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屍の声  作者: もちづき裕
船の謳
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第十九話

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 僕に取り憑いた災害級の怨霊だけど、木製の船の中に隠れていたそいつは海に滑り込むようにして島の方へと逃げて行った訳だけれど、

「おお〜、まだ繋がっているってことか〜」

 僕の影を見てみれば一本の黒々とした細い帯が僕の体から伸びている。このことからも分かる通り、奴はまだ僕を捕まえたままの状態だと言えるだろう。


 怨霊の根源は詞之久居島にあるし、その大元をどうにかしないと僕は一週間のうちに死ぬことになるだろう。


 陰陽道では一桁の奇数が重なる日が七日であり、陽の気が最も高まる日であるとされている。怨霊は『吉祥日』を迎える前にことを終わらせることが多いから、一週間以内に死んだというオカルト話が世の中に溢れかえっちゃっているんだよな。


 日本では神道を信じたり仏教を信じたり。旅行に行った先にある神社仏閣を訪れては、

「恋人が出来ますように」

「金持ちになりますように」

「良いところに就職できますように」

 お賽銭を入れて神頼みをすると思うんだけど、カトリックを信仰する国々やイスラム教を信仰する人々からすれば、

「我々の宗教観と全然違うなあ〜。たまたま旅行した国だし、曖昧すぎる宗教観についてツッコミを入れるつもりはないけれど・・」

 不思議な国、日本って思われることが多いみたい。


 神道と仏教の他にも土着の宗教というものが残っているし、綿々と受け継がれて来た信仰は今現在、弾け飛ぶ泡のように消えて行っているのは間違いない事実。


 一番の問題は核家族化で、今まで人伝に伝わって来た伝承や信仰が後世にまで伝えられない。確かにおばあちゃんが居た時代にはそんなことをやっていたけれど・・おばあちゃんが亡くなってからはやっていないなあ・・という事象が山のようにあるんだ。


 日本という島国は網の目のように張り巡らされた信仰の力で特別なものを押さえつけて来た歴史があるんだけど、過疎化、核家族化、廃村、都市への一極集中化、伝承の分断によって非常に危うい状況に陥っているし、その界隈の人々が大きな危機感を抱いているってことは知っているけど、

「そんなの僕には何の関係もないもんね!」

 と、思っていたんだけどなあ。


 神村ゼミがゼミ合宿をあぱっとねえ祭りが行われる波羽美町に決めたのも、教授から直々にゼミ合宿への参加を促されたのも、

「こうなることが分かっていてのことだったのか?」

 疑念が湧いて来ちゃうよ。

 

 最初でこそゾンビのマスクを装着していたというのに、暑さに負けたということもあるけどこの僕がマスクを外してスイカ割りに興じるなんて。あの時から完全に誘い込まれていたんだよなあ。

「何処にいるんだ!今すぐ追い出してやる!」

「大学生は何処だ!」

「早く出せ!」

 僕は今かぶっているゾンビのマスクを深くかぶり直したよ。


「今すぐ大学生をここに連れて来い!俺たちに町おこしなんてものは必要がないことを説明してやるから!」

 怒鳴り声と共にバッタン、バッタン。どんな暴れ方をしているんだってくらいの騒音が僕らのいる小会議室まで聞こえてくるんだけど、思わず生唾を飲み込んで、手にした自治体史を見下ろした。


 1970年に起こった詞之久居島の火災について記された自治体史を手に取ったところでこの大騒ぎだから、やっぱり詞之久居島に問題の根源があるんだろうなあ。

「それじゃあここは逃げ出した方が良いということになりますよね?わかりました、必要そうな自治体史はちょっと貸し出してもらう形にしますから」


 僕は詞之久居町を訪れるのは始めてだし、この町の歴史をまだ紐解いていないので、目に付いた自治体史を持って来た小型のスーツケースの中に突っ込んでいくことにしたんだけど、

「先輩、私も一緒に逃げなくちゃいけないんですか?別に私、町おこしとかあんまり興味がないんですけど?」

 と、天野さんがよく分からないことを言い出したんだ。


「天野さん、一緒に行くよね!うちの両親に頼まれていたし!ね!そうだよね!」

 ちょっと、ここで天野さんに戦線離脱をされると、僕は一週間を待たずに死ぬかもしれん。僕の焦りはピークに達したんだけど、

「ここに残ったら危ないから!一緒に行きましょう!」

 地域振興課の佐藤さんは真っ青な顔で言い出したんだ。

「女の子、しかも女子大生が一人でここに残ったら、何をされるか分かったものじゃないですよ!」

 うーんと・・どういうことだろうか。

「この町は想像以上に閉鎖的なんです!」

 そりゃ町おこしを嫌って聖上大学の学生を連れてこい、文句を言ってやると役場で大騒ぎしているくらいに閉鎖的だろうとは思うんだけど、

「この町の地主である菅原家の本家はすでに没落して久しいんですが、分家筋はまだ力を持っている関係で、色々と問題があるんですよ!」

 本家とか分家とか出て来ちゃったよ〜、地方に行くと本家とか分家とか出て来るよなあ。


「いや、本家とか分家とか、そんなのはうちの地元でもありますけど、そこから女子大生が危ないってことにはならないと思うんですけど?」

 天野さんが至極ごもっともなことを言い出すと、

「ああ〜!もう!」

 佐藤さんは地団駄を踏みながら、

「ひとまずここから逃げ出しましょう!詳しい説明は逃げ出した先でしますから!」

 と言って、僕らを役場の裏口へと誘導して行ったのだった。


まだまだ残暑が続く日々の中、今度は海に移動した霊能力者二人のドタバタ劇をお送りしたいと思います!!

もし宜しければ

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