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へっぽこ魔人生  作者: 岸辺濫瀟
第5章

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7.進行する準備

 ヴェルフ帝国帝城。

 皇帝の鶴の一声で招集された者たちが皇帝専用の会議室に集められていた。


 集められた者――帝侯十陣というアステールの命を受けた皇帝が実験し作成した人間たちは皇帝が突如全員に招集をかけたことでアステールからの命令が下されることを察知していた。


 帝城の中では質素で飾り気のない部屋。この部屋は通常の会議室とは異なり、部屋の中心部に置かれた巨大な蝋燭だけが部屋を照らし、それ以外に物が置かれていない。

 帝城で働く者たちですら立ち入り禁止で皇帝の私室からのみ入ることができる秘密の部屋だった。巨大な蝋燭に火が灯ると暗い部屋でどこにいるかもわからなかった9名の影が照らされる。


 大小様々で見かけの共通点はない。皇帝ですら人相を知らないという不気味な集団だ。ただし全員がアステールに忠誠を誓い、彼のためならば全てを捧げる覚悟を持っていることが帝国の中でも異質だった。


「今回の呼び出しはアステール様からの命令を伝達するためだ。帝国軍に関しては後ほど私から表向きの理由を通達する。君たちには詳細を知ってもらう必要があるため、私から話させてもらう」


 帝陣十候は言葉を発しない。少なくとも工程である私に向かっては。

 アステール様からの指示であれば不可能を可能にする努力を惜しまないからだ。


 9名しかいないことに関してはベゼル王国でしくじった『魔物使い』が死亡したからである。本来そうやすやすと死ぬ生物ではもはやないのだが、これから話すある男によって抹殺されたのだから仕方がない。


「ベゼル王国への侵攻は一時中断。魔人タルバ=ゼノと交戦予定のため、それに協力するよう命じられた。この中から4名の参加者を決めるように。場所はドーガ。日時は追って伝える。以上だ」


 私は返答のない相手たちに一方的に伝えると蝋燭の火を消した。

 私が即座に部屋のドアを開けて後ろを振り返るころ、ドアから光が差し込み部屋を見ると誰もいなくなっていた。


 巨大な蝋燭も人影もなにもなくなっていた。


――――――――――――――


 廃城ではタルバとイグニストゥスが雑談しながらお茶をしていた。

 タルバの自室に招き、お茶菓子をつまみながらイグニストゥスは預けられていた剣を返却した。


「ほれ、小僧。研いでおいたぞ。それに柄もボロくなっていたから直しておいた」


「おぉ、さっすが爺さん。いい仕事するな~」


 手渡された愛剣を引き抜き、手入れされた刃先を眺める。

 普通の鍛冶屋では手入れすることすら出来ない俺の愛剣。どこもかしこも断られ、まともに切ることも出来なくなった頃を思い出す。ヒルドに丁度来た頃だった。


 俺はいっそ殴打用の剣として使用も検討した。切れなくともあらゆる鉱石で固めている。そんじょそこらの剣なんか比べるに値しない。

 そんな時に爺さんに出会った。ダメもとで聞いたら出来ると言い切った。うさん臭さがあったが、爺さんの評判は良かった。


 試しに預けてみれば、あらびっくり。潰れた刃先が綺麗に復活。紙や木、金属ですらも切り裂く剣に様変わりだ。

 正直言って過去最高の切れ味に仕上がっていた。それから爺さんとは4年くらいの付き合いになる。


「それにしても爺さんが魔人とはな~びっくりだ」


「その辺がまだまだ小僧じゃの。違和感くらいあったじゃろう。小僧の剣は特殊じゃからな。普通の鍛冶屋じゃ研ぐことも不可能じゃ。剣をいじってるお前さんがそれをよくわかっているじゃろう?初めて持ってこられたときに普通に研いじまったから勘づかれるかと思っていたんじゃが…馬鹿で助かったわい」


「爺さんが魔人とは思わんだろ。魔人は御伽噺の存在だ。それに普通じゃないことはわかっていたが滅茶苦茶腕の立つ鍛冶屋で俺みたいに田舎に引き籠っているのかと思っていたわ」


「クックック。お前さんほど引きこもりじゃないわ!」


 爺さんが笑いながらツッコミを入れる。爺さんには正直に引きこもり生活を伝えていた。仲間意識があったのだが…今日でそれはなくなりそうだ。引きこもり友達だと思ってたのにな。


「さて、今度の帝国との件だ。恐らくドーガの辺りが主戦場になるだろう。ベゼル王国はドーガを奪還できておらず、帝国が手中に治めている。だからといってお前さんの一撃で雪崩が起き、碌に整備も進んでいない。そんな場所なら戦場にしても問題ないと判断されそうじゃな。今回の戦いはお前さんの実力を測るための戦い。お前さんの従者は使うことはできないぞ~」


 ギクッ。爺さんは顔馴染みだからついつい表情に心情が洗われてしまう。困ったら頼ろうとか思ってたんだけど、ダメか。


「その顔、図星じゃな。大方一緒に戦ってもらおうとでも思っておったのか?集いでの話の流れでわかりそうなものじゃが、やはり馬鹿か。お前さんが実力を示せなければ意味がないのじゃ。他の要素が介在してはやる意味がない。やってもやり直しじゃな。小僧以外の魔人が11人いて、お前さんに友好的なやつは儂、カナン、イフィンティブ、ヘクターの4名だけ。残りの7名は敵と思ったほうがいいじゃろう」


 お茶で喉を潤す爺さん。お茶請けとして出したクッキーをバリっとかみ砕きながら話を続ける。


「つまり、小僧の敵になる魔人があと7名いるのじゃ。カナンがこちら側についているとはいえ、なんでも協力してくれるような奴ではない。むしろ怒ると何もかもが塵になる。文字通りな。それは奴らも儂らも避けたいのでな」


「とはいっても戦う状況もどんな敵が来るのかもわからないなんて不利じゃないか?俺は権能とかは知られちゃってるわけだし」


「お前さんが実力を示せば問題ないのじゃ。アドリブでなんとかしろ。冒険者じゃったろうに。推測じゃが1万から2万くらいの軍勢が出てきそうじゃな。魔人ならすぐに殲滅できる人数じゃ。問題は帝候十陣――帝国の少数精鋭部隊じゃな。魔人の血を飲んでいるそうじゃから普通の人間より手ごわいはずじゃ。負けてはならんぞ」


 爺さんは呑気にクッキーをほおばりお茶を飲む。俺もそれくらい泰然自若としていたかったものだ。


「いやきついだろ。なんだそいつら。聞いたことないし」


「恐らくアステールが一枚かんでいるのじゃろう。恐らくは皇帝直属というよりアステール直属の帝国の人間…いや人間だった者じゃろうな」


「それでもきつくないか?俺にはわかりやすい強さはないんだが」


「それでも帝国2万の軍勢を倒したことに変わりはないじゃろうて。魔人の癖に小心者みたいないことを言いよる。魔人の血を飲んだからといって魔人に敵うわけなかろうに。そんな冗談が言えるようならば大丈夫そうじゃな」


 爺さんはお茶請けを食べ切るとグイっとカップに残ったお茶を一気飲みする。荒々しさすら感じる飲みっぷりだが、これはお酒じゃないんだけど。地味にお高そうなお茶だし。


「儂は帰るとするか。楽しみにしてるぞ~」


「えっちょっまって」


 爺さんは俺の言葉を聞かずにそそくさと帰ってしまった。自室の窓から遥か上空へと飛び立つ爺さんを見つめ、頭を抱えた。


――――――――――――――


 逃げ場というものがいつも用意されているとは限らない。

 例えば突発的な戦闘、報告や発表など人間の人間的営みにはイベントがつきものだ。

 望む望まざる関係なく臨む必要がある。

 緊張することもある。失敗することも笑われ、時には嘲笑の的になることもある。


 かといってそれが命に直結することは稀だ。平和に町中で暮らしていればほとんど安全で豊かな生活が送れる。領主によって魔物が間引かれていれば街から街への移動も出来る。


 俺は街の中で生きていればよかったのかもしれない。

 古の勇者に憧れ、分不相応な夢を描いた。自分には特別な才覚があるものだとどこか思っていた。


 表面上は割り切っても心の深奥では割り切れない。

 大丈夫という言葉を口に出すのは言い聞かすため。行けると呟くのは行きたいと思う気持ちの具現化。


 そうやって言葉に出して願って逃げ場を作り、安全地帯を設けながら生きているのが人間だ。


 人間の理から抜け出したからと言って俺の心は人間のままだった。そして今回限りは逃げ場がなかった。


 世界を裏から牛耳る魔人たち。彼らの仲間入りを果たしてしまったことで目をつけられ、面が割れた。


 逃げることは逃げられる対象からしか逃げられない。そしてその選択が許される場面でしか選択ができないのだ。


 例えば王を守る近衛兵。戦場の殿。店の責任者や貴族家の当主。

 責務を負う者は逃げることができない。逃げても責務の履行が求められるのだ。


 その場から逃げたとしても自分を追求する潮流は消えない。いつから未払いの責務に対するツケを払うことになるのだ。


 だから俺は逃げることは出来ない。死ぬという選択もできないのだ。

 理由はもちろんまだ死にたくないからだ。


 強くなれば何かが変わると信じてきた。昔捨てた理想でも拾いなおした。

 燃え尽きた信念を再燃させ、種火が大火に変わるところまでやっときた。


 世界を変えたいとか大層な夢じゃないんだ。俺は平穏に暮らせる人が増えればいいと思っているだけ。

 自分の理想を築くためには力がいる。結果として強さを第一に求めた。


 今は第二段階であり、踏ん張りどころ。

 従者も出来たことで俺の道は決まった。上に立つ人間が方向を示せないなら上に立つ資格はない。


 もし今回魔人たちを認めさせ、俺が魔人の仲間入りを果たしたのなら、自分が誰かを導くことが出来るのかもしれない。


 どこにでもいる少年が現実を変えたくて夢に走った。今も走っている途中だ。

 転んだし躓いたし寄り道も道に迷ったりもした。


 でも前に進んでいる。めんどくさいしやりたくないこともする。

 そこまで強くはない。どこまでいっても変わり者。


 だが俺には頼もしい存在がいる。世界で一番頼もしい存在。

 従者でも魔人でも人間でも運でもない。


 ――そう。創造神様だ。

 俺を選んだのは創造神様であり、俺にはなにがしかの使命がある。


 ということは逆説的に言って、俺が死んだら困るのは創造神様ってわけ。

 だから創造神様が創造神パワーで助けてくれると信じている。


 他力本願ならぬ他神本願。創造神の使徒に牙をむくとは許せぬ神罰くらいの気持ちで神罰とか落としてくれないかな。


 そういう意味では俺の心はもやもやとしながらも何とかなりそうな気もしていたりした。


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