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へっぽこ魔人生  作者: 岸辺濫瀟
第4章

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14.料理禁止令と神様

 廃城に帰ってきたタルバ。帰ってくる途中でクリームシチューでも作ろうと思い、サクッとエヴェイユで盗んできた。城に到着したころにはもう夕暮れだった。盗んできた食材をキッチンに広げながら改めて魔人の肉体が凄まじいことを実感する。今は魔力コンロで火をつけているのだが、火に指を近づけても熱いとは思わない。むしろ温かいくらいだ。直火で焼いても同じ感覚なのだから本当に人間を辞めたんだとしみじみ思う。


 《ディームコンシータ》からファングボアの肉塊を少し切り分けて使う分だけを残す。玉ねぎ、ニンジン、ジャガイモの皮をむき角切りにする。かぼちゃは皮が固かったが魔人の肉体を信じて両手で引っ張るとパックリ二つに引き裂くことが出来た。鋭い刃物で切断したかのような美しい切断面に惚れ惚れする。かぼちゃの種をスプーンで取り除き、包丁を何とか入れて切っていく。


 ファングボアの肉塊は妙に脂がのって包丁が滑って切ることが出来ない。仕方ないので腰の愛剣で切り落としておく。水を纏わせなければ呪われないのだから無問題だ。


 鍋に油を敷いて食材を放り込んで炒めていく。火が通り玉ねぎが飴色になるくらいまで加熱する。塩コショウも振り、小麦粉、牛乳、水を入れてまぜていく。あとは煮ていくだけで完成だ。


 いいにおいがキッチンから漏れだしていたのかラキ、イリム、アウローラがキッチンへと入ってくる。


「主、なぜご料理をなさっているんですか?」


「何故も何も料理位するさ普通」


 俺の何気ない返答にイリムが即座に口をはさむ。


「主様、本来このような雑事は我々配下の仕事になります。主様が手づから作っていただいたものを食べるなど恐れ多いと存じます」


「そこまで言わなくても……おいしければよくない?」


「タルバ様!これ美味しそう!」


 ラキとイリムから厳しい視線が投げかけられる中、アウローラは無邪気に鍋を覗いて匂いをクンクン嗅いでいる。君獣人なんだから近くに行かなくても十分匂いを嗅げるでしょう。


「やめなさいっアウローラ!主の料理をそんな風に嗅がない!」


「そうですよ、アウローラ。主様がせっかく作ってくれたのですから大切に食べなくてはいけませんよ」


 ラキとイリムがはしたない仕草をしたアウローラをたしなめる。ついでに食べる気満々だ。料理をする前ならともかく、した後であれば食べるのも吝かではないみたいだ。


 俺はかき混ぜる手をまた動かしそうとするとラキに手を止められた。


「主、私が変わります。主は座って待っていてください」


 俺の手を包み込むように両手で抑えるラキはどこか嬉しそうにしている。いつ手を放そうかとタイミングを見ていたら後ろから凍てつく圧が迫ってくる。冬の寒さが城内にも発生したようだ。

 俺はびっくりして手を放すとラキが名残惜しそうに俺の手を見つめていた。振り向くと凍り付いた眼光で俺を射貫くイリムとアウローラがいた。ここまでくればもはや殺気だ。


「じゃっ、じゃあ俺は3階で休んでようかな。そういえば2階の整理はどうしたんだ?」


「主様、今回は破損したガラスの清掃や壁を塞ぎました。土魔法で塞いだ急ごしらえですが。明日以降も続ければ数日後には綺麗な状態になるかと思います。またカーテンやシーツといった布類などの消耗品が新たに必要になるかと思います」


「あたしも頑張ったぞ!」


「そうか。よくやった。近いうちの調達に行こうか。この島じゃばれてしまうからセントラム大陸のほうに行くとしようか。それでラキの能力で帰れるか試してみよう」


「承知いたしました。主」


 俺は彼女らに軽くこれからのことを告げて3階に戻った。


――――――――――――――


 3階の台座のある部屋に戻り、俺は《ウォラキアの指輪》でまた自分の情報を見てみる。


タルバ=ゼノ

身長173cm

体重70kg

年齢30

異名『不死』『光芒』『銭湯王』『戦闘王』


来歴

****により秘匿されております。開示するには上位権限が必要になります。


加護 世界

****の加護。弱者の心情を理解するために本来得られる強さを制限し、一定以上の強さを得られないよう制限している。魂に与えられる加護のため、輪廻転生の輪に戻るまで永続する。


能力 圧縮

存在を圧縮する能力。対象と位置が重なることで魂にアクセスし、対象の詳細なサイズを把握、その後魔法や物体問わず圧縮することが可能。相手が幽体などの物理的な存在でなくとも対象とすることが出来る。全体を均一に圧縮する以外に一方向にのみ圧縮することで対象を押し出すことが出来る。正確な位置、サイズがわかれば触れる必要はなく、遠距離でも発動可能。


権能 光

自身の肉体を光に変化させることが出来る。光の粒子が通れる場所は全て通り抜けることが可能。人間の目を焼き切るほどの光量を瞬時に発生することも可能。ただし殺傷能力は限りなく低く、触れても温かい程度。一点に集約しても外気に負けて温度が下がり、レーザーのように焼くことは出来ない。主な使用目的は松明や閃光弾、透明化。

また光を狙った対象に付与することが出来る。永続時間は込められた魔力が切れるまで。この光は狙った対象に当たるまで追尾する。

光は肉体と同量を自由に使用できるが、光を溜め込んでおくことが可能。太陽光や火の光などあらゆる光を吸収することで莫大な光を使用することが出来る。


使用可能部位

虎

鷹

牛

ハリネズミ

サイ

ゾウ

蝙蝠


神具 神銀の心臓

創造神****が創造した銀で作成された心臓。適性資格は****の加護、世界を持つこと。血を無限に生成するため、失血死をしなくなる。また毒を強制的に浄化する。肺活量の増加と足が速くなる。



(……これだけか?創造神の作成した神具がこれっぽっちしか効果がないのか?)


 待望の新しい力は攻撃にも防御にも使えない。創造神はなんてくだらないものを作ったんだろう。失血死しないこと、毒が効かないことはいいとして、肺活量が増えて足が速くなっても得することはほとんどない。驚異的な魔物は俺が飛行するよりも速く移動するし地上を走ることは最近ない。


 足が速くなってもファンタズマがいるし緊急の移動が必要ならラキがいれば大丈夫だ。魔法が効かない相手はアウローラが倒してくれそうだし、物理攻撃が効かなければイリムが魔法で何とかする。


(血でも袋詰めして売るとかそれくらいしか使い道はなさそうだ)


 《ウォラキアの指輪》は対象の魂に刻まれた情報を読み取るため、台座に残された品々の情報は見られない。神銀の心臓という神具がある時点でここにある物も神具である可能性が高い。


(この神具たちが置かれているということはもしかしたら触っちゃいけないものだったのか……見るからに仰々しく置かれているからそこまで貴重なものではないと思ってしまったのが敗因だ)


 神銀の心臓が置かれていた台座に近づいて観察する。少し前まで安置されていた場所は今じゃうっすらと埃を被っている。


「俺の心臓をここに返したらどうなるんだろうな」


 俺の素朴な疑問が誰もいない部屋に反響する。するとどこからともなく声が聞こえてくる。

(あなたが心臓を返した場合、あなたは死んでしまいますよ)


 清楚な女性の声が脳内に響く。俺は驚いて周囲を見渡すが誰もいない。


「!?」


(私が脳内に直接話しかけているので周りにはいませんよ)


「あなたは誰だ?」


(私は****。あなたに加護を与えている存在です。あなたにわかりやすく説明すると創造神にあたります)


「ヴぇっ!?創造神ってこの世界作った神様ですか!?」


(そうですよ。この世界を作ったのも他の神を作ったのも私です)


「なんでそんな人が俺なんかに話しかけてるんだ……」


 タルバの脳内は前代未聞の事態にパンクしかけていた。口を動かそうにも声がうまく出せず、普段とは違う消え入りそうな声で尻すぼみになってしまった。


(それはあなたが私の目に留まったから。それだけですよ)


「大変失礼ですけど、頂いた加護を返却できませんか?」


(それは出来ません。それにしませんよ。あなたは特別なのですから)


「俺が……特別……」


(そうです。あなたは特別ですよ。あなたには彼の勇者のように役割があるのです)


「役割ですか……それは一体どんなものですか?」


(それは教えることが出来ません。ですがあなたが好きなように生きれば自ずと全うすることができる役割ですよ)


「じゃあ気にするなってことでいいんですか?」


(そうですね)


「ついでにお聞きしたいんですが、この台座の物はなんですか?」


(これはこの廃城の前主が集めていたものです。神具はあなたの心臓だけです。他の物にも資格が必要ですが少し特殊な魔道具ですので気にしなくてもいいですよ)


「そうですか。ならよかったです」


(ただこれらの魔道具は一つ一つが強力な古代兵器ですので、気を付けてくださいね)


「創造神様それを早く言ってくれよ!やばい代物じゃないか」


(大丈夫です。あなたならきっとできますから。信じて見てますよ)


「そんな薄情な……」


 創造神の声は遠くなって次第に聞こえなくなってしまった。未知との遭遇でテンパっているタルバは台座の古代兵器たちをまじまじと見つめながら立ち尽くしていたのだった。


――――――――――――――


 1階へ降りる前に2階に寄ってみたがかなり綺麗になっていた。部屋の中に散乱していたガラス片や建物の資材、カーテンなどの備え付けられた調度品類も含めて整えられていた。整えたと言っても見栄えの悪いカーテン類を外して埃を払ったくらいのものだが、1人でやるにはあまりにも部屋が多すぎる。最初に来た時よりも遥かに見違えた城内に感動すら覚える。目から出そうになる涙はもしかしたらハウスダウトや埃が入ったのかもな。


 穴の開いた部屋の壁も土魔法で作成された土で覆われ、隙間風すらも通さない劇的な変化がある。そもそも壁に穴が開いている時点でおかしな話なのだが、そこは気にしないでおこう。廊下を歩いて回ってもどの部屋も同じように綺麗にされている。イリムのいう通り、あとは多少汚れているベッドや壊れたクローゼットを修繕するだけで大体完了する程度だ。俺がファングボアと戯れている数時間の間になんとも見違えた。


 最初の印象が悪すぎたのかもしれない。元々この城が美しき素晴らしい城だった。それが元の姿を徐々に取り戻そうとしているだけなのだ。本来あるべき姿は細部にまで手入れが行き届いた荘厳で細工が施された強固な城。それがこの廃城のはずだ。ではなければ古代兵器や神具が安置され、空間魔法で城内が拡張されたいかれた建築物があるはずがない。ましてや飛行できる者ならば門を飛び越え、城の穴から侵入も容易だ。誰でもできると言ってもいい。そんなガバガバ建築物に安置する馬鹿はいないからだ。


 前城主がいるはずだが、今はどこかに行ったか死んでしまったと思われる。人間が住んでいたとも思えないが、神具や古代兵器なんて現代に早々残されているものではない。集めようとしても集まるものではないからだ。古の勇者よりも遥か昔の強大な存在がここを拠点として生活していた。そう考える方が自然に思えてきた。


 城の歴史に思いをはせ、1階へと向かう。さして時間は経過していないがキッチンから香るおいしそうな匂いが漂ってくる。俺は匂いにつられるようにキッチンへと向かった。


 キッチンでは出来上がったクリームシチューをよそう三人の姿があった。数日前までは意気消沈して自暴自棄になっていた彼女たちが楽しそうに話している姿は嬉しかった。


「そろそろできたかい?」


「ちょうど完成したところです。すぐ準備しますね」


 俺が部屋を出た時と変わらずラキが鍋の前に立ち、イリムとアウローラはイスに座って話していたようだ。


「じゃあ早速食べようか」


「では私たちは後で他の部屋で取ることにいたしますので、主様どうぞお食べください」


 イリムがクリームシチューを食べるように薦めてくる。完全な上下関係があることで一緒に食べるという発想はないようだ。


「せっかくだから一緒に食べないか?」


「それでは私たちと主が同格として扱われてしまいます。それはよくないかと」


 ラキが反論してくる。その考えはもっともだ。ただし対外的な目線を考えればの話だ。


「あたしは一緒に食べたほうが美味しい気がするぞ」


 アウローラはその辺の考えが種族的にないのか一緒に食べることを提案してくる。俺もそちら側の意見に賛成だ。むしろ彼女らを侍らせて1人で飯を食うなんて寂しい。


「ラキの意見はもっともだがそれは対外的な目線で考えればの話だ。今は俺たちしかいないんだしいいだろ。これから配下が増えれば話は別かもしれないがな」


「主様とご一緒できるならば是非させていただきたく思います。それでよろしいのではないですか、ラキ」


「そうですね。主の意向が一番優先すべきことですから、そうしましょう」


「じゃあ皆のよそっていくぞー!」


 アウローラが鍋にとことこと歩いてお玉でクリームシチューをよそっていく。行き場のない四人には広すぎる城のキッチンで団欒とする小さな光景は賑やかな居酒屋のように暖かな雰囲気が充満していた。


――――――――――――――


 食事も食べ終わり、俺は風呂へと直行していた。魔人として魔力が増加したことから水と火を使ってお湯を作成し、湯船を張ることができるようになった。石?を泡立てて体の汚れをしっかり洗い落とし、清潔に保つ。


 贅沢なことをしているとは思いながら、銭湯もない辺鄙な場所で身を清められないなどどれだけの苦痛かは冒険者として活動して長期的に水で体を拭くしかで着なかった経験から痛いほどよくわかっていた。ましてや女性ならなおさらだ。


 だからこそ、俺は有り余る力で湯船を張るという地味な作業をこなしていた。彼女らもメンタルが回復してきてから風呂に入るようになっていった。一時期は風呂に入れないほど動けなかったことを踏まえると元気になったようでよかった。


 俺は銭湯が好きだから湯船にしっかり浸かり日々の疲れを癒す。大きな湯船は温泉や銭湯の大浴場と同じサイズで1人で使うには広い。一度くらいやってみたかった平泳ぎや湯船にただ浮かんで漂ってみたりして楽しんでいる。


 1時間ほど楽しんでさっさと上がり、着替えて三人に風呂を薦めるのだった。これもラキたちが頑なに俺より先には入ることなどできないと断固として主張したためだ。これに関してはイリムもアウローラも同意見だったようで、俺の方が折れることになった。


 温まった体をひんやりとした空気が包む。タオルで髪をガシガシ拭き、体を身震いさせながら3階へと上った。


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よければよろしくお願いいたします。

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