第二十話
お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。
町役場の裏口から外に出ると職員用の駐車場になっているので、
「「「学生を出せー!」」」
「「「俺たちの町をゴミだらけにしてたまるかー!」」」
とりあえず大騒ぎをしている町おこし反対派の人達と対面することは避けることにして、僕と天野さんは佐藤さんの車に乗って役場から移動することにしたんだ。
「いや・・本当に・・何というか・・」
後部座席に座っている僕と天野さんは運転席に座る佐藤さんの方を見たんだけど、佐藤さんは明らかに憔悴しきった様子で言い出した。
「テレビでよく外国人観光客のマナーの悪さとか、ゴミ問題とかを特集したりするじゃないですか。うちの年寄りたちはああいうのを見て、余計に忌避感が凄いことになっているみたいでして」
閉鎖的な田舎で自分たちを中心にした世界を作り出して来た人々にとっては、招かれざる観光客はただでさえ疎んじられる存在だというのに、外国人、しかも何処の国かも分からないような人々に大事な場所を土足で踏み荒らされるのではないかという危機感で過剰に反応しているというんだけど、
「それにしても過激じゃないですかね?」
バタン、バタン、何かを倒すような音まで聞こえて来ていたから、町役場は大変なことになっているんじゃないだろうか?
「過激というか・・やっぱり海の男たちは逞しいというか・・」
佐藤さんの適当なことを言っている感が凄いんだけど、そこで僕らの会話なんか全く気にしている様子がなかった天野さんが嬉しそうな声で、
「あれが首切り島ですよね?」
と、窓の外を指差しながら言い出したんだ。
車は海沿いの道路を走っているんだけど、海に浮かぶ二つの島が太陽の光を浴びてキラキラと輝いている姿が見えて来たんだ。大きい島の方が詞之久居島で小さい島が首切り島ということになるのだろうけれど、
「ワクワクドキドキが止まらないような名前の島ですよねえ〜」
天野さんは窓に齧り付くようにして海上に浮かぶ島を眺めているんだけど、彼女は一体どうしてしまったのだろうか?
「罪人を処刑していた島、首切り島、サスペンス臭が凄いにも程がありますよ!」
そういえば天野さん、最初から海上に浮かぶ小さな島に興味津々だったもんな。
「いや、あの、うちの首切り島は罪人の首を切ってはいないんですけど」
そこで車を運転していた佐藤さんが言い出したんだ。
「江戸時代の話になるんですけど、うちと同じように近海に浮かぶ島を流刑島として利用していた藩があったみたいで、その藩では流刑島の近くにある小島で処刑を行っていたという歴史があるみたいなんですけれど、うちの首切り島は処刑を行われた島ではなくて、神話が元になってそういう名前が付いた島なんですよ」
「え?首が切られていないんですか?」
「そもそも刑場として利用されたことはないんです」
天野さんはなんで、ええ〜!ショックー!みたいな顔をしているのだろうか?
「ここの地方に残る昔話みたいなものなんですけど、今でこそ漁業が盛んな詞之久居町も、昭和の時代に宅地開発をする前は家の数よりも田んぼの数の方が多いというような土地柄だったんです。土地神さまとして稲田の神として信仰される櫛名田比売、つまりは八岐大蛇を倒した素戔嗚尊の奥さんを祀っていたんです」
「天野さん、民俗学を学ぶならこういう地元の伝承がとっても重要になるってことを覚えておいた方が良いよ?」
「いや、まだ私、神村ゼミに入るって決めてないですから!」
「ゼミの前に君、人文学部民族学科を専攻しているだろう?」
「えー、夏休みにまで勉強のこととか考えたくないですー!」
僕の命がかかっているので天野さんには真剣に考えて欲しいところなんだけど、ここで欲をかくのはやめよう。
「そうだとするなら、クシナダヒメと首切り島に何か関係があるということですか?」
「うちの地方に残される神話ってことになるんですが・・」
クシナダヒメは八岐大蛇を倒したスサノオノミコトの奥さんになるんだけど、漁業もやるけど田んぼも多い詞之久居町の氏神様だったわけ。田んぼの神様であるクシナダヒメは白鷺を使って実の親と連絡を取っていたんだけど、嫉妬深いスサノオノミコトは間男との逢引きの連絡に白鷺が使われていると考えて、妻が送り出す白鷺が海を超えていく寸前で捕まえて首を切って捨てたというお話になるようで・・
「神の使徒である白鷺の首を切って捨てた島だから首切り島、と、呼ばれるようになったのだそうです」
車を運転する佐藤さんはおばあちゃんから聞いた昔話をしてくれたわけだけれど、天野さんは納得がいかない様子で言い出した。
「ええー!それじゃあ!悔悟を知らぬ罪人が首を切られた場所じゃないんですか?」
「それはうちとは別の島の話になるんじゃないですかねえ」
「いや、私、首切り島という名前だからもっとおどろおどろしい歴史があるのかと思っていました」
「まあ、あれですよ、日光に戦場ヶ原ってあるじゃないですか?あそこも人間同士が争った場所じゃなくて神様同士が争った場所と言われているじゃないですか?」
「それにしても首は首でも白鷺の首ですか」
天野さんは名残惜しそうに小さくなっていく島影を眺めているんだけど、僕はこの伝承を聞いて冷や汗が止まりそうにないよ。昔、むかーしで始まるような地元の物語は、有名な神様をモチーフとして使いながら、その裏には大きな声では到底言えない悲劇や災難が隠されていたりするわけさ。
今も僕に取り憑いている災害級の怨霊が詞之久居島に関わりがあるとするのなら、今語られた白鷺の首は何かを比喩しているに違いないし、僕の直感ではそれは古い歴史と1970年に起きた火災とかリンクするような形で何かしらの出来事があったはずなんだ。
「佐藤さん、今って何処に向かっている感じですかね?」
「とりあえず僕の家に向かっているところなんですけど」
町おこしを積極的にやりたいと考えている佐藤さんは勢いに乗って聖上大学生である僕らを詞之久居町まで連れて来てしまったんだけど、町の重鎮と呼ばれるようなおじさんたちがあれほどの拒絶反応を見せるとは思いもしなかったみたいで、
「僕の家に移動したからって安全とは言えないんですけど、泊まれるように予約した民宿はまだチェックインできる時間じゃないので」
時間を潰すために自分の家を提供してくれようとしているんだな。
「あの、それじゃあ、さっき言っていた町の歴史にも詳しい分家のフクさんの家にこれから向かうことって出来ないですかね?伝承って語り部によって内容が微妙に変わって来たりするので、僕としては佐藤さんの話を聞いた上で、フクさんというおばあちゃんからも聞き取りしたいと思うんです」
「先輩ったらどうしたんですか?」
そこで天野さんが呆れ返った様子で、
「真面目にもほどがあるし、そもそも民宿に泊まるってなんなんですか?」
そんなことを言い出したんだけど、そういえば今晩泊まるっていう話を彼女にはしていなかったなあ。
今度は海に移動した霊能力者二人のドタバタ劇をお送りしたいと思います!!
もし宜しければ
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