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屍の声  作者: もちづき裕
水の嘔
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第十一話

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 今年は特に雨が長かったけど、遂に梅雨明けか?そろそろ梅雨明けか?と、連日のように梅雨前線の動向に注目が集まる中、

「今週末は晴れるらしいよね?」

「そろそろ外に出掛けたいよ!」

 ようやっと梅雨も明けそうだということで、周りのみんなは楽しそうにはしゃいでいるんだけど、

「天野さん、申し訳ないけどこの教材を旧校舎の倉庫の方に片付けてくれるかしら?」

 何も遊ぶ予定が入っていない私は、先生に頼まれて旧校舎へと移動することになりました。


 みんなは楽しそうな声を上げながら新校舎へと向かって行くというのに、私だけ先生に頼まれた箱を抱えて旧校舎へ。

「運が向いていない・・運気が低迷状態なのは間違いないわ〜」

 歴史ある聖上大学はこんもりとした森が校舎を囲んでいるんだけど、新校舎と比べると旧校舎は木々に囲まれ過ぎて薄暗いというのが特徴なのよ。

 倉庫に入れるために外から回って鍵を外したんだけど、

「さつきちゃ〜ん」

 後ろから声をかけられたのよね。


「さつきちゃ〜ん、体調悪くて大学にすら通えていないって事務所には連絡していたのに、君はきちんと大学には通っているみたいだよね〜」

「佐竹さん?」

 振り返ると、こんもりとした森を背にしてアルバイト先で交通誘導警備員として働いている佐竹さんが立っていて、ニコニコ笑いながら私の方へと近づいて来たわけで、

「えーっと、何で佐竹さんがうちの大学に」

 と言ったところで意識を失うことになったのよ。

 佐竹さんは片手にバールのような物を持っていて、私の頭を目掛けて振り下ろして来たので、避ける間もなく直撃を喰らった私はその場に倒れ込むことになったってわけ。


 もうすぐ長期休みに入るということもあって、

「何処に遊びに行こうか?」

「何処でバイトをしようかな」

「お金を稼ぐには?」

「お金を楽しく使うには?」

 そんなこんなでみんなが楽しそうにしている中で、

「私のハッピー大学生活は何処に行っちゃったの〜?」

 状態に陥っている。


 そろそろ梅雨明けだとは言われているけれど、毎日雨は降っているし、今だって空は厚い雲に覆われ尽くしているし。ザーザーと排水溝に流れる水の音と一緒に、それに合わせようにして歌う鼻歌のようなものが聞こえてくる。


 私の片足をむんずと掴んだ佐竹さんが引きずりながら運んでいくから、水に濡れた雑草が私の顔を励ますように撫でつけてくる。

 自然は友達、自然は友達。

 広い敷地を誇る聖上大学は駐車場の数も多いので、いずれかの駐車場に車を停車させておいた佐竹さんは私を押し込めるつもりでいるのだろう。

 草むらから飛び出してきたカエルが私のお腹の上に乗って、そのまま何処かにジャンプをした。

 自然は友達、自然は友達なんだから。佐竹さんの鼻歌に合わせるようにして、自然と私の口から謳が漏れ出してくる。


『ジュルス ジュルス(水よ来い) フィルチナジュリヨー(嵐よ来い) ヨドゥルン ヨドゥルン 稲妻よ) パッパッ パルラマク パルラマク(光れ 光れ)』


 私の片足を掴んで引き摺って歩いていた佐竹さんは物凄く怖い顔で私の方を見下ろしたんだけど、その時、突如として稲光が走り、近くの木に雷が落ちたのよ。


『オルドゥルメク パッパッ オルドゥルメク パッパッ』


 どれだけ歌っていたかは分からない。数分程度だったのか、それとももっと長い間歌っていたのか?無意識のまま歌い続けて世界を揺らすほどの雷鳴が轟き、稲光がピカッピカッと光り輝いたんだけど、

「お前!何をやっているんだよー!」

 ゾンビ先輩の持って来た刺股がピカッと反射して輝いて見えた。


「うぉおおおお!」

 校内の何処かで借りて来たと思われる刺股で佐竹さんを押しやろうと先輩はしているんだけど、佐竹さん、ナイフを取り出しているんですけど!

「やばい!やばい!やばい!」

 バールのようなもので頭を殴られたものだから、佐竹さんの鼻歌を聞いて私まで良くわからない歌を歌っていたみたいだけど、先輩の登場でパッと正気に戻ったよ。


 額から真っ赤な血が流れているけど、そんなことを気にしている暇はない。

「不審者を通報しに行かなくちゃ・・」

 這いずるようにしてその場から移動をしようとした途端、再び私の足首がグイッと掴まれてしまったの。

「さつきちゃん・・君は・・俺のものだから・・」

 ないないないない。

「さつきちゃんだって俺のことが好きでしょう?ねえ、嘘を吐かなくてもいいんだよ?」

 ないないないない。

「離せって言っているだろ!」

 刺股が佐竹さんの体を捕らえようとしているんだけど、おじさんの癖に佐竹さんの動きが俊敏すぎるのよ。


「やだ!やだ!やだ!」

 空には渦を巻くように暗雲が立ち込め、ピカピカ雷が光っているし!豪雨が凄いことになっているし!

「キャアッ!」

 水捌けが良くなるようにキャンパス内には側溝が設けられているんだけど、この側溝の流れはキャンパスの外へと通じる溝川に集まり、この溝川は私が住んでいるアパートの近くを通ってやがて地下へと潜り込む。


 今年の梅雨は雨が良く降るし、キャンパス外郭を流れる溝川の流れも早いんだけど、この溝川の向こう側には教師や職員が利用するための駐車場が設けられている。

「待って!さつきちゃん!待ってったら!」

 佐竹さんは必死になって言い出した。

「もしかして俺がおじさんだから嫌なの?年齢なんか関係ないって!」

 佐竹さんはナイフを振り回しながら、

「こんなゾンビの仮面をかぶっているような変態がいいのかよ!こんな奴よりもおじさんの方がよっぽどマシだって!」

 叫ぶように言っているんだけど、

「全然マシなんかじゃないですよ!バカじゃないですか!」

 ずぶ濡れになりながら大声を上げましたとも!


「生き霊になってまで取り憑いて!貴方は一体なんなんですか!」

 追いかけてくる本物のゾンビのような佐竹さんに向かって声の限り叫びましたとも!

「私の前から消えてよ!鬱陶しいの!本当に消えてー!」


 ザーザー雨が降りしきる中、佐竹さんは消えた。

 消えたように見えたのよ。だけど消えたように見えただけで、佐竹さんは溝川に足を突っ込んで足を滑らせただけだった。

「さつきちゃーん!」

 どうやって私の足を捕まえたのか、佐竹さんは私の足首をギュッと掴んだまま溝川の流れに流されそうになっている。

「キャアアー!」

 玉津先輩が私の体を掴んだのと、私が玉津先輩のゾンビマスクに手をかけたのがほぼ同時のことで、

「いい加減にしろよ!」

 先輩が何度も何度も佐竹さんを蹴り付けていくうちに、佐竹さんの手は私から離れて、川下の方へあっという間に流されて行ってしまったのよ。


 ビリビリビリビリビリッ


 死んでたまるかと掴んだ私の手が、ゾンビマスクをビリビリと引き裂いていく。

 多分、指が穴状になっている目の部分に引っ掛かったのだと思うのよ。

 先輩は完全にマスクを引きちぎられたプロレスラー状態だったんだけど、流された佐竹さんを一瞥もせずに私を抱え上げて、あっという間に校舎の方へと移動をしてしまったの。


 床に私を下ろした先輩は、

「邪魔だなあ!」

 ちぎれたマスクを外して床に叩きつけると、

「すみません、聖上大学の事務所ですよね?不審者が出て生徒が一人怪我をしました。今、旧校舎の方にいるんですけど、至急、警察と救急車を呼んで欲しいんです」

 大学の事務局に電話をしている!

 直接警察に電話せずにまずは大学を通すだなんて!先輩!やっぱり一個先輩なだけはあるわ〜。


「先輩・・先輩・・」

 頭から血を流して横たわったまま、マスクを外した先輩を見上げて言いましたとも。

「助けに来るのが・・遅すぎる・・」

 先輩は何かを言っていたみたいだけど、何を言っているのか分からずに、私は気を失ってしまったのでした。


さつきとたくみの出会いはこんな調子ですが、心霊なのか?ヒト怖なのか?懲りずに最後までお付き合い頂ければ幸いです!!毎日十二時に更新しています!!

もし宜しければ

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