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代理魔王の恋愛事情  作者: 天夜ゆる
桃色の桜
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ヒーローは遅れてくると言うけれど



ロゼさんが魔法を弾いたのはどういうことなのか。私には分からず、彼女がただ、雫を伝わらせている顔を見つめていた。


前列にない、魔法を弾く現象。無詠唱かつ、本人も意図していないそれを、果たして魔法と言っていいものなのか分からない。なのに、魔法らしき気配を感じる不整合さが不気味で、ひとつ分、息を呑んだ。



「全部が…無駄だとしても、行動してみなきゃ分からないのなら…わらわは行動をする。そなたが今までどのようなことを経験してきたのかは…分からないけれど、わらわは…」



「うるさいうるさいうるさいっ!!ぜんぶ…無に帰してしまえばいいのに!!」



差し伸べかけた手を、ぱしり、と払われた。桃色の髪が風に揺れる。その様子を、ただ傍観していた。


例えば。ロゼさんに過去、何をしても解決しなかったことがあったとして。それを私自身が救えるか、なんて分からない。なのに、ただ手を差し伸べるだけなど――烏滸がましいにも程がある。その人の"闇"を知らないのに、触れようなど…よく考えれば、拒絶されて当たり前なのに。それすら、頭から抜けていた私は何がしたかったのか。もう、すでに答えなど見失ってしまった。



「ロゼ……貴女は…」



「お姉ちゃんにも関係ない!」



取り付く島もない。わかりもしない、御託なんか並べたところで何一つ解決しない。それくらい、最初からわかっていたはずなのに。


いつかに破壊された通信機器の欠片は無残にも、どこかへと消え去ってしまった。きっと、ロゼさんの星弾で飛ばされてしまったのだろう、と踏んで。破片には気をつけなければならない、と意識を置いておく。いつものように、勢いに身を任せて、膝をつく…なんてことをしたら最後、きっと…痛めてしまうだろうから。なんて、自身の安全確保ばかり。エゴがすぎる、だなんて誰かが嘲嗤った。



「これは、ぜんぶ…ぜんぶ!わたしがわるいこだったから……!引き起こしたことなの…」



見た目よりも、小さな少女は苦しそうに叫ぶ。等身大を表す術など、私にも分からなくて。それでも……諦める、なんてことはしたくない。手を差し伸べるにも、力量差は目に見えていて。まだ、未熟な私なんかが希望など与えてはいけない。家族愛に部外者は介入してはいけない。王族だからこその麻痺は、人を苦しめるだけ。ただ……彼女を見ていたら分かってしまった。



「……ロゼ。貴女は悪い子なんかじゃない。だって私にも、未熟なところはあったんだから。貴女の意思を分かってあげられなかった。本当に……ごめんなさい」



「おねえちゃ……」



どうやらサクラお姉様は今まで、ロゼさんとの過去を思い返していたようだった。私なんかじゃわからない――――二人だけの思い出話。特別だからこそ、成り立つのに、月明かりに混じった黒煙が…この場に似ても似つかない、複数の破裂音を轟かせた。


一体、何事なのだと振り向けば、ルヴァがロゼさんの顎を乱雑に掴み、冷ややかな目を向けていた。煙の姿を纏っている、というのに実情が理解できるのは……きっと同じ魔族だからか。わからない。



「アナタにいくら期待をかけたと?思い上がるにも程があります。我が主様の期待を裏切るようであれば――この場でアナタを切り捨てることすら、ワタシは厭わない」



今までの弾んだ口調とは違い、冷ややかで地を這うような低音。ぞわり、と私にも悪寒が背筋を伝った。厭わない……元から、ロゼさんはルヴァの……フリューリムの捨て駒でしかなかった?それにしては、丁重に……大切に扱われているような気がする。等身大の彼女がいられたのが、フリューリムだったのだから。



「……やはり、異世界人の血を引く(・・・・・・・・・)者は厄介ですね。いや…そう言ってしまえば、主様に失礼でしょうか」



ぶつぶつ、とルヴァは呟きながら、宙を舞う。その腕の中には、口元を黒煙に塞がれ意識の朦朧としたロゼさんがいて。魔法を放つにも、ロゼさんに当たってしまいそうで、放てない。そんなもどかしさは、お姉さまも同じようだった。


軌道を完全に操ることのできる魔法があれば、なんて思う。魔族はヒトとは違い、杖を使わずとも素手で高精度の魔法を放つことができるにしても。ミリ単位のような、本当に細かい調整など、できやしない。母様なら、私よりはできるのかもしれないけれど。こんな夜半に――父様の治療で精一杯な母様を連れ出すことなんて、できやしない。しかも、通信機器がないのに、だ。


私が自室の窓から飛び出し、ロゼさん目当てにこの場に来て、何時間経ったのだろうか。最初は頂点にあった満月も、今では傾き始めていて。手を伸ばせば届きそうなほどの距離に見える気がする。朝を迎えるのは、あとどれほどなのか。



「ねぇ、背中が空いてるのってどうなの?」



闇夜に紛れてしまいそうな男がひとつ、疑問を口にした。そして、ルヴァに対してひとつ、斬撃を放つ。黒煙が分断されたことにより、ロゼさんの拘束が解けた。疑問を口にした、その人を私は見たことがある。否――見たことがなければ寧ろ、おかしいほど。



「魔物化させられた人もいたみたいで、手こずっちゃって遅くなった。ごめんね、アリサ」



「アリサ様が王族用の通信機器にも関わらず、多くの魔力を乗せてくれたおかげで見つけられたんだ。ありがとな」



希望は、意外と近くにあるもので。一人でできないのならば、人の力を借りれば良い。今までの私にはできなかったことが、今たしかにできてしまう。これを成長と呼ばずして、なんと呼ぼうか。ひいても、それは……彼らに感謝するべきなのに変わりないのだけれど。



「遅れてやってくるヒーローが手こずっただけなのはカッコ悪いよね」



「そんなこと……ない」



月光に照らされたユイトが、自嘲して笑ったのに、私は確かに否定を口にした。



「ヒーローは遅れてやってくる」

それが、ただの遅刻じゃなくて、人助けしてるからなのであれば正当化できるはず

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