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へっぽこ魔人生  作者: 岸辺濫瀟
第6章
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22.破壊の前兆

 また追い詰められたと思ったその時、現れたのは絶望だった。俺の目の前に死神が立っていた。


 そう錯覚するほど覇気に満ちた憤怒の表情を浮かべるカナン=アズールがいた。俺を殴り飛ばした後タルバのと俺の間に立ちふさがり、タルバを守るように後ろに押しやる。


 全く視線を逸らさない破壊神の魔人は俺を睨みつけていた。


(そうか。俺は本当に激昂したカナン=アズールを見たことがなかっただったのか。滑稽だな)


 自分の愚かしさに今更気づくと共に勝負は決まったことを悟る。これ以上ないくらいのオーバーキルだ。タルバだけなら俺にも勝機はあった。


 タルバの現状では俺に勝てないはずだった。それも当然だ。俺のテリトリーで存分に力を振るえる時点で環境的なアドバンテージが突出している。

 だが最大の不確定要素であり、勝敗を戦う前に決するものがあった。それがカナン=アズールだった。


 何故かわからないが、カナン=アズールはタルバに執着していた。それは魔人の王としての立場や役割を期待していると思っていた。今この時までは。


 その顔は立場がどうとか、役割を望んでいるとかそのような動機ではなかった。少なくともそうは見えなかった。

 俺に見えるのは純粋な激情。タルバが殺されると思ったのだろうか。生憎とその感情の動機まではわからなかった。


「どうしてそんなに怒っている?魔人同士で争うなとでもいうつもりか?」


 わからなければ直接聞いてみるとしよう。どうせこれが最期になるのだから。


「あれほどまでにわかりやすく誘っておいてッ!!まだしらを切りますかッ!!」


 唾を飛ばしながら怒鳴りつけてくるカナン。言葉を発しながらついでとばかりに殴りかかってくる。先ほどは意識外からの一撃だったために直撃したが、今度は助走があったため寸前で回避をする。


(誘っていた?何をだ?この場所にも店にも誘導した覚えは……店には誘導したかもしれない。)


 ついぞ思い当たる節があったせいで旗色が悪い。そしてここでついに俺にもわかってしまった。カナンはタルバを異性としてみていたのだと。


 魔人になる前から恋愛感情や性欲というものが薄かったからここまで気づくことが出来なかった。しかし、だからどうしたというのだ。俺だってタルバが来なければそんなことしなかった。これは断言できる。


「だからどうしたというのだッ!男なら性欲があっておかしくないだろう!それがどこの誰に向かおうが勝手だッ!!」


 俺は啖呵を切って立ちふさがる最強の魔人に立ち向かうことにした。


――――――――――――――


 空から見ていた時にはまさかそのような事態が起きるとは思っていませんでした。まさかアタナシア=グラニエがタルバ様に欲情しているなんて。


 私はタルバ様を監視するついでに他の客と呼ばれる下卑た男どもを眺めつつ、タルバ様に渡された小瓶の正体に辿り着いた。この都市ではそれはそれは非常に効く媚薬だということを。


 初めて来たという人間たちが口々に小瓶のおかげで非常に楽しめたなどと居酒屋で騒いでいる声が良く聞こえてきました。疑いながらもテーブル上に乱雑に置かれた小瓶を丁寧に見たところ特殊な媚薬であることがわかりました。しかもゾンビにしか効かないとはこの都市以外では不要な魔法薬でした。


 アタナシアは外部に流出しても価値が出ないようにゾンビ限定に効果がかかるように制作していたようです。ゾンビを作り理性をどうやってか定着できるのはアタナシアだけです。そうなると小瓶はこの都市以外では無用の長物となります。


 それに小瓶を持ち帰ろうなどしなくともこの都市に人を攫って洗脳させればいくらでも使えますから。それくらいの辛抱は悪人であっても出来るようでした。


 私はカエデと共にその事実を知りましたが、平静を保つことが出来ました。それというのも私たちが気づいたときにはタルバ様はお店に入られていましたが、急いで意識をタルバ様に向けるとタルバ様がきちんと女性をお求めになっていました。


 ゾンビである点は倫理としてどうかとは思いましたが、それでも男性に走られるよりは幾分かマシでした。お相手の女性をどうするのかとも思いましたが、消滅をさせていたところを見るにお相手を苦しめるようなサディスティックな一面があるのかと存じます。


 ゾンビと違いますが、私は魔人として高い再生力を保有していますので、そのような嗜好であっても問題ありません。私の好みよりもタルバ様に好まれることこそが最優先事項なのですから。


 現状タルバ様のお好みとしてはゾンビで女性、サディスティックなお遊戯を好まれるということになります。ゾンビにはなれませんが死なないという点では私は最有力な存在ではあります。


 カエデと話していて一安心しておりました。そしてタルバ様の行動を随時見ているとゾンビの女性を消滅させてからこの都市のゾンビたちを殲滅し始めました。


 私の想像していた勇姿が見られていたことに少し興奮したと共に、これから始まるアタナシアとの戦いを予感させるものでした。


 確かにタルバ様はいかがわしいお店に立ち寄られましたが、いたしてないわけですから、英雄色を好むと言いますからいいのです。むしろ戦意を高揚させる重要なファクターだったのかもしれないですね。守るものができると人は強くなると言いますから。本当に強くなるというよりも精神性が折れずらいというだけではありますが。


 そしてタルバ様とアタナシアの戦いを観戦していた私たちは視界がゾンビたちで遮られようともタルバ様の戦う御姿を見届けていました。お互いに探りあうように力を解放していく様はウォーミングアップをしているように見えました。そしてゾンビに固められたその時、タルバ様は真の強さを解放されました。


 あまりの圧倒的な戦いっぷりに私はタルバ様が王になった御姿を幻視しました。アタナシアが路傍の石ころのように跳ね回っていたように思えます。何をしようともアタナシアに勝ち目はありませんでした。後は消化試合といったところでしょう。そう安心して眺めていた時タルバ様は何故か力を弱めました。


 それはまるでアタナシアで実験をしているようでした。魔人がどれだけ自分の攻撃に耐えられるかの強度実験。気づけばアタナシアは右の上半身がゾンビ化していました。その時私は気づいてしまったのです。


 タルバ様はサディスティックな側面があり、ゾンビのお相手を好まれると。そしてタルバ様が立ち寄られたお店には偶然にも女性の従業員しかいなかったことを。


 バラバラに散らばったピースが一つの絵を完成させるがごとく、私の頭脳が不穏な答えをはじき出しました。


 それはゾンビと暴力的なプレイが出来れば男女関係ないのではないか。むしろどちらでもイケてしまうのではないかという両刀使いの可能性に辿り着きました。


 不安を抱えながらもその可能性を否定していました。誰だって受け入れがたい現実というのは拒絶したくなるものです。それにカエデも来る前から男性に走る可能性を仄めかしていました。だからこそ、ありえないと一笑に付すことができませんでした。私の長い人生の中でもそのような同性を愛する方はいらっしゃいましたし、時には人以外の存在を愛する人間もいました。


 私の人生がタルバ様が異性愛者であることを断定させなかったのです。そしてその瞬間はいきなり訪れました。


 タルバ様の一挙手一投足を眺めようと目を凝らすと、アタナシアのほうからタルバ様にキスしようと両肩を掴んだではありませんか!


 ゾンビたちの隙間から見えた彼らの姿、それはタルバ様の両肩を掴み、血走った目で、糸を引くよだれたらしながら股間の隆起したアタナシアとポケットから小瓶を取り出そうとして身を引くタルバ様でした。


 私はその光景が目に焼き付いてしまい、脳みそで判断するよりも慣れ親しんだ権能でゾンビの球体をぶち抜きアタナシアを殴り飛ばしていました。


 当のアタナシアはとぼけた顔で私にぬけぬけと問いかけてきました。


「どうしてそんなに怒っている?魔人同士で争うなとでもいうつもりか?」


 この男、言うに事を欠いて魔人の争いだとしらを切るつもりですね。あの姿みた誰もが十中八九タルバ様を狙っていたと判断するだけのことをしておいて。一発ぶん殴ったおかげで理性を取り戻しこれましたがこれだ煽れるとはタルバ様に愛されているから大丈夫だと、俺はお前より上であると言外に告げられているようでした。


「あれほどまでにわかりやすく誘っておいてッ!!まだしらを切りますかッ!!」


 私の言葉に少し考え込むアタナシア。いや、この泥棒猫。


 どう切り返してやろうかと考えているみたいですね。例え何を言われても一線を越えさせるわけにはいきません。タルバ様がどれだけ特殊なお相手を望まれようとも何とかしますが、性別の壁を越えることは限りなく難しいのです。そして考え込んだ末に出てきたアタナシアの言葉は私を更に苛立たせる言葉でした。


「だからどうしたというのだッ!男なら性欲があっておかしくないだろう!それがどこの誰に向かおうが勝手だッ!!」


(タルバ様に性欲があるのはいいのです。ええ、それはもう男性ですし?無いよりはあった方がいいというものです。で・す・が誰に向かうかは最終的に私でなくてはなりません。百歩譲っても女性に。それを自分に向けさせようなど言語道断……ユルサレナイ。それだけは絶対にユルサナイ)


 極めつけはタルバが取り落した小瓶です。この薬はゾンビにだけ快楽を与えるもの。そして奴は今までの戦いを見るとマゾヒストです。傷ついても魔人としての再生力とゾンビで肉体欠損を補える特殊な権能の運用ができます。そして右上半身はゾンビと化しているのです。つまり奴は……。


 そんな思考に囚われているとタルバ様が取り落した小瓶は床に落下してゾンビたちに取り込まれました。蠱惑的にくねくねするようになったゾンビとそれと繋がる奴。気持ち悪いとしか思えません。もう奴をただの魔人ともタルバ様の踏み台とも思えません。私の生涯で初めて出来た()()です。


 タルバ様には申し訳ないですが、これ以上のアプローチを看過することは出来ません。奴を即殲滅してタルバ様の嗜好を確認し必要に応じて矯正しなければなりません。


「……言いたいことは終わりましたか?私が待ち人を望んでから長い……長い時間が過ぎました。それだけ待ち望んだのです。あの方でなければならないのです。勢いだけで凌駕出来るほど浅薄な願いではないのです。精神が摩耗し壊れそうな私の唯一のよりどころ。それを奪わんとするなど……こんなことならば徹底的にわからせておくべきでした…。次の魔人からはよくよく実感させるといたしましょう」


 感情が限界を振り切り、一周回って冷静になってしまいました。私の魔人としての特性が発揮されてしまったようです。


 破壊神様の魔人となったときから世界へ与える影響を鑑みて、精神状態が著しく動揺すると強制的に平静に戻るようになっております。私自身この特性が発揮されたことは片手で数える程しか記憶にございません。久方ぶりに発動に前はいつ起きたのだったでしょうと考える余裕すらあります。


「タルバ様?お話は後ほど…。まずはあの下賤なライバルを蹴落とさせていただきます。それでは失礼します。」


 私はタルバ様を体を掴んで外に放り投げる。私が開けた球体ゾンビの穴を通り抜け、カエデの元に飛んでいくタルバ様。万が一にも怪我をされないよう手加減しましたが……カエデを大分通り過ぎて空の彼方へ消えて行ってしまいました。


(……感情は落ち着いても肉体は落ち着いてはくれないようですね。長い時間を生きても新たな発見があるものです。タルバ様も魔人ですしカエデもいますから大丈夫でしょう)


 カナンはアタナシアに向き直って、権能を発動する。


 カナンの持つ権能「破壊」。この世の法則や理を無視してどんな相手も物も破壊することが出来る。範囲や威力はどのように当てるか次第。


 例えば広範囲の魔法に権能を付け加えると魔力をどれだけ込めたかに関わらず、全てが壊れる。生物は砕け散り、生態系は消滅する。大地もそこに存在する植物も消え去り、何も育たぬ灰の大地を作り出す。永続的ではないことが唯一の救いかもしれない。


 数百年ほどかけて、自然を作り魔物を運び魔力を浸透させれば少しはマシな環境に出来る。そんな壊れた権能。


 破壊神様曰く、「初めて自分の魔人を作ったから、やりすぎちゃった」とのこと。このことで大変創造神様からお叱りを受けたことや他の神様たちからもクレームが絶えなかったとのことでした。私としてもあまりに強力過ぎるため、普段は使用しないようにしております。


「タルバ様にも席を外していただきましたので、私がどれだけの力を振るっても幻滅されることはないでしょう。あなたの傷を癒すゾンビがいなくなるまであなただけは壊れないでくださいね?」


 私は軽く左腕を横に薙いだ。灰色のエネルギーがアタナシアに向けて放たれたのだった。

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