第四十五話
ここで船の謳は終わりとなります!!ここまでお読みいただきありがとうございました!!
「お前、さつきちゃんが居なかったら確実に死んでいたな」
詞之久居町までやって来た父親が開口一番に言い出したんだけど、
「本当に!天野さんがいなかったら確実に死んでたよ!」
大学二年の夏、僕は九死に一生スペシャルを体験することになったんだ。
首切り島が近くにぷかぷか浮かぶ詞之久居島は、その手の業界では禁忌の島と呼ばれていたらしいんだけど、蓋を開けてみれば出るわ、出るわ。新しいのから古いのまでゴロゴロ白骨化した遺体が発見されたものだから、警察も県庁の職員も驚き慌てていたよ。
詞之久居島は昭和のリゾート開発でそれは立派なホテルが建てられたんだけど、火災によって多くの人が亡くなることになったんだ。その時にも火災の調査のために何人も島に移動することになったんだけど、まさか同じ島内にそんな恐ろしい場所が残されているとは思いもしなかったみたいだよ。
島の北東に位置する祠は鬼門封じのための祠だと思われていたし、鬱蒼と生い茂る森の中にあるものだから特に注視することもなかったみたいなんだ。
この祠、元々は別の場所にあったものを菅原家の人間が移動させたものなんだけど、とにかく罰当たりが凄すぎて、とんでもない呪い返しを展開することになったんだ。
天野さんのおかげで大物を補陀落渡海(神様のいる場所へ移動)してもらうことが出来たけど、あれをやれてなかったらもっと悲惨な結果になっていただろう。
もちろん、僕の命はなかっただろし、年始のために御朱印を大量に書かされる年末を迎えることも出来なかっただろう。
「先輩、このゾンビの植毛はこれくらいでいいですか?」
紫色にところどころ変色をしたそれは恐ろしい顔のゾンビに一本ずつ丁寧に植毛を施している天野さんの技術力が向上をしている件について。
「おお〜、完璧だね〜」
僕は手製のホラーマスクを販売してそれなりの金額を稼いでいるのだが、植毛職人として学部の後輩である天野さんを雇っているのだ。
「ねえ、天野さん、植毛はその辺で終わりにして良いから御朱印を書くのを手伝ってくれない?」
小首を傾げてぶりっ子しながら頼んだんだけど、天野さんには効果がないらしい。マスクをかぶっているから効果なんかあるわけないんだけど。
「いや、無理です。私、字が汚いので」
「でもさあ、字が汚くても古代の巫女様によるそれは有難い御朱印になるんだから、それはそれで良いんじゃないのかなあ?」
「いや、いや、無理、無理」
自分の中の古代の巫女様についてはトント気が付くことがない天野さんは、巫女さんの話題を上げると途端に白けた表情を浮かべるんだよなあ。
「今日は私、伊勢海老を食べに来ただけなので、ゾンビに植毛をしてあげているだけ有難いと思って欲しいんですよ」
「伊勢海老ねえ〜」
夏休み中、とってもお世話になった辰野勇さんから年末になって、
「玉津君のところは住所を知っているから良いんだけど、さつきちゃんの所に送るにはどうしたら良い?」
と、連絡を受けることになったんだ。
黒潮の蛇行と温暖化で漁業が廃業寸前にまで追い込まれていた詞之久居町なんだけど、町にあった神社が稲田神社へと変更手続きが進み、ありがとう運動が進み、
「詞之久居町の稲田神社!まじでヤバいって〜!」
というインフルエンサーの発信により他県からの参拝客が増え、地元の住民の参拝も引き続き行われるようになったらば、
「あれ?あれ?あれ?」
伊勢海老が獲れるようになったらしい。
今まで獲れることがなかった海域で伊勢海老が獲れるようになりましたという話は、温暖化の所為なのか日本列島の北に向かうほど増えている傾向にあるんだけど・・
「まさかうちの港で?」
「本当に?」
詞之久居町の漁業組合は伊勢海老とカニと鮑で大盛り上がりになったんだ。
暴力を振るう旦那さんが七転八倒の末にぽっくり亡くなることになった民宿だけど、旦那さんの死亡届と姻族関係終了届を一緒に提出して旦那さんの実家とも縁切りをした民宿だけど・・格安で伊勢海老料理を出すのが評判になったそうで、神社の参拝に来た観光客が宿泊するようになったそうだよ。
暴力夫がいなくなったので離婚をして一人で子供を育てていた娘さんも帰って来て、民宿を手伝うようになったんだけど、来年まで予約がいっぱいになったんだって。手紙と一緒にうちの神社まで6万円が送られてくることになったんだけど、返ってこなかった宿泊費が全額返ってくることになったんだ。
ちなみに夫が突然七転八倒の末に亡くなったということで、
「どうしてうちの夫が死ななければならなかったんですか!どうして!どうして!」
と、文句を言ってくる人もいたし、
「お祓いをしてください!死にたくないんです!」
と、助けを求めて来る人もいたんだけど、
「いや、僕に言われましても〜」
これ、神様系の話になるので、わざわざ埼玉のうちの神社までご足労いただいたのは申し訳ないと思うんだけど、どうにも出来ない話だからなあ。
そんなこんなでバタバタしていたのもようやく落ち着いて来たかなと思っていた頃に勇さんから伊勢海老が送られて来たんだけど、天野さんは伊勢海老の調理の仕方なんか分からないからうちの母に任せることにしたらしい。
「そういえばうちの母親が、あんまりにも大量の伊勢海老が送られて来たから刺身だけでなく伊勢海老のエビフライも作るつもりみたいだよ」
「マジですか!」
天野さんが目をキラキラさせている。うん、うん。伊勢海老をエビフライにするってヤバいよな。どんだけデカいエビフライなんだよって想像するだけで涎が出るよな。
ゼミ合宿に行って呪われることになった僕だけど、天野さんのおかけで僕は今でも無事に生きている。後から、後から助けを求める人がうちの神社を訪れることになったけど、そこに引きずられずに済んだのも物凄いパワーがある天野さんがいるからだもの。
「あれ、先輩、電話みたいですよ」
「うん?」
僕らは離れで作業をしていたんだけど、テーブルの上に置いていたスマートホンが鳴り出した。どうやら母親からの電話のようなので、
「母さん、伊勢海老のエビフライが出来たの?」
電話に出るなり問いかけると、
「たくみ、お客さんよ〜、本殿の方にいらっしゃ〜い」
と、僕の母は言い出した。
本殿の方にお客さん・・それって絶対に詞之久居町関連じゃん・・
「天野さん」
「なんですか先輩?」
「本殿にお客さんが来たみたいなんだけど、お願いだから一緒に行ってくれない?」
「なんでですか?」
「お願いだから!」
天野さんは自分のことを役に立たないワトソンとか、居ても居なくても同じワトソンとか言い出すんだけど(どうやら彼女は自分のことを探偵の助手かなんかだと思っているらしい)冗談じゃないよ。
天野さんはそこに居るだけで僕を助けてくれるんだから、居てくれないと本当に困ることになるんだから!
こうして天野さんを連れて本殿の方へと移動することになったんだけど、待ち構えている人がヤバかった。本当の本当にヤバかった。
「あの〜、僕は菅原家の本家筋の人間になるのですが〜」
この人は菅原勉さんという方で、年齢は二十八歳。自分の曽祖父の時代に破産をして一家離散となったという話を親から聞いてはいたんだけど、
「実は近々、結婚をする予定なんですが、最近、ネット上にアップされている詞之久居町に関わる都市伝説を知ることになって、それで心配になってしまいまして」
それで色々と調べているうちに、うちの神社まで辿り着くことになったみたいなんだけれど、
「それじゃあ、隣の方がご結婚する予定の方なんですか?」
僕について来た天野さんが笑顔で問いかけているものだから、心底ゾッとしてしまったよ。
「え?どういうことですか?」
「いや、お隣の方が結婚相手の方なのかなと」
「え?僕、一人で来ていますけど?」
「え?」
「ええ?」
ヤバいよヤバいよ。
天野さんが見えるってそれ、相当のレベルのものになるんだよ?もちろん僕には見えているんだけど、天野さんにも見えているって相当やばくない?
「先輩、どういうことですか?」
「どういうことなんだろうね?」
「それ、僕も訊きたいんですけど、僕の隣に誰かがいるってことですか?」
「うう〜ん・・」
今の僕はもちろん、何のマスクもかぶっていない。恐怖のあまりジーンズのポケットに突っ込んだままだったスケキヨマスクをひっぱり出そうとしていると、
「先輩!私が居る時にスケキヨマスクはかぶらないって約束しましたよね?」
天野さんがグッと僕の腕を掴んで止めている。
「ちょっとそれどころじゃないんだけど・・」
天野さんって本当に、スケキヨのことが嫌いなんだよな〜。
〈 船の謳 了 〉
こちらのお話はもっと短くなるはずだったのですが、どんどん長くなり、途中で停止することもあり、まさか夏に書き始めたものが年を越すとは思いもせず。ここまでお付き合いいただき本当に!ありがとうございます!!
もし宜しければ
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