5 帰ってきました
王都での社交界デビューも無事?に終え、僕と父さんは領地に戻ってきた。
屋敷に帰ってきた僕を一番に迎えてくれたのは、
「ユル兄さま!」
勢いよく抱き着いてくる妹だった。
ぐらりと後ろに体を傾けながら妹に答える。
「ただいま、エルシー」
「おかえりなさい!あのね!あのね!」
妹はぴょんぴょん跳ねて金髪ツインテールを揺らしながら、楽しそうに僕がいない間の屋敷のことを教えてくれる。雪が降って雪だるまを作った、使用人たちと雪合戦をしたなどなど。
普通の貴族令嬢だとしなさそうなことだが、元気だったということに変わりないので問題なし。
「元気みたいでよかったよ」
「うん!でも、ユル兄さまは元気なさそう?」
どうやら予想外の連続からきた疲れを妹には見破られてしまったようだ。心配そうに涙目で僕のことを見上げてくる。
「だいじょうぶ?」
「うぐっ」
僕はとっさに胸を押さえつける。
何という可愛さの破壊力か。控えめに言って我が妹は天使なのかもしれない。
僕が何も返事をしないでいると、妹は僕の服の裾を控えめに引っ張てくる。瞳にはどんどんと水滴が溜まってきていた。
これは何とかしないといけない。
「大丈夫、大丈夫。そうだ!お前が見たいって言ってた王女様の話でもしようか」
妹の瞳から水滴は消え、輝き始めた。今度は力強く服の裾が引っ張られる。
「王女さま!物語のお姫様みたいにキラキラしてた?」
「んー、キラキラしてたかな?凄い奇麗って感じ」
「奇麗なのかー!じゃあ、お母さまとどっちが奇麗?」
なんとも答えずらい質問か。だが、妹の言葉には答えなければ。
「どっちも同じぐらい奇麗だよ」
「あらまあ、ありがとう」
いつの間にか妹の後ろに立っていた母さんが僕の言葉に応えていた。
妹は母さんの方に振り向くと、すぐさま飛びついた。勢いよく飛びつかれた母さんはびくともせずに妹を受け止めた。
どうやらもうお兄さま成分は補充し終わったようだ。残念なことこの上ない。
「凄い!お母さまは王女さまと同じだって!」
「ふふっ、嬉しいわね」
母さんは妹を優しく撫でている。
一通り撫で終わると、僕と父さんの方を向く。
「二人ともおかえりなさい」
「ただいま」
答えたのは僕。
父さんはというと、
「エルシーはなんで俺にだけ抱き着いてこないんだ……」
小言で何やらぶつぶつと言っていた。
それから何故か僕が王女様の最初のダンス相手だったという話になり、妹から「ユル兄さまは王女さまと結婚するんだね!」となんとも恐ろしいことを天使の笑顔で言われたのだった。
次の日の朝、僕は稽古用の木剣をもって屋敷の前庭にいた。
しばらくすると、大柄の男が門を素通りで入ってくる。決して門番が仕事をしなかったというわけではなく、僕の剣術の先生だから通されたのだ。
先生は僕を視界に収めると大声で話しかけながら近づいてきた。
「久しぶりだな、ユル!」
先生と会うのは実に一週間ぶり。”ギフト”付与やら社交界デビューやらで一週間もの間領地を離れていたのだ。
僕は先生に礼儀正しく頭を下げながら、答える。
「お久しぶりです。今日からの稽古よろしくお願いします」
「ははっ!相変わらずお前は礼儀が良いな!」
先生は笑いながら背中を叩いてきた。
威力がおかしい気がするが、耐えながら答える。
「母さんの教えなので」
「そ、そうか、あいつの教えか」
先生は何故か笑いをこらえるように言ってきた。そして、わざとらしい咳ばらいをして言葉を続ける。
「まあそんなことはどうでもいい。王都はどうだった?お前はなんの”ギフト”をもらったんだ?」
僕は先生に偽りの”ギフト”を教える。
「『剣士』でした」
「おお、剣術の”ギフト”をもらったんだな。これなら俺が剣使いとしての戦い方を教えていく方向で大丈夫だな」
「はい!これからもお願いします」
僕は再び頭を下げる。
直接的に剣術の”ギフト”をもらったわけではないが、剣術の”ギフト”をいつでも使えるわけであって剣での戦い方を学んでおいて損はない。
「そうとなれば早速実践と行こう!ギフトを得てどれくらい強くなったかお前も試したいだろ」
「はい!」
僕は先生の言葉に力強く頷く。
確かに試したいと思っていた、『剣士』ではなく『全知全能』の力を。
実際に戦闘系統の”ギフト”を使うとどれくらい強くなれるのか、試してみたくて仕方がない。
「よし!それなら俺と模擬戦だ!」
そうと決まれば僕と先生は互いに距離を取り、木剣を構える。
先生が始まりの合図をかけるより前に、僕は『全知全能』を使う。
(『剣聖』を発動)
《ギフト【善】『剣聖』を発動しました》
”ギフト”の発動と同時に、体中に今までに感じたことないほどの力が駆け巡っていく。剣を持っているはずだが、剣が自分の腕の延長であるように感じる。
これが”ギフト”の力。
ハッキリ言って持っている者と持っていない者では天と地ほどの差があるように思える。
僕を見ていた先生が獰猛な笑みを顔に浮かべ始めた。
「始め」
先生の声が聞こえた瞬間に僕は駆け出した。
身体能力があがっている訳ではないようで、走る速度は以前と変わっていない。
立ち止まったままの先生にある程度近づいたところで、直感的に感じ取る。
自分の間合いに入った。
僕は本能的に右上段に振り上げた木剣を流れるように振り下ろす。
僕の人生で渾身の一撃ともいえる斬撃を、先生は何でもないように横に倒した木剣で受け止めてきた。
生じた鍔迫り合い。
獰猛な笑みを浮かべた先生が言ってくる。
「次はこっちの番だ」
先生は僕の剣を力強くはじくと、幾万回とみてきた先生のお手本ともいえる右上段からの斬り下ろしが放たれる。
今まででは防げなかった一撃。
だが、今の僕には剣筋が分かる。
僕は相手の剣が到達する場所に自分の剣を持っていき、やや斜めに傾けた剣を合わせる。
「想像以上だ」
先生の称賛と共に、合わさる剣。
だが、先ほどの先生が受け止めたときのような鍔迫り合いなどは発生しない。鍔迫り合いでは筋力的に先生に分がある事が分かっているので、わざわざ先生の有利な状況など作ってやらない。
僕の斜めに構えられた剣に沿って、先生の剣は軌道修正されていく。
先ほどの先生の攻撃の受け止め方が剛だとすれば、こちらは柔。
剣に剣を合わせて攻撃を受け流す。
先生の剣は受け止められたわけではないので、僕の剣に沿って僕の体の横を通り過ぎていく。
当然、剣を振り切った態勢になる先生には、隙が生じた。
一方の僕はただ剣を斜めに構えていただけなので、直ぐに攻撃に移ることが出来る。
僕は流れるように手首を回し、横一閃の薙ぎ払い攻撃を放とうとする。
この攻撃は必中。今からでは先生が剣を戻すのも間に合わない。
僕も僕の”ギフト”もそう告げている。
殺った。
そう思ったときに、先生の声が嫌にはっきりと耳に届く。
「流石に負けるわけにはいかないんでな」
次の瞬間、僕の体は横に吹き飛んでいた。
先生の方をちらりと見れば、振り回された足がある。
どうやら先生は剣で防ぐのが間に合わないと判断した瞬間、即座に回し蹴りを放ったようだ。
やっぱり先生は強い。
そこで僕の意識は途切れたのだった。
最後まで読んでいただき有難うございます。
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