15.ご対面
ご無沙汰しております。仕事が忙しく、体調も崩しておりまして中々思うように書けないでいます。
不定期にはなりますが、細々と続きを書いていこうと思います。
ハイスペックカスタムゾンビこと、見目麗しい嬢は俺の権能に包まれておとなしくしている。
ちゃんと繊細なコントロール(笑)を用いて傷つけないように必死だ。理性があるだけにやりづらさがあるな。
光の繭を少し解いて隙間を開ける。まるでブラインドの隙間だな。
それにしてもアタナシアの支配下にあるにしては襲ってこない。問答無用で閉じ込めてしまったが、対話を用いて聞いてみる方がよかったか?
「あの~出してください~」
しびれを切らしたのか嬢から声がかかる。
強力なゾンビにしては呑気な声だな。まぁさっきまで客の股間を光らせていた元凶としか思えないだろうから危害を加えられないとでも思ってるのか。
「残念だが、それは無理だ。アタナシアのゾンビだからな」
「そんなぁ~まだ襲ってないじゃないですか~」
まだってなんだ。まだって。
床に転がっているブーデンは放っておいて、目の前の嬢から聞きたいことに集中する。
「なぜお前には理性があるんだ?一般風俗街のやつらは理性が無くなったぞ」
「それは特別仕様だからですよ~。例のあの人曰く状態が良かったとか運がよかったとかそういうことらしいですよ~」
「ではなぜ女ばかりなんだ?男をほとんどみかけないぞ」
「それはあの人の趣味としか言えないですね~どっかにはいるんじゃないですか?」
どれくらいこの街にいるのかはわからないが、嬢も見たことないのか。
もしかしてアタナシアの身辺に大量にいるとかね。嫌な予感がしてきた。
女のエリートゾンビがいるなら男もいるだろうしなぁ。でもゾンビになってるんだから生者の男女と違ってフィジカルの差もあんまりないか。
「さて、特別仕様の中身を教えてほしいな。それで解放するかは考えるよ」
「特別仕様の中身ですか~それは守秘義務ってやつがあるんです……」
「じゃ他の嬢に聞くからいいや。もう一人接客中だろ?」
「あ~どのみち教えるしかなさそうですね~仕方ないなぁ~」
隙間から覗いている嬢は腕組をして腕に胸をのっけている。そんなことをされても俺の心は動じないんだぞ。
……嘘じゃないぞ。ほんのちょびっとだけ繭の隙間を広げたがそれだけだ。
嬢が言うにはアタナシアの特別仕様ゾンビにはそれぞれ特徴があるらしい。というのも特別仕様にするにしても強力な人間や魔人のようにはできない。
それは元になる素体が普通の人間だからだ。だから意図的に人間を混ぜて継ぎ接ぎで作るとそこそこ強いゾンビが作れるみたいだ。
では複数人の素体を繋ぎ合わせて1人のゾンビにするのだが、一体誰の自我が残るのか。
それが特別仕様の人間らしい。ベースになった人間の特別さの所以は複数人を混ぜ込んでも他者を取り込んで定着するからだそうだ。
要するに自我を失わずに他人の腕とか足を自分のものとして扱えるという。
拒否反応が出ないことが特別仕様の前提条件のようだ。その中から役割に合わせて能力を特化させる。
人間だったころに能力を有効活用出来ていなくとも、ゾンビに改造されて能力に合わせた肉体を得られるわけだ。
例えば戦闘に活かせる能力であっても体が弱いとか。人間だと肉体の替えがきかないけれど、ゾンビだったら理想に近づけるわけだ。
「じゃあ君は何に特化してるんだ?あまり戦闘向きなようには見えないけれど」
「私は情報系ですね~戦闘力はないんですよ~ここにいる子は大体そうですね~」
「変なそぶりをしたら消えてもらうしかないな。アタナシアに情報渡されても困るし」
「大丈夫ですよ?ここの情報伝達は緊急度が高くないと連絡しませんし、それに情報伝達は専門の人がいますからね~」
本当か?こんだけゾンビがいるんだから、それに特化した能力を持っているやつが居てもおかしくないんだが。話半分にしておくか。
「戦闘特化のゾンビはどこにいるんだ?」
「そんなこと言われても何でも知ってるわけないじゃないですか~質問するにしてももう少し考えてもらっていいですか?」
ぐうの音も出ない。何でも聞けば答えてくれるわけじゃない。それはそう。
こういうところで地頭の悪さが邪魔をする。何かを教える立場の人間は大体聞きたいことの知識を蓄えているという先入観がある。
でもよく考えればこの嬢は人間だったころはどうであれ、今はたまたま適合した特別なゾンビであって立場があるとかそうゆうわけじゃないんだよな。
「それはすまん。そんなに賢くないんでな」
むっとしたけれど相手の言い分が正しい。自分の村や街に来た人から何でも知っているという先入観で矢継ぎ早に質問されても困るというものだ。
それに俺の場合相手にいつでも危害を加えられる状況を作っているわけだし。嬢の肝が据わっているのもあるが、シンプルに俺の頭が悪い。
「わかったならいいですよ~しらないですけれどここら辺なら案内くらいでしたら出来ますよ~」
案内。果たしてそれはいるのだろうか。気配を探ってアタナシアのところに行くだけだからなぁ。でも鍛冶屋の爺さんことイグニストゥスに救援要請をしなければならない。
そう思うとアタナシアが来なさそうだしゆっくり巡ってもいいか?最早俺がいることはばれているだろうし。
むしろここで襲ってこないということはアタナシアは実はお遊びでゾンビを仕向けただけで別に敵対意識は無いのでは?
天啓得たり。まだおっぱいもちゃんと触れていないのにその地上の楽園を後にするなど出来ようものか。
そう、これは仕方がないことなんだ。ここは高級店が立ち並んでいるわけだし、どっか人間でもいるんじゃないかな。
ほら、ゾンビ風に装って人間が紛れているとか、ゾンビになる前の人間がいるとかさ。
まぁ冗談はさておき。嬢ともう少しお話をしても良いと思うんだ。エッチ出来なくてもお話はしたっていいわけだし。
シチュエーションも強烈なSMと思えばいい。
「案内はいい。ただゾンビになるまでの話を聞きたい」
「そんなことでいいなら幾らでもお話しますよ~」
彼女の話は特段不思議なことはなかった。元々リバティに住んでいて、当時はまだ市長が治める独立都市という位置づけだった。
リバティは交易の経由地点として栄えており、物品が行き交う商業色の強い都市だった。
だがアタナシアが来てから一変した。
権能によって加速的にゾンビを増やしていき、あっという間に今らしい。
ゾンビになった後、選別作業が行われ特別製が生まれた。
独立都市だったため、他所に助けを求められず、逃げるか支配されるかだという。
都市はゾンビによる無尽蔵の労働によって地下に格納施設兼ゾンビ製造所が建設され、そこで彼女も生まれたそうだ。
生まれたというより捕まっていた状態だったが、ゾンビに変身して今日に至るというわけだ。
素朴な疑問だがアタナシアはいつからここを支配しているのだろうか。
彼女が侵略当時から生きているとすれば相当な年月を生きているということだろう。もはやエルフレベルだ。
生きた年月で言えば俺よりもかなりの先輩になる。
「ちなみにゾンビになってからどれくらいの年月が経ったかってわかりますか?」
「女性に年齢を聞くなんてご法度ですよ?でも特別にお答えしてあげましょ~答えは私もわからないのです」
「じゃあもうおばあちゃん…「失礼な言葉は見過ごせないですね~」……はいすいませんでした」
「特別製のゾンビだからって警戒しなきゃならないのは戦闘系ですよ。私みたいなタイプは抵抗力の低い”人間”であれば効きますけど、お兄さんみたいな魔人には効きませんから」
「そりゃご丁寧にどうも。戦闘系でもアタナシアでもいいからどんな攻撃をしてくるとかわからないか?」
「多少はわかりますよ~それはですね~……」
それは突然のことだった。それまでこの都市のことも生い立ちのことも含めてべらべら喋ってくれていた彼女が動作を停止した。
無機質な物言いになるが、それ以外に目の前で起きた事象を言い表せない。表情や顔の動きが話し始めた瞬間で止まっている。まるで時間が停止したかのように。
電池の切れたおもちゃ、精巧な人形。そんな状態の彼女はゆっくりと表情を戻していく。朗らかだった雰囲気が冷たく凍り付いていく。
「人形とのおしゃべりは楽しめたかな?タルバ。茶番ももういいだろう」
彼女の口から聞こえた声はさきほどまでとは打って変わって低い声になっていた。女性特有の高い声が男性のような低音に。
虚ろな眼でこちらを見つめる彼女は直立不動で身じろぎすらしない。俺でも流石に気づく変化だ。
「お前はもしやアタナシアか?」
「そうだ。操作出来て当たり前だろう?俺が作ったのだから、俺のモノだ」
人間とそん色のない彼女を”モノ”と称した。彼女がゾンビであり人ではないと思いつつもどこか人だと信じていた俺はあっけに取られてしまった。
「ふーん。久し振りに体を借りてみたが、悪くはないな。成功作はやはり使いやすい」
彼女の腕をしげしげと眺めながら体中を動かしてみるアタナシアは妙に感心していた。腕を組み仁王立ちでこちらを睨むアタナシアは続けて口を開いた。
「さて、タルバ。そろそろいいだろう?お前は俺の領域に攻めてきた、そして俺はそれを迎え撃つそれだけだ。とっとと決着をつけようか」
俺があっけに取られている間に話が急速に進んでいる。俺は確かにアタナシアをよく思っていなかったけど、俺は戦いたくないんだけど。
リバティに来てからというもの、時折自分じゃない誰かに操作されているように感情の起伏が激しくなった。その瞬間はアタナシアに対して憎しみを抱いていたが、そもそも俺もあいつも魔人。
最早人間でないし、誰彼構わず助けたいというヒーローはいない。そう思えばアタナシアは人間の倫理観で言えば悪いのかもしれないが、魔人として、神の忠実な配下として動いていたと思えば悪とは言えない。
「俺は戦いたくないんですけど……別の選択はできない感じ?」
「むしろどんな選択肢があるのか知りたいくらいだが?」
取り付く島もないアタナシアにとって俺の提案は茶化しているように聞こえているみたいだ。いたって真面目に時間を稼ぎたいという俺の本心なんだけどね。
鍛冶屋の爺さんに助けてもらうにしても一回帰宅してからになるから、その選択肢はほぼ潰えたといえる。
他にも誰かを頼りたい気持ちはあるが、生憎と俺は1人で来てしまった。煩悩は108もあるのに俺は1人。俺が108人いても戦うのを押し付けあって逃げそうだけど。
一抹の望みを賭けて逃げの一手を決め込むというのはどうだろうか。魔人の肉体を駆使すれば造作もないのでは?
……よく考えなくても相手も魔人なんだからステータスとしてはイーブン、相手のほうが権能を使いこなしている分劣勢だ。
「だんまりか、つまらんな。戦いたくないなどとふざけたかと思えば急に黙って相手を品定めする。創造神の魔人とは読めん存在だな」
この場を切り抜けようと思って隙を伺っていたら、変な勘違いされてるな。口ぶり的に逃がしてくれなさそうだし、かといって今までなんで接触してこなかったのかも謎だ。
いっそ単刀直入に聞いてみるか。直談判ってやつだ。少しでも時間を稼ぐぞ。
「いや、何故あんたが今になって接触してきたのかと思ってな。だって俺が来たことには随分前から気づいていたんだろ?だったらなんで今のタイミングまで様子見していたのか気になるじゃないか」
「最初は警戒していた。他所の魔人が来たのだから当然だ。だがいつになっても俺のところに来るどころか他所からの人間たちと同じように風俗街に入り浸り、遊び惚けている様子を見て理解できなかった。お前の意図がな。だからゾンビどもをけしかけたがあっさり対処して、今度は高級風俗街にまで足を伸ばし始めた。魔人が他所の魔人のテリトリーに入ってきて風俗を楽しむなどあり得るわけがない。わざわざそんな危険を侵さずとも人間を攫えばいい。魔人の力があれば相当強力な冒険者でなければ深手を負うこともない。今度はこちらから聞くが、なぜ俺のテリトリーに来た?目的はなんだ?俺か?」
女性の姿で、声で話しているにも関わらず、重厚感のある圧力を感じる。これがオーラというものか。
アタナシアに否定された可能性がまさか真実だとは思うまい。頭が混乱している姿がちょっと取り乱している感じがして不覚にも面白いなと思ってしまった。
それと同時に少しだけふざけたくなってしまう。どうせ逃げられないんだから時間稼ぎ兼おふざけをしてみようか。
「俺の目的?何だと思う?優しいから少し教えてあげるよう。決して風俗を楽しみに来たわけではないからな。そうだなぁ、ヒントはもう既に仕込みは済んである」
俺はしたり顔で余裕をかましてみる。どこにも余力がないけれど虚勢で対応しよう。こわばってる口角を無理矢理釣りあげて不敵な笑みを作り上げる。
相手よりも俺の方が一枚上手であることを前面に押し出してみる。
「なに!?仕込みということは何かしら設置するということ……テリトリーに反応しないということはゾンビたちの感知圏外。一般風俗街に何かしたということか。やはり目的は俺か。魔人王に反対している勢力を削ることが目的だろう?カナンといいイグニストゥスといい古い魔人を味方につけるだけでは足りないと思うとは貪欲だな」
「?……そっそうだぞ。よく考えなくてもそれ以外ないだろう?魔人の影響力は魔人大戦の話で想像がつくからな。敵対する魔人がいる時点で盤石なんて状況はないってことはお前もよくわかっているだろ?カナンのような強力な魔人が新たに生まれないとも言い切れないし、実力を隠している魔人がいるかもしれない。いくらでも可能性はあるじゃないか」
俺の目的がわからず困惑しているアタナシアに対して余計に混乱させることを言い続ける。相手の心理状況を乱すのもある意味戦法だ。卑怯とは言うまいて。
「中々に用心深い男だ。お前は創造神の魔人として類まれな力を有しているというのに、カナンという自分よりも格下の相手であっても警戒するとは……。用心深いというにはあまりにも警戒しすぎているな。臆病者のようで安心した」
「臆病者…?万全を期すことは何事においても重要だ。世の中は予定通りに進まないことで満ち溢れているが、ありとあらゆる可能性を考慮することを臆病と呼ぶのであれば、お前は計画性が何たるかということが理解できないだろうな。臆病と表現されることは不満だが、それでお前の慢心を増長できるのであればそれもまた利点になるだろう」
出来るだけ傲岸不遜にアタナシアを挑発することを忘れないでおく。アタナシアの実力は未知数だが、ゾンビを作成する権能であれば本体は弱いって相場は決まっている。なぜなら戦闘向きの権能じゃないだけで魔人の戦闘力に大きな差が出ると、俺は思っている。
カナンや鍛冶屋の爺さんは話を伝え聞く限りだと戦闘向けの権能のようだ。だからこそ魔人大戦の時でも強大な力を発揮できていたのだろう。破壊神の魔人であっても魔人はほぼ同格だ。性格には最上位に創造神様がいて、次に破壊神、他の神と続くらしい。それであっても複数の魔人が束になってカナンに勝てないというのはいささか疑問だ。
俺の思考の帰結としてカナンのように戦闘向けの権能を所持している魔人の方が非戦闘向けの権能を持つ魔人よりも遥かに強いということ。
そう思えば俺でもアタナシアにワンチャン勝てる可能性が出てきた。
「ふっ。挑発にも冷静に対応するとは感情を揺さぶる方向で打ち崩すのは無理なようだな。そうとなれば戦って証明するほかあるまい」
そう言い切ったアタナシアは指を鳴らした。その瞬間、俺の視界は歪み、瞬きを一度した後には魔人の集まりで見たアタナシア=グラニエが目の前に仁王立ちしていた。
「あの体で戦って勝つことは出来ないからな。こっちに転移してもらった。おとなしく受け入れたということはタルバ、お前もそのつもりなのだろう。俺はお前を倒してお前の肉体を手に入れるとしよう。そうすればカナンも俺に手を出せなくなるっ!」
臨戦態勢のアタナシアは悠然とこちらに向かってきた。どうやら逃げる、身代わりを押し付けるといったことは出来そうにもない。権能の相性が良いことを祈って、俺は身構えた。




