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へっぽこ魔人生  作者: 岸辺濫瀟
第6章

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24.狂う歯車

 タルバを成層圏まで投げ飛ばしたカナンは憎き恋敵であるアタナシアと激戦を繰り広げていた。そう、破壊の魔人として強大な力を有し比肩しうる魔人がいなかったカナンがタルバを投げ飛ばしてから数十分もの間アタナシアを倒しきれていないのである。


 カナンもアタナシアもこのような結果になるとはお互い思っていなかった。カナンに至ってはアタナシアを何故倒すことが出来ないのか、権能を使用してもとどめを刺せていない事実に驚愕していた。アタナシアに至っては死んでいないだけでギリギリ耐えている生き地獄を味わっていた。

 カナンは権能と魔法を組み合わせてアタナシアを圧倒しており、アタナシアから攻撃らしい攻撃を一撃も受けていない。偶然という可能性すら残されていない絶対的な優位性がカナンにはあった。一方アタナシアというと体の大半が吹き飛んでいるが残された断片から肉体が完全に再生するようになっていた。


 そう、いつの間にかそうなっていたのだ。ゾンビで肉体欠損を埋め合わせたわけでも魔人特有の再生能力を活かしているとも言えない超常現象が発生していた。その超常現象はまるでカナンが攻撃する前の肉体に時間を巻き戻しているようだった。その現象は治癒ではなかったのだ。段階的に回復するのではなく、ダメージを受けて体が無くなった直後にはもうほとんどが完治している。


 アタナシアの意思とは関係なくアタナシア=グラニエという存在をこの世界に固定していた。カナンは気づいていなかったが、カナンの如何なる攻撃も右肩とゾンビとの接着面を消し飛ばせていなかったことだ。建造物が破壊されたときの粉塵できっと視認できていなかったのだろう。


(なぜこんなにも殺しきることができないのですか…!魔法も権能も確実に効いているはずなのに!!)


 私は焦っていました。感情の赴くままに力を振るうことは久しく、力の制御が甘いことはあっても弱めてしまうことなどあるはずがありませんでした。ましてや憎き相手に対して手加減など論外です。

 しかし、事実として私は何十分経過してもアタナシアを消滅させるに至らなかったのです。アタナシアがゾンビを操り、ゾンビと融合して不死に近しいとしても強力無比な一撃で消し飛んでしまえば体を再生させることなど出来ない。そう考えて私は何度も何度も権能を使用しました。


 破壊神様に与えられた権能『破壊』。その力とは付与された対象の全ての攻撃にあらゆる物体に対して破壊されたという結果を齎す効果を付与するというものです。例えば私自身にその力を付与して飛来する魔法を殴りつけたとしましょう。私の攻撃が触れた瞬間その魔法は破壊され、構成している魔力が雲散霧消する。私にダメージは与えることは出来ない。


 魔法がダメージを与える以前にその魔法自体が維持できずに消えるからです。破壊されていたという結果に上書きされるのです。権能を与えられたとき、私は私に敵う生物がいなくなったと錯覚しました。今ではタルバ様がいらっしゃるのでそんなことはないのですけれども。


 この権能で直撃した相手は存在が破壊されていたという結果になります。生物が破壊されてしまうと体が原形を留めずに粉微塵になって消滅してしまう。塵から再生できるのであれば生き残ることができるかもしれませんが、存在が破壊されるというのは致命傷を受けた結果死ぬというわけではないのです。構成するものが破壊されるというのはその生物に宿る概念や魂も壊すことが可能ということです。


 端的に言えば、肉体は再生できても同じ人格で同じ魂で存在することができない。私を例とするのであれば、現在の私の肉体、人格、魂によって私という概念が定義されています。それが破壊されてしまうということです。アタナシアでいえば死んでいる状態の肉体は再生できるかもしれませんが、攻撃を受ける前と同じ生きている状態には二度と戻ることはないのです。少なくとも魂は消滅してしまえばそれまで。それは破壊神様が以前仰っていたことです。


 だからこそ、アタナシアを殺しきれないことに驚くと共に人間だったころ以来の底知れない恐怖を感じていました。破壊神様の権能はアタナシアを崩壊させているにも拘らず、気づけば元に戻っているのです。死神の権能を応用しているのでしょうか。しかし、死神は死を司るのであって、命を司っているわけではありません。


 アタナシアが私対策に何をしているのか理解できませんでした。対策すれば私の権能を無効化できるものでもないのです。創造神様を除けば破壊神様と同格の神はいないはずです。権能の強さでは負けていない。権能で破壊される前或いは破壊される後にアタナシアが細工をしている、そうとしか思えません。


 もしタルバ様がいれば私のこの矮小な悩みは消え失せてしまうのでしょう。世界の創造主たる創造神様が選ばれた方ですから、タルバ様は私以上の権能を与えられていることでしょう。事実私たちが空から拝見していた際には世界を照らす眩い光や神をも裁くといわれた雷、消えることのない火がアタナシアに向けられていました。力の一端でしかないのでしょうけれど、もし新しい世界の理を一時的に作成することすらも可能と言われても信じてしまうでしょう。


 タルバ様をこの場から遠ざけてしまったことは得策では無かったのかもしれません。ですが、私にもプライドというものがございます。それにタルバ様がいないことでこのような無様な姿を晒さずに済んでおります。


 か弱い女を演出することも出来ますが、今更でしょう。魔人という複数の神の使徒が引き起こした戦争をたった1人で終わらせているのですから、私がどれだけの言葉を尽くしても信憑性がないというものです。


 これ以上ダラダラと時間を浪費するわけにも行きません。タルバ様がお戻りになり、介入されるのでしたら私は大人しく引き下がるほかないでしょう。


(タルバ様がここに戻られるまであと10分ほどでしょうか。それまでに奴のカラクリを暴かなければなりませんね。)


 魔法や権能で消し飛ばすという力押しでは倒せないとなると、考えるべきはアタナシアの権能、この場の特殊な力、第三者の介入でしょうか。

 第三者という選択肢はタルバ様を監視していた私たちが検知していないはずがないため、ありえません。遠隔での妨害をしているとしても私の権能を無効化は無理でしょう。


 この場に特別な力が宿っているわけではないことは空から見ていた時から把握していますので、それもありえない。やはりアタナシアの力と考えるほうが自然ですね。私の権能では肉体、人格、魂を破壊します。しかし、肉体も人格も魂も破壊されているとは見えない。影武者を用いているとは考えにくいです。それは権能を他者が使用することが出来ないからです。


 例え私が何らかの手段を用いて他の魔人の権能を使用可能にしたとしても、発動はしません。それはその権能を与えた神に許可を得ていないからです。例え魔人を乗っ取ったり許可を得たり、融合したとしても私というう存在が破壊神様以外の神の権能を使用はできないのです。

 これは古くから生きる私だからこそ知っている魔人の制約でもあります。


(あり得る可能性は…別の次元に避難している?それだけではなく魂の操作までも可能と思ったほうがよさそうですね)


 さて、ここからは繊細に叩き潰すとしましょう。私は負けるわけにはいきませんのですから。


――――――――――――――


 カナンがアタナシアでどのように再生しているか実験をして少し経った頃、タルバは飛行してリバティ付近まで直ぐに到着していた。カナンが想定した以上に古の勇者が覚醒したことによるバフ効果が高かった。身体能力も権能も能力ですら強化されすぎていて気軽に扱える許容範囲を越えていた。


 飛んでいる最中にもしかしたらと思い、自分の力を試してみたい好奇心に抗えなかった。あと言い訳になるがアタナシアと再戦する前に実感してみたかったのだ。

 リバティに近づいた時、リバティに向かう男たちで検証をしてみたところ、普段の倍近いステータスと錯覚したほどだ。身体能力は飛行したり走ってみたら実感できたし、権能で光を照射したところ普通の人間も焼きつくすことが出来た。


 古の勇者曰く、今だけ俺の権能はどんな相手にも殺傷能力を持つみたいだ。創造神様…最初からそういう力としてくれませんかねぇ…。そう愚痴ったところ、いきなり全力で力を使っていたら大陸ごと焼野原にできちゃうらしく、光でも焼けるのに、もし万が一にも火を使っていたらその火は消えないとかいう恐ろしい追加効果まであるそうで。飲食をしなくていいとしても退屈な生活が始まるところだった。


 ちなみにもし今の制限なし状態で権能が遺憾なく発揮された場合、大陸は焼けて生命は蒸発し文明が終焉を迎えるだろうとのお話だった。終わるだけなら他所の大陸に人間がいるからまだいいかもしれないが、陸地だけを焼けるなんて精緻なコントロールができるはずがないので、海も同時に焼いて大量の海水蒸発が起こり、厚い雲を形成して雲の下に今のように太陽の光が差し込むことが二度となくなるところだった。


 創造神様の火は燃やし続けるから、海水が一度でもその火で焼かれた時には永遠に世界中の海水が燃やされて蒸発をし続けるからだそうだ。太陽光がないから人工的な光を作らなければ植物は光合成はできないし、大量の蒸発に雲の形成によって引き起こされる大雨により地上が全て洗い流されてしまう。


 ようするに、この世の終わりをうっかりで引き起こせる代物だったみたいだ。創造神様的には世界が崩壊してももう一度作り直すか~くらいのテンションらしい。そりゃ全てを作り上げた創造神様だからもう一度世界を作ることは造作もないことなんだろうな。


 全部聞いた後に思うことは、もっと強い権能をくれよと思っていて大変申し訳ありませんでしたという気持ちで一杯だ。

 些細なボタンの掛け違いで世界が滅亡してしまう立場とかいらんて。食べ物ありません、飲み物は水くらい、生活できる場所ありません。天変地異溢れる世界で自分一人で生き続けないとならないとかそれは生き地獄ではないか。


 俺の求めている生活は本を読んでだらだら生きることであって、大義を掲げて何かを成し遂げたいなんて気はさらさらないんだ。異世界から来る人間たちは妙に張り切って生きると言われているけど、あほくさいよな。そんなんだからこの世界の人間を尊重せずにやらかしてしまうのだ。彼らはNPCが~とか主人公だ~とどこか現実を見ていないように傲慢な発言も飛び出したと言われている。


 俺はそういうのはいいんだ。温かい日差しが差し込む静かな場所で昼寝したり、旨い飯を食ったりというストレスフリーの生活を求めているんだ。温泉巡り旅行もしたい。魔物と命のやり取り?魔法を極める?魔人としての使命?それでなんかいいことあるのかと思ってしまう。 


 今は大量のでっかい肉を焼いてバクバク食べて腹を風船のように膨らませながらベッドにダイブしたい。欲を言えばさっぱりした後味の酒をグイっと流し込みたい。

 ジュースでもいいんだ。果物を絞った果汁100%とか脂っこい食べ物にも合う。


 軽い力の検証を終えた俺は爆弾を抱えたようなおっかなびっくりした気持ちでカナンとアタナシアの元へと向かった。


 どこか遠くから響く爆発音をここではないどこかで起きてほしいと願っていたが、アタナシアの城へと導かれていた。残念ながら破壊音の中心がここであり、きっとカナンにサンドバッグにされているんだろうな。薄々そう思っていた。予感はあった。


 カエデが空から見守っているし、カナンは無傷で人型の肉塊がアタナシアみたいだ。カナンが狙いすました拳を打ち付けると人型が一部欠けた。


(うっわ~残忍な戦い方だこと。カナンって性格悪かったんだな。表面だけは取り繕っていたってことか)


 カナンが攻撃した直後には不思議なことにアタナシアの肉体は瞬時に回復した。傷がふさがるとか徐々に生えるとかではなく、無かったはずの場所に瞬きをしたら元通りになっていたというような感じだ。アタナシアの人外具合がやばくないか?ゾンビをくっつけたにしては早過ぎるし、カナンの攻撃って権能も付与されているみたいだから、そんじょそこらの攻撃とは桁違いだと思うんだけど。


 そんな光景が何度も続いていた。カエデは俺のことに気づいたようだが、カナンは気づいていないのか俺の方には顔を向けなかった。カナンの横顔を遠目に見ているけど、怖すぎんだろ。なんだあの無表情で殴りつける姿は。親しい間柄でも距離を取りたいレベルの恐ろしさを醸し出している。


 股間が縮みあがってしまった俺はカナンとカエデをいかにしてアタナシアから引き離すか考えることにしたのだった。カエデは聞いてくれそうだけど、カナンは話を聞いてくれる状態なのか?


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