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事後 2


   こう


 眠れない。

 気になってしまう。今更気になんかしても、もう遅いのに。それでもやっぱり気になってしまう。

 その結果、全然眠れない。

 それでも一応寝ようと努力をする。無理にでも寝ようと固く目を瞑る。

 瞼の裏に、というか脳裏に藤堂さんの泣き顔が蘇ってくる。

 あれからもう何回したのか判らないくらいの後悔を、また。反省も同時に行う。

 どうして上演してしまったんだろう。セックスのつもりだったのに、レイプなんかを。

 セックスができていたはず、楽しませ、悦ばせていたはず。これはヤスコも言ってくれた。

 なのに、最後に涙。そして走り去っていく藤堂さん。

 やはり藤堂さんを傷付けてしまう紙芝居だったのか。

 けど、ヤスコは感動の涙だと言っている。

 それならば、うれしいし、喜ばしいことだけど。

 だけど、それはあくまで他者の意見であり、藤堂さんの気持ちじゃない。

 ヤスコの言葉を信じられれば、縋れれば、この胸の中にある嫌な気持ちは一気に解消され、またあの気持ち良さに浸れるはずなのに。

 それなのに、ずっと引き摺ったまま。

 駄目だ、考えるのは、思い悩むのは止めよう。

 これ以上しても結局は堂々巡りになってしまう。本人に涙の理由を聞かないかぎりは、真相はずっと判らないまま、闇のまま。

 ならば、明日学校で聞こうか。

 校内で藤堂さんと話すことは憚られていたけど、あの時意を決して報告に行った、しかし件の先輩からの報復はなかった。それは単に俺にはなく、もしかしたら藤堂さんにはなにか遭ったかもしれないけど、それならばきっと彼女は紙芝居をあんなに必至になって観に来ないだろう。つまり、何ら問題はなかったのかもしれない。

 ならば、また話をしてもきっと大丈夫だろう。

 ……多分。

 もしかしたら単に運が良かっただけかもしれないけど、それでも藤堂さんに涙の真意を確かめないと。

 そうと決まれば、早く寝よう。このまま眠れずにいたら、明日は睡魔に負けて学校をサボってしまうかもしれない。

 再び目を瞑り、眠るための努力を。

 

 眠れないまま朝を迎えてしまう。

 いつもの俺なら絶対にこんな状態では学校には行かずにサボるけど、今日は這ってでも行くつもりだ。聞きたいことが、確かめたいことがあるから。

 自転車を走らせていると睡魔が急に襲ってくる。駄目だ。こんな状態で欲求に負けてしまったら大事故をおこしてしまう。

 何か考えごとでもして睡魔を追い払わないと。

 脳を動かす。睡魔に負けないように。

 昨日からずっと頭を悩ましている問題が瞬く間に脳内を占拠した。おかげで睡魔は俺の中から霧散、消失してくれたけど、代わりに悩みと不安がぶり返してくる。

 不安が脚を止める。真意を知りたいと思う反面、知るのが怖いとも思う。

 それでも走る。遅刻ギリギリで学校に、教室に到着。

 自分の席には真っ直ぐには向かわず、藤堂さんの姿を確認する。もしかしたら休みという可能性だってあるから。

 いた。これで聞ける。けど、今はまだ無理。機会を探って慎重にいかないと。

 一時間目が終了する、休み時間になる。

 俺は席を立つ前に体を反転させ藤堂さんを見る。

 偶然なのか藤堂さんも俺を見ていた。

 目が合う。

 が、その瞬間そらされてしまう。

 昨日はずっとその目を見つめながら紙芝居を演じていた。藤堂さんはずっと目をそらさずに観てくれていたのに。

 ……嫌われたんだ。

 ……レイプになってしまったんだ。

 もう聞きに行く、確認しに行く必要なんか無い。

 俺は取り返しのつかないことをしてしまったんだ、彼女を、藤堂さんを傷付けてしまったんだ。


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