23.問題が一杯
今回は説明回です。
漸く60万字を超えました。驚きです。
突如乱入したカナンは俺を問答無用で投げ飛ばして蚊帳の外へと放り出した。放り出したというのは語弊があり、正確には数十秒で成層圏に到達していた。幸いにも成層圏まで来る頃には徐々に勢いが衰え、翼と体幹で制御出来た。
(途中で一瞬カエデが手を伸ばしていたよ)
カナンに掴まれて放り投げられながら、魔人の肉体ってやっぱり強いんだなと実感した。俺とは比べて腕力が桁違いだ。破壊神の魔人って馬鹿力なんだなぁ。絶対殴られたくないしさっき絶対怒ってたから時間空けてから戻ろうかな。それとも戻らなくてもいいんじゃないかな。
真後ろにいた俺でさえ激昂しているカナンが恐ろしく感じた。直視していたアタナシアなどもう破れかぶれに見えた。あの場にいた者としてそうしたくなる気持ちは痛いほどわかる。アタナシア、次会うときは塵になっていないことを祈ってるよ。
(塵にはなってないよ。君が倒さなきゃいけないんだから)
……周囲を見渡してみても誰もいない。成層圏で話しかけてくる未確認生物がいるのかと思った。
(はぁ…見渡してもいないよ。僕は君の精神に宿っているのだから)
(なにっ!?少年のような声で冷静に諭されるとなんか負けた気がする。というか、あなた誰です?)
俺は諭された後も独楽のように周囲を見渡している。見えるのは大陸と広大な海だけだ。ここは一旦下手に出ておこう。
(少し説明しておかないとダメみたいだからね。それに僕の精神が作られたことで君に完璧な形で知識が引き継がれてしまったからね。これに関しては僕も誤算だったんだけどね)
少年の声は俺の質問に答えず、話を進める。
(ちょっと待ってくれ。あなたは本当に誰なんですか?質問に答えてくれ)
突然の事態に混乱しているのか、言葉がいつものようには出てこない。最近は感情的になったりする不調が続いていたから病気の可能性すら疑われる。脳みそをやられてしまったのだろうか。
(あぁ、ごめんごめん。ちょっと状況が悪くてね。精神世界で話そうか。外の時間に囚われずにゆっくり話せるから。最近起きていたことについても僕は知ってるから)
少年の声はそう告げると、俺の視界は暗転した。
――――――――――――――
視界が戻るとイスが2脚置かれた真っ白い空間にいた。イスはどこにでもありそうな両肘に肘おきがある木製のイス。足元を見ても真っ白で地面に立っているわけでもないが、不思議な力が働いているようで透明な床があるようだった。
足元からイスに視線を戻すと片方のイスに少年が座っていた。
「やっときたね。さぁさぁそこに座って話をしようじゃないか」
少年に着座を促され、俺はイスに腰かけた。彼こそが俺の精神にいると言っていた少年なのだろう。
「まずあなたは誰ですか?」
俺が聞きたかった質問。それが正体不明のこの少年のことだった。アタナシアと戦う前にはいなかった、或いは干渉してこなかった。しかし、急に俺に声をかけて干渉するようになった理由があるはず。そして彼は俺について何かを知っている。
「僕か。僕はね、君の魂を守る番人だよ」
「番人…それにしては随分と幼い気がしますが」
「仕方ないじゃないか。僕を再構成する情報が不足していたせいで不完全なんだ」
嘆息している少年は自分の姿に満足はしていないけれども受け入れている様子。再構成?不完全?つまり元々存在していた誰かってことか。
「再構成ってことは元となった誰かがいるわけですが、元は誰ですか?」
「ん~まぁいつかは知ることになるから、いっか。僕は君の知るところの『古の勇者』って呼ばれた人だよ」
「!!」
少年もとい古の勇者本人の言葉に俺は言葉を失った。それと同時にさらなる疑問が浮かんでいく。なぜ古の勇者が魂の番人になったのか、再構成というのは誰がやったのか。それに加えて俺の不調についてや俺の意識がない間の出来事も聞きたい。俺がおかしいのかそれとも俺の周りで起きている事象を俺が把握できていないだけなのか。
「ちょっと長くなるから君が気になっていそうなことを一通り説明するね。まず――」
古の勇者(少年)が俺の質問を待たずに最近あったことで自分が理解できていないことを説明してくれた。
最近感情的になっていたことについて、意識が無かったときに何が起きたか、そして自分についてを詳らかに語った。
彼曰く、感情の暴走は俺の精神に彼の精神が混ざりはじめていたから発生していたという。3人娘を攫った頃のようだ。丁度神銀の心臓を自分に取り込んでしまったタイミング。その時から彼の魂の断片が混ざりはじめたようで、悪く言うと精神が侵食されていたらしい。神銀の心臓にある魂が徐々に俺の精神に移行し始めてしまったという。
普段の自分だったらムキにならないことでも苛立ったり手を出したりしていたのはその影響が如実に現れた結果だそうだ。ただ俺があの島に着いた頃から少なからず影響を受けていたとも語っていた。
原因は創造神様の魔人だったからだ。創造神様の手で作られた神銀の心臓は俺に宿る創造神様由来の権能と共鳴して多少なりとも与えていたそうだ。
今ならば心の底から腑に落ちることだが、三つ巴の戦いを辞めさせようなんて俺の性に合わない。人は争う生き物で戦争というのは個人で解決できるようなものではないと思っている。それは人間の頃から変わらない。魔人の力を得たからと言ってそんな面倒なことを俺が進んでやるとはおかしな話だ。
まさしくあのときから俺はおかしかったのだろう。そしてそれは今になってわかったことで、彼もどうしようもなかったという。
当時は意識らしい意識が無く勝手に影響を与えてしまっただけだった。魂の移行に際して俺の精神や感情に関する部分が曖昧になり、彼の根底にある情動に擦り替わっていった。
彼の意識という意識はアタナシアの都市であるリバティにやってきたときから徐々に確立できたそうだ。アタナシアが捕獲しているゾンビに例の古の勇者の遺体で作成されたアンデッドがいたかららしい。
古の勇者由来のアンデッドは古の勇者の魂で行動を縛られている。つまりそのアンデッド6体と彼の魂は繋がりが必ずあるのだ。
それが意識が芽生えたこと、そして魂の番人の話に繋がる。
6体のうちの1体がいたことで不完全な状態だが自意識を芽生え始めた。正確には自我が戻り始めたというのが正しい。
それでも俺の精神に自分の魂が干渉することを止められず、アタナシアとの戦いで俺の魂がダメージを受けたことで覚醒し創造神様の決定によって魂の万人になったという経緯だった。
「魂の番人って何をするんです?」
「君の魂が破損しないように守ってあげるだけだよ。そうとはいっても魂に干渉する力なんてそんなにいないから、要するに君の相談役みたいなものだよ」
「お目付け役ってことですか…」
カナンや3人娘だけでも少し肩身が狭い思いをしているのに心の中にまで監視役がいるならもう俺の自由はないも同然じゃないか。
「それほど便利な立場でもないんだ。今日はアタナシアっていう相手がいるからこんな感じで君と話しているけど、僕から君のことをずっと見て居られるわけじゃないんだ。僕の知識が共有されているからわかると思うけど、特定の条件で起動する機械みたいなもんさ。君が僕を起こすか魂に干渉されなければ僕が出てくることはないから、好きなだけ自家発電していいからね!」
親指を立ててグッドポーズをしてくる古の勇者(少年)。俺の懸念は取り払われたけど、少年の口からそんなことを言われると複雑な気持ちにもなる。満面の笑みでいうことじゃないだろう。
「配慮してくれてありがとうと言えばいいのだろうか。憧れの人物と対面しているはずなんだけど、状況が状況なだけにあんまり高揚感は感じないなぁ」
「まぁ、仕方ないよ。こんな見てくれだからね~」
頭の後ろで両手を組み、イスの前脚を浮かせて揺れ動く古の勇者(少年)。歴史に残されているイメージと違うのは姿の問題だけなのだろうか。言いたくはないが後世で史実が脚色されて伝えられたのではと疑いたくなってしまう。
「大体話したけど、話せないこともあるからさっ。そろそろ時間切れっぽいから駆け足で話すけど、アタナシアは君が倒さなきゃいけないよ?カナンが暴れていると思うけど、カナンじゃ倒せない。相性とかいろーんな問題があるからさ。だから君がやらなくちゃいけない。君が到着するころにはかなり弱くなっていると思うけど、油断しちゃダメだよ?」
忠告が終わると古の勇者(少年)は忽然と消えた。そして俺の視界は元の世界へと戻された。
――――――――――――――
俺は精神世界から帰還すると翼を大きく動かしてリバティへと飛ぶ。カナンの膂力でぶん投げられた時ほどスピードは出ないけど、あれはカナンがおかしいだけだ。
成層圏にいても生きて居られるなんて魔人は生物という皮を被った別の何かだろ。
(魔人は概念みたいなものでもあるからね。死なないわけじゃないけど環境適応能力が高いから、少なくとも星の外にでない限りは環境が要因で死ぬことはないはずさ)
番人さんが魔人の豆知識を紹介してくれる。俺の質問に答えてくれるなんて、いい番人だ。俺が話しかけなくても今日だけは出てくるみたいだな。
(いいじゃないか~君だって暇だろう?それに正真正銘君の味方は僕くらいのものさ。そして窮地を助けられるのも僕さ。最後の切り札に勇者って心強いだろ?)
確かに。世界を救った勇者が控えていると安心だな。そういえば魂の番人になったところまでは聞いていたんだけど、俺の意識がない間アタナシアは誰と戦っていたのか聞きそびれていた。でも今の話しっぷりからすると彼が戦ってくれたみたいだ。
(そうだよー。君の魂がちゃーんと治るまでの時間稼ぎ兼乱数調整役さ。難易度がバグってるんだよ、この世界)
通りすがりの誰かじゃなかったんだな、アタナシアをボコボコにしてたのって。でも俺にアタナシアを圧倒できる力なんてどこにもないんだが。
(番人には番人のルールや力があるんだよ。細かく考えちゃダメさ。こればっかりは神様のご機嫌次第だよ)
考えても無駄か。そりゃそうか、魔人にだって何かしらの制限があるんだから魂の番人にだって制限付きでも特殊な力が備わってるのは不自然じゃない。
……さらっと聞き流していたが難易度がバグッているってなんなんだ。別に魔力があって魔物がいて、魔人がいる。古の勇者の故郷とは違うかもしれないが、いたって普通じゃないか。
(僕から言わせれば生きることが難しい世界だと思うね。それは魔物がいるからとかそんな話じゃないんだ。君は知らないことではあるんだけど、この世界は才能が集約されるように出来ているんだ。正確には人間や魔物に至るまであらゆる生物の適性が偏る。君の周りだとザクス・ルード。彼なんかがわかりやすい例だね。肉体と能力、そして魔法適正に至るまで全てが完璧さ。世界の求めに対して調整が起きて僕やザクスみたいな存在が出来上がるようになっているのさ)
(でも才能とか適性なんてものは本来ランダムなんだ。もちろん素晴らしい運で最高の相性を掴み取ることもある。けれど、そんなことは本当に起きない。そして才能の偏重を引き起こした時っていうのは恣意的な操作が加えられたことになる。そうすると世界は元に戻そうと同種族の中でバランスを整えるんだ。これは世界が崩壊しないようにするための必要なルールなんだ。そのバランス調整によって多くの人間から強さや適性を奪う、或いは減らすことになるんだ)
ザクスや古の勇者のような強力な存在が生まれると多くの人間が損をするということか。でもザクスが生まれたからといって人間が弱くなったとは思えない。歴史は結構好きだったから人よりは詳しいけど、そんな記述を見たことはない。
(人間にばれるような調整はしないさ。それに強さって君が考えているのは冒険者とかでしょ?人間全体からすこーしだけ差し引くんだからそこら辺の主婦ですらその1人に入るんだ。わからないさ。他国の人間だって当然含むし、君が全人類を知っていないと明確には気づけないさ。これの問題は1回だけなら微々たるものでも何度も起きれば人間が明らかに弱くなっていくんだ)
古の勇者に口ぶりからすると彼の生前にいた人類よりも現代人類が弱体化してしまっているということか。そんなに弱くなっているのか……しかし納得のできないところもある。才能が偏重することが起きるのはともかく、偏重した才能を持っていた人間が死ねばその資源は還元されるのではないかということだ。
割り振る才能に限界があるから周りから集めているのであれば、当然その持ち主が死んだときはまた割り振りなおせるはず。
(確かにそうなんだけどね、才能の持ち主がどのように生きるかなんて神様もわからないのさ。いい方向に進むときもあれば、悪い方向に進む時もある。『収縮生誕』なんてなかったから。多分これを最初に引き起こしたのは集約された才能の持ち主だろうね。恐らく兵器開発に特化したようなタイプの人間だと思うよ)
『収縮生誕』。魔力の急激な収束により発生する事象で、災害級の魔物が生み出される災害のことだ。広い範囲で魔力が無くなったりしたとき周囲から魔力がかき集められ発生すると言われている。昔はこれが無かったのか。
(そんな概念が出来たのは魔力を使った兵器が出た後だろうね。普通に魔力を使うだけならばこんなことは起きないんだよ。もし起きているなら僕が魔王と戦っている時なんて毎回起きてたさ。強い人間が強大な魔法を出したところで発生しない。でも現代では起きるということは魔力の消費がインフレし過ぎているんだ。世界の魔力には限界があるのに消耗速度が年々上がっている。災害級の魔物が発生してそれに対応するために特別な人間が生まれる。兵器が改良され消耗速度が更に上がる。この繰り返しさ。兵器以外にも冷蔵庫とか日用品の魔力由来の道具だってあるんだ。もう引き返せないところまで来ちゃっているみたいでね)
それってもう創造神様や他の神様が介入して正すしかないんじゃないレベルだ。例え俺が頑張っても何も変わらなくない?個人でどうにか出来る範疇を著しく逸脱している。
便利になっていった結果がこれか。確かに魔力冷蔵庫やコンロには非常にお世話になっていた。でもあれは魔石由来のものだから問題ないと思っていた。そうゆう話でもないのか。
(魔法だって誰でも使えたものじゃなかったんだ。それこそ適性によって使える系統と量が決まっていた。だから昔は起きなかったんだよ。でも適性が無い人間でも魔力冷蔵庫やコンロは使うでしょ?いや、使えてしまうでしょ?魔力というものが普遍化したことでこの世界で想定されていなかった使用者による魔力の消費が始まったんだ。技術の発展が世界的に見れば悪になったのさ)
解決するには人類の技術レベルを下げるということか、それか魔法が使えないようにするとか。でもそんなことしたら魔物に立ち向かうこともできずに一方的に負けてしまう。一筋縄ではいかない問題だ。
(魔法は使えなくなるかもね。でも能力があるでしょ。あれがあれば魔法なんてなくても一部の人間たちは何とかできるさ。それに消耗速度を上げたのは人類の中でも人間さ。エルフやドワーフみたいな亜人たちじゃない。だから人間から魔法が奪われる日はそう遠くないかもね)
冗談をいうようにすんなりと言って見せた彼は心底どうでもいいみたいだった。俺の知っている古の勇者とは少し違う人物像。でも俺は知っている。彼がどんな死に方をしたのかを。人間を憎んでいないだけでも良かったのかもしれない。それにしても厄介な問題が表面化しているもんだ。
そういう面倒なことはカナンとか真面目な魔人が神様と協力して進めればいいさ。俺はぐーたら昼寝してエッチなことをして鼻を伸ばす、そんな人生を送りたいよ。
魔人になっても変わっていなかったタルバ。本来の彼に戻ったことで余計に面倒事への介入を嫌悪するようになった。それでもアタナシアの元へ向かい続けるのだから、言動と行動が一致していないなと思う古の勇者だった。
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