺たちを呼びつけた。苗があった場所で何かに見入っているようだけど、何かあるのかな?


「どうしましたか、マーロンさん」


「ハク、これ見て」


 彼女が指さす先にあったのは、畑の(うね)についていた手跡のようなものだった。

 五本の爪の跡なのか、等間隔に細い筋が残っており、俺の手と比べて一回り小さい程度だろうか。

 どうにか形跡を消そうとしたのか、その一ヶ所以外は擦れてわからなくなっていたが、暗くて見落としたのか、ひとつ残っている痕跡が確実にその存在を明らかにさせていた。


 俺はその形状を魔力でコーティングし固めつつ、三次元の立体的なモデルに仕立ててみる。さらにその手形をマルさんの隣に並べて、形状を見比べてみる。すると……


「うん、どうやら別もののようだね。マルさんの爪は特徴的な形をしていて、中指の爪だけが大きく発達しているのに対し、ここに残っていた爪跡は五本ともがほぼ同じ大きさです。ほら、見てください」


 モデルとマルさんのまんまるお手々を比べてみれば、やはり似ても似つかない形をしていた。試しに頭上で退屈そうにしていたポンチョのお手々を拝借して確認してみると、どうやらコチラの方が近い。


「これポンチョさん、ア~タみんなが植えた苗を食べちゃったのかい?」


「食べてな~い。ポンチョ、お野菜きら~い(ショボ~ン)」


 うん、知ってたけどね。

 そもそもサイズ違いすぎるし。


 どうやら苗を食べた犯人は、ポンチョに近い手の持ち主で、体の大きさがマルさんと同じくらい(※体長1メートルほど)の獣人(?)らしい。


「し、しかし主殿。もしアリクイ族でないのなら、一体誰だと言うのです。トゲトゲ氏やハク殿の包囲網を掻い潜り、我らの畑に侵入したとでも申すのですか!?」


「言ってなかったかもしれないけど、トゲトゲさんも俺も害のなさそうな魔物や人なんかは基本スルーすることにしてて、明らかな敵意がない場合は手を出さないようにしてるんだ。だって物騒でしょ、誰彼構わず攻撃するなんて」


「そ、それはそうですが……。では一体誰が……」


「その前に! シルシルに、ボアボア。キミたち、ちゃんと確認もせずにマルさんたちアリクイ族を犯人だと決めつけてたよね。そういうのは本当にいけません。有耶無耶にせず、まずはちゃんと謝りなさい!」


 動物らしくずぅんと項垂れて頭を下げたボアとウルフたちがアリクイ族に詫びを入れている最中、マーロンさんは俺が作った手跡のモデルを様々な角度から確認し、犯人の目星をつけているようだった。ポンチョの手と自分の手、そしてシルシルやウルフの手も参考にしながら、その特徴に合う者を想像し、大まかな予測を立てた。そして――


「多分だけど、クマ族とかそんな特徴に近い獣人、もしくは魔物のものだと思う。私たち猫族や犬族、それにウルフたちとも微妙に形状が違ってるから、もしかすると珍しい種族なのかも」


「珍しい種族、ですか……」


「しかも苗を食べたとなると肉食じゃないってことになるし、ますます珍しいかも」


「クマ族がわざわざ苗を食べることはなさそうだし、となると森の魔物? でもそんな魔物いたかな……?」


 考えれば考えるほどわからない。

 わざわざピンポイントに苗だけを食べているところも疑問だ。

 いや、……むしろ逆か?


「もしかして、苗を全部盗みにきた、ということはないかな。食べたんじゃなく、苗を盗むのが目的だった、とか?」


「それはどうだろう。だとしたら、ボアボアたちが目撃したときに気付きそうなものだよ」


「確かにそうかも。どちらにしても、これ以上証拠がなければどうにもならないよね。今後は見回りを増やして、みんなで注意するしかないのかな」


 などと今後の対応を決めていると、背後から「うぉっほん!」と誰かの咳払いが。

 そこには右のメガネをキリリと装着したリッケさんが立っており、俺は嫌な予感がしてすぐに視線を逸らした。しかし……


「村長、少々よろしいでしょうか?」


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