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屍の声  作者: もちづき裕
水の嘔
65/116

第十二話

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 同じ学部の一学年下に天野さつきという女子生徒が入学して来た時、

「あれ?肩こりが・・」

 長年患っていた肩こりが解消したことに気が付いた。


 あれほど大小様々にいた霊体がなりをひそめ、廊下を闊歩する彼女の姿を見た僕は、

「あの娘が入学して来たからかあ」

 呆気に取られながらも、天野さつきという存在を認識することになったんだ。


 これだけ核家族化が進んでいる今の世の中で、自分のルーツはなんなんだと問われて、まともに答えられる奴なんかまずいない。

「きっと先祖は巫女シャーマンの家系なんだろうなあ」

 そんなことを考えながら、霊障に煩わされることもないだろう彼女のことを、ちょっとだけ羨ましく思っていたんだけど・・

「うん?ううん?」

 恐ろしいほどの情念を抱えた怨霊みたいな生き霊を彼女が引き連れている姿を見ることになった僕は、結局、彼女のことを放っておくことなど出来なかったんだよな。


「玉津たくみ君、玉津たくみ君」

 病院の椅子に座って項垂れる僕に、私服の刑事が声をかけてきた。

「君が言っていた不審者だけど、この男で間違いないかな?」

 刑事が見せて来たのは病院に搬送されている様子の佐竹という名の変質者であり、

「そうです、大学に侵入までして彼女を連れ去ろうとしていたのはその男です」

 と、僕は答えたんだ。


「いや、よく刺股があったよね?」

 刑事さんは僕が刺股で撃退したのを知っていたようで、呆れた様子でそんなことを言い出したんだけど、

「丁度、倉庫に入っていたんですよ」

 と、僕は答えたんだ。


 実際問題、彼女が変質者のおじさんに襲われている時、僕は全く別の場所に居ることになったんだ。教授から質問を受けることになって教授室に居たわけなんだけど、耳鳴りのように重なるような声で、聞いたこともないような歌が頭の中に轟いた。


 聞いたこともない言語、聞いたことがないリズム、それでもどうしても気になって仕方がない歌、呪謳と言っても良いのかもしれない。これが頭の中に流れ出した途端に轟くような雷鳴が窓を揺らしたんだ。

「ああ、玉津君は行ったほうがいいみたいだね」

 白髪で白髭の教授が窓の外を見ながら言い出したものだから、僕はその場から走り出した。どこをどう走れば良いのかなんて分かるはずもないのに、何かに引き寄せられるようにして走っていくと、旧校舎の外に設けられたコンテナ倉庫の鍵が開けっ放しとなり、見たこともないような男が誰かを引きずっていくのが遠目に見えた。


 倉庫の中には丁度、刺股が仕舞われていたので、

「ウォオオオオ!」

 刺股を掴んで走り出した僕は、完全に正気ではなかったと言えるだろう。


「不審者対策のために学校が購入した刺股が倉庫に入っていたのを見たので、利用させて貰ったんです。相手はバールとかナイフとか、色々と持っているように見えましたから」

 実際に佐竹っていう変質者はリュックを背負っていて、そのリュックの中には包丁が三本、ナイフが六本も入っていたと刑事さんは教えてくれたわけだ。


「君は被害者となった彼女と先輩後輩の仲だったと言っていたけれど、彼女が何故、佐竹文彦と知り合いになったのか、その経緯は知っているのかな?」

「ああ、それは」

 僕は彼女が交通誘導員のアルバイトをしており、そこで変質者に出会ったこと。溝川を流れて行った変質者に待ち伏せされるようなことがあってから警戒をしていたことを説明すると、

「被害届が出されていたんだけど、君はこの写真を見たことがあるかな?」

 刑事は足跡が残された女性の部屋の写真を僕に見せて来たわけだ。


 全ての鍵が掛かっている状態で足跡だけが残されていたというんだけど、こいつ〜。

「その話は聞いていませんね」

 大事なことを言わないで、人のスタンガンを借りパクしたまま一体何をしているのだろうか〜。

「それで・・その佐竹文彦っていう人は生きているんですよね?」

「ああ、川を流されているところを警察で保護をすることになったから生命に問題はないのだが・・」

 佐竹文彦に大きな問題が隠されていたといことが、その後の警察の捜査で判明することになるのだった。



      ◇◇◇



 雨で全身ずぶ濡れ状態だったはずなのに、いつの間にか着替えを済ませたような状態でベッドに横になっていた。

 目を開けると見たこともない白い天井が広がり、横を見れば見たこともない男性が項垂れるようにして座っている。


「あれ?えっと・・ここは・・」

 男の人は私の声に気付いて顔を上げると言いました。

「救急車で君は病院まで運ばれて来たんだよ」

 誰なの、このクソイケメン。

 うちの大学にこれほどのイケメンって居たかしら?

 とにかく顔がいい、こんなに顔が良い人は今まで見たことがない。


 モデル事務所に行けば即日採用されるのは間違いないし、そこらへんのタレントだったら平伏して拝み倒すほどのレベルよ。

「頭痛くない?吐き気とかないか?」

 見たこともないイケメンはそう言って包帯が巻いてあると思われる私の頭にそっと触れたんだけど、

「誰ですか貴方?」

 不信感と警戒感で頭がおかしくなりそう。

「私には貴方のような知り合いは居ないはずなんですけど?」

「こいつ・・無茶苦茶頭に来るわ〜」


 クソイケメンは俯いてプルプルと震え出すと、ポケットから何かを取り出して自分の頭の上にかぶせたのよね。それは完全に破壊されたゾンビマスクで、

「た・・た・・玉津せんぱーい!」

 ベッドに寝っ転がりながらも、私は必死になって先輩の方へ手を伸ばしましたとも。

「先輩のお陰で私、死なずに済んだみたいですー!」

「クソッタレが!」

 先輩は完全に破壊されたゾンビマスクをズボンのポケットに無理やりねじ込むと、

「なんで僕に言わなかったんだよ?」

 と、怒りを滲ませながら言い出した。


「君、警察に被害届を出していたんだろう?」

「はい?」

「知らない間に家の中を歩き回る靴跡が残されていたっていう」

「ああ!あああ!あああああ!」

 あった!あった!そんなこともありましたわ!


「あの後にも色々なことがあり過ぎて!靴跡のことなんか忘れちゃうくらいで!」

「被害届を出したのは随分前のことになるじゃないか!なんでその時に僕に相談をしないんだよ!」

「えええ?ほぼ初対面の先輩に?」

「お前〜!」

 先輩はイライラしながら言い出した。

「そのほぼ初対面の先輩に家まで送らさせた挙句、スタンガンを借りパクした分際で!何を躊躇する必要があるっていうんだよ〜!」


 先輩が言うには、あれほどはっきりとした靴底が霊障として残る時点で一大事だったみたい。

「お前がそんな大事なことを言わないから、こんなことになっているんじゃないかよ〜!」

「そういえば、アルバイト先の事務所の話をしていた時に靴底の話って先輩にしていませんでしたっけ?」

「してないよ」

「変質者のくだりで」

「してないって!」

 私ったら完全に話をしたつもりになっていたのね!


さつきとたくみの出会いはこんな調子ですが、心霊なのか?ヒト怖なのか?懲りずに最後までお付き合い頂ければ幸いです!!毎日十二時に更新しています!!

もし宜しければ

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