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屍の声  作者: もちづき裕
船の謳
92/116

第二十一話

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 波羽美町で怨霊に取り憑かれることになった僕は、当たり前だけど死にたくはないので、本人は無自覚のままだけど何かあれば古代の巫女様が出てくる天野さんを無理やり連れ出すことにしたんだ。


 場所が遠方だけにお泊まりは確実だということは事前に言っていたし、

「波羽美町は外国人観光客の誘致に成功した町でビーチは外国人仕様だし、宿泊施設も外国人向けにリフォームしていたりするし、外国人向けの舟盛りが凄いことになっていたりするんだよ!」

 だからお泊まりでも素敵!美味しい!楽しい!と、適当なことを言って天野さんを太平洋に面した港町まで連れ出したんだけど、

「え?民宿?」

 天野さんはこれから泊まる宿泊施設のランクに引っ掛かりを感じているらしい。


「リゾートホテルでもなく、老舗の旅館でもなく」

「天野さん、君の頭の中はどうなっちゃっているのかなあ?」

「だって、テレビに出て来るような素敵な宿泊施設に連れて行ってくれるって」

「僕はそんなことを言ったかなあ〜」

「言っていましたよ!誰もが知っているあの大手のリゾートホテルが参入するような場所だからって!」

「参入する予定であってまだ基礎工事すら始まっていないから」

「パリピのビーチに行けないどころか高級ホテルもなしで、首切り島は実際に首を切っていないし、なんだか色々と話が違ってきていますよね?」

「天野さん、天野さんは一体、どれだけ我が家の世話になったのか、そんなことも忘れちゃったのかなあ?」


 シリアルキラーに殺されかけた天野さんを助けたのは僕だし、生き霊に取り憑かれて危なかった天野さんを自宅に避難させてあげたのも僕だよねえ?

「僕は君に対してとんでもなく大変なことを頼んでいるのかな?ちょっと助けてくれって言っているだけなのに、高級ホテル?高級リゾート?君ってそんな人だったの?」


 天野さんはほっぺたを膨らませたままソッポを向いてしまったんだけど、気を取り直した様子で運転席に座る佐藤さんに、

「民宿でも舟盛りって頼めますよね?」

 と、尋ねている。

 わざわざ駅まで様子を見に来た親からは、

「さつきちゃんに向こうで美味しい物でも食べさせてあげなさい!」

 と言われてお金を渡されているし、舟盛りくらいなら追加で注文しても大丈夫だと思うのだが、

「舟盛りか〜」

 佐藤さんはうーんと唸り声を上げながら、

「ないかな〜」

 と、海辺に住む人間とは思えぬことを言い出したんだ。


「え?海辺にある民宿なのに舟盛りがないんですか?」

 思わず僕も前のめりになりながら尋ねてしまったんだけど、

「いや、うちの海には魚が戻って来ていないと言ったじゃないですか」

 と、佐藤さんは言い出した。


「昔は新鮮な魚が売りで釣り客がよく泊まる船宿だったんですけど、最近では釣船を利用して出かけたところで釣れる魚がいないような状態だから閑古鳥が鳴きづけているような状態なんですよ」

「それじゃあ!夜ご飯には一体何が出るんですか?」

 天野さんが前のめりになって質問をしているんだけど、佐藤さんはしばらく考え込みながら言い出した。

「鮮魚センターで買ってくる鯵で作ったアジフライ?」

 それって学食でも食える奴なのではないだろうか?

「じゃあ!海鮮丼は?」

「うーん、ないですねえ」


 天野さんがワアッと泣き出したところで車は分家のフクさんの家に到着することになり、僕らは田舎ならではの広い駐車場に車を停めて降りることになったんだ。


 この辺りは代々菅原家という先祖が藩に仕える役人だったという家が地主となって栄えていて、昭和の観光ブームで島にリゾートホテルを建てたのも菅原本家ということになるらしい。

 1970年のホテル火災で大きな借金を抱えることになった菅原本家は佐藤さんの話によると一家離散の状態となり、本家の屋敷があった跡地も売却されて、今は跡形もない状態になっているというんだけど、この本家のお嬢さんだったのがフクさんというおばあさんで、町の歴史については生き字引のような人だと言うんだよね。


 家の裏に畑が見えることから農業を営んでいると思うんだけど、

「佐藤さん!あんた!聖上大学の学生をうちに連れて来たのかね!」

 畑の雑草を抜いて帰って来たと思われる白髪のおばあちゃんは車から降りて来た佐藤さんと僕らを交互に見ると、慌てて自分の家の中へと駆け込んで行ってしまったんだ。


 そうして片手に抱えられるほどの壺を持って戻って来ると、

「私らはね!何かを変えたいなんて思っちゃいないんだよ!何が町おこしだ!さっさと帰っておくれ!」

 秋場所で戦うお相撲さん並みに塩を掴んで、こちらに向かってバサーッと塩を投げつけて来たんだ。


「フクさん!そうじゃないんです!そうじゃないんです!」

 慌てた佐藤さんは、

「彼らはうちの町の歴史が知りたくて来ただけで!町おこしと直接関係があるわけじゃなくてですね!」

 降りかかる塩を払いながら必死の声を上げたんだけど、

「私たちの町の歴史を知るだって〜!」

 真っ青になったおばあさんはおこりのように震え出すと、

「佐藤さん!あんたとうちとは縁を切るよ!」

 と、大声で叫び出し、

「帰っておくれ!さあ!早く!帰っておくれ!」

 塩の波状攻撃が更に強さを増すことになったため、僕らは慌てて車の中に避難して分家のフクさんの家の前から逃げ出すことになったんだ。


今度は海に移動した霊能力者二人のドタバタ劇をお送りしたいと思います!!

もし宜しければ

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