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想い 2

 

   みなと

 

 エッチを、セックスをする夢を見た。

 夢の中の私は気持ち良さに浸っていた。実際のセックスでは感じたことのない快楽に酔いしれていた。

 私を気持ち良くしてくれたのは結城くん。

 ちょっと恥ずかしいけど、本当に気持ち良かった。ずっとその世界に浸っていたかったけど、夢だから覚めてしまう。

 そして、目が覚めたらちょっと大変なことに……。

 

 夢のことを忘れてしまうくらい月曜日の朝は少し大変だった。

 昨日の件で朝から職員室へと直行。

 顧問の先生にちゃんと連絡しろと怒られたけど、それくらいで済んで幸いだった。

 

 教室へ。

 結城くんの背中が見える。心臓がまた早鐘のような鼓動を、ドキドキと。

 そうだ、昨日の紙芝居のお礼を言わないと。なにも言わずに帰ってしまったから。それから、あの紙芝居の感想もちゃんと伝えないと。

 それなのに、席を立てない、動けない。

 結城くんの背中が動く。椅子に座ったまま体を反転させる。

 結城くんの視線が私の方へ。目が合っちゃう。

 彼の目に見られていると、夢のことを思い出してしまう。

 顔が熱くなってくる。体が急激に熱くなっていく。これ以上は駄目。慌てて目を逸らす。

 こんなんじゃ、とても結城くんに紙芝居の感想を伝えられない。

 どうしよう?


 どうしよう。またエッチを、結城君と幸せに繋がっている夢を見てしまう。

 夢の中ではすごく気持ちよかった。目が覚めても、まだ余韻が私の体の中に残っている。

 だけど……。

 ごめんなさい。

 こんなエッチな夢を見て、出演させてしまいごめんなさい。心の中で結城くんに謝罪を。

 でも、まだ心臓がドキドキしている。

 ドキドキは校内で、教室内で、結城くんの背中を見ているとより一層強くなっていく。

 このまま心臓が動き続けていたら、そのうち止まってしまんじゃないのか、死んでしまうんじゃないのかと思ってしまうくらいの速さ。

 行かないと、言わないといけないのに結城くんに近付けない。

 昨日同様に結城くんの背中は少し小さく見える。

 きっと私を傷つけてしまった、レイプしてしまったと気に病んでいるのかもしれない。

 それを取り払い、また元気になって面白い紙芝居をしてもらわないといけないのに。

「何かあったの、顔赤いけど?」

 恵美ちゃんが私の顔を覗き込んで言う。

 ドキドキしているから、意識をしているから、顔が多少赤くなっているのは自覚しているけど、まさか指摘されるくらいに赤くなっているなんて思ってもいなかった。

「もしかして、アイツとなんかあった? こないだもなんか言われてたみたいだし」

 私と同じように結城くんの背中を見ながら恵美ちゃんが言う。

 言えない。

 結城くんの紙芝居を観て、彼とエッチをする幸せな夢を見たなんて。

 夢のことを思い出してしまう。顔がもっと熱くなっていく。止めようとしても、止まらない。どんどん加熱していく。自分の顔を見られるわけじゃないけど、もし見られたとしたら、おそらくさっきよりも、恵美ちゃんに指摘された時よりも真っ赤になっているだろう。

「何か怪しいな?」

「……ほっ、本当になにもないから」 

 疑い続けている恵美ちゃんに慌てて否定の言葉を言う。

「ほんと?」

「……うっ、うん」

 なおも疑い、疑念を持ち続けている恵美ちゃんの問いに私はシドロモドロになりながらも、なんとか返事を返す。

「そっか。駄目だよ。湊ちゃんには先輩がいるんだから。他の男のことなんか考えてたら」

 先輩という言葉を聞いた瞬間、心臓のドキドキが止まった。一気に落ち込んでしまう。

 そう、私には付き合っている先輩がいる。

 その人と、生まれて初めてデートをした、初めてキスをした、セックスをした。

 やっと初恋をしたのに、好きになるという感情が分かったのに、もう全部経験してしまった。

 ウキウキした気分は消滅していく。気分が滅入っていく。

 滅入っていくのは、これまでのことだけじゃなく、これからのことを考えて。

 付き合っているから、これからも先輩と一緒に帰らないといけない、手を繋がないといけない、キスもしないと、セックスもしないと。

 そんなことはもうしたくない。そんなのは好きな人とすること。

 私の好きな人は別の人なのに。

 けど、拒んだら先輩は絶対に怒るだろう。それも、すごく怖く。

 どうしよう、なんとかしないと。もしかしたら今日の帰りにでも求められるかもしれない。

 もう絶対に、先輩と気持ちのよくない、あんな行為をしたくない。

 気持ちよくないことなんかしたくない。

 一緒に帰るのは別にかまわないけど、それ以上のことはしたくない。

 だけど、強引に求められたら私は拒否できるのだろうか。


 心配事は杞憂に終わってくれた。

 いつものように部活帰りに先輩と並んで帰る。前は常に手を繋いで歩くことを求められていたけど、今年に入ってからは横並びに、というか私が少し遅れて、歩くだけ。

 昨日も、今日も一緒に帰るだけ。それ以上は要求されない。駅で別れて、電車に乗ってホッとする。けど、これが明日も続くとは限らない。次は先輩に家に、セックスをしないといけないのかもしれない。

 そう考えると、すごく憂鬱になってくる。

 それでなくても結城くんのことで、色々と一杯なのに。


 結局、この一週間先輩は私の体を求めてはこなかった。

 それはそれでうれしいことだけど、でも来週もそうとは限らない。

 来週は、言われるかも、家に連れて行かれるかも、拒んでも強引に押し倒されてしまうかも、無理やり襲われてしまうかもしれない。

 落ち込んでいく。

 でも落ち込む要因は、それだけじゃない。

 もう大分、あれからけっこうな時間が過ぎていのに、私は未だに結城くんに紙芝居の感想を告げていない、お礼も言っていない。

 まだ、ドキドキしながら、赤面しながら、ただ結城くんの背中を見ているだけ。

 その背中はあの日からずっと小さく、ちょっとだけ力なく曲っているのに。

 言わないといけないのは分かっているのに、恥ずかしくて近付けない。

 でもそれ以外にも学校の中だから、結城くんとは話せないという理由が。

 でも、勇気を出して行けば。

 無理。できない。友達に見られたりなんかしたら。

 そうなると、全部話さないといけない。

 それも恥ずかしい。

 ああ、そうだ。だったら別の場所で、学校ではない他の所で、知り合いが見ていなくて結城くんと一緒になれる空間なら言えるかもしれない。

 となると、あの場所しかない。ショッピングセンター、紙芝居の上演の行われる場所。

 あの場所でなら言えるかもしれない。ドキドキは治まってはくれないけど、勇気を出して結城くんと話すことができるかもしれない。

 行かないと。もう一度、観に行かないと。

 そして、今度は何も言わずに帰ったりなんかせずにちゃんと伝えないと。

 でも、今週は大事な用事があるから結城くんの紙芝居を観には行けない。

  

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