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精霊士養成学園の四義姉妹  作者: 霧島まるは


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37.キロヒ、まぶしい

 森林経由、川班の二つ目のポイントは小さな滝の下だった。

 山の中の、三つの川の始まりが合流して出来た滝。もはやそれは生まれたての川ではない。大人になりかけた、水量と力強さをたたえた落下を見せる。周囲に容赦なく飛沫をまき散らしながら。

「……夏なら最高ですわね」

「そうですね、十二月でなければ……」

 イミルルセとキロヒは、その細かく冷たい飛沫から、できるだけ距離を取ろうとした。

 むしろ楽しそうにしているのはツララである。空中に舞う飛沫を凍らせて、きらきらと輝く氷の粒にしてはいそいそと亜霊域器に持ち込んでいる。ただの水を凍らせるのとは、また(おもむき)が違うようだ。

 ザブンはたまった滝つぼの水の上にぷかっと浮いている。温かい水の方が得意だろうが、冷たくとも一応は大丈夫なようだ。

「うお、ぬるくなってるぞ。すごいなザブン」

 飛沫も気にせずに、滝つぼに手を突っ込むエムーチェがはしゃいでいる。ついでに自分の船の精霊も浮かせていた。滝つぼで海亀と船が見られるのは、きっといま世界でもここだけだろう。

 一年生はザブンは見慣れているが、エムーチェのジャババーン()は見慣れていない。飛沫も気にせず近づく男子が風邪をひかないか、見ているキロヒの方が心配になった。

 しかし、さすがは特級の五年生。エムーチェの温かい風が吹き抜け、一年生の冷たい水気を吹き飛ばしてくれた。

「エムーチェ先輩、すげぇ」

 男子のキラキラ輝く尊敬の眼差しに、エムーチェも「へへっ」と嬉しそうだ。

 今日の屋外実習は、この滝つぼで終わりだという。帰る時間まで、周辺を散策しながら亜霊域器に精霊の望む自然物を入れていく。

 キロヒも帰りの体力に気をつけながら、クルリと周囲を見回った。いろんな色の枯葉を集められて、クルリはとてもご機嫌だ。亜霊域器の地面部分が色とりどりになっている。

 そんな楽しい散策の終わり頃、精霊士の女性がこの班のところにやってきた。朝、学園前に集合した際に紹介された、今回の助っ人の一人である。

「少し早いけど、今日はこれで終了、ということを伝えにきたわ。一緒に戻りましょう」

「ういっす、みんな集合ー!」

 穏やかに告げられる内容に、エムーチェはわずかの疑念も浮かんでいる様子はない。

 他の班に問題が起きたのだろうかと、キロヒは思った。そうでなければ、わざわざ早めに切り上げる必要はないからだ。天気が悪いわけでもない。

 散らばっている生徒たちを集め、点呼を取る。今回はスミウ、イヌカナ単位ではないため、慎重に人数の確認が行われた。

「よし、全員いるな。じゃあ行くぞ!」

 行きと同じでエムーチェが先頭になって、滝から離れて登って行く。キロヒたちもそれに続いた。

 最後方はキムニルと伝令の精霊士である。

「あ、ちょっと」

 そのキムニルが、女性の精霊士を呼び止めた。キロヒは自分が呼ばれたわけでもないのに、思わずその声に振り返ってしまう。

「……!」

 次の瞬間──ぴかっと激しく白い光が瞬いた。キロヒの半開きの目でも強いと思える光量だ。

 その光が収まりきるより早く、大きな黒い腕が、精霊士の喉目掛けて炸裂していた。滝つぼまで吹っ飛ばされる女性の身体に、キロヒは「ひっ」と小さな悲鳴をあげてしまう。

 キムニルは一体何をしているのか。バシャーンという大きな水音に、さすがに全員振り返った。

 (あらわ)れていたのは、黒地に金の縞が入っている虎に近い姿の精霊。後ろ足二本で人のように立っており、額に一本の金色の角が生えている。キムニルの横にいるそれは、間違いなく彼の精霊だろう。さっき吹っ飛ばした腕は、この精霊のものだった。

「いきなりひどいなあ……」

 ざぶんと水音がした。人の声も。水から何かが起き上がって、ゆっくり上がって来る音が聞こえる。

 でも──姿は見えない。

 そこへ強く白い光が瞬く。さっきも起きた光だ。

 すると誰もいない滝つぼの側に、ずぶ濡れの白の三つ揃いを着た人間が立っていた。明らかに呼びに来た精霊士ではない。白っぽい髪、白っぽい肌、白い服。その頭の上には、輝く白い輪が浮かんでいる。

「アイツ……フキルだっ」

 ニヂロの声が、滝の音を切り裂くように強く響いた。この中ではニヂロだけが顔を知っている、精霊士を除名された人間。ラエギーの同期。あの頭上の輪が、フキルの精霊なのだろう。

 どういうカラクリかは分からないが、姿を変えたり消したりできるようだ。

「やあ、この間会ったね、君には。この分だと、ちゃんとラエギーによろしく伝えてくれたんだろ? 嬉しいよ、ありがとう」

 ずぶ濡れの白いジャケットの腕を上げて、フキルはニヂロに手を振っている。

 キロヒは、その間に何度もまばたきをしなければならなかった。フキルと言われている人の姿が、安定して見えないのだ。刻々と変化していて、どれが本当の姿なのか記憶に残すことができない。

「私のためにたくさん精霊士を呼んでくれたようで嬉しいよ。まさか上級生の特級が出てくるのは予定外だったけどね……」

「チカチカしないでくれる? うちのバリー、結構神経質なんで」

 バリーと呼ばれた精霊が、バチッと金色の縞から光を放つ。

「私に光をぶつけてきたから何かと思ったら……雷か。厄介だね」

「見え方が綺麗すぎたからね。元の精霊士本人より綺麗に見せちゃ駄目だよ。僕、覚えてるから」

「ふふ、そうだな。気をつけよう」

 ふわりと浮き上がったフキルは、頭上の輪から降り注ぐ光で綺麗に乾ききっていた。まるで清潔室の光だ。

「それで、屋外実習に紛れ込んだ目的は?」

 バチバチとバリーの金色が光を強める。その肩に飛び乗るキムニルの髪が、その力の影響か逆立った。

「……復讐はできれば現地で派手に、そして多くの人に見てもらいたいと思わない?」

 ふわふわと滝ほどの高さに上がったフキル。

 そこから目にもとまらぬ速さで光が走ったが、同時にバリーからも光が走り、交差してバチッと大きな音で弾けた。キロヒたち一年生が、驚きで飛びのく暇もない間の出来事だ。

「いいや、全然分からないね」

 首を振るキムニルの髪の毛先も、バチリと音を立てた。


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