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へっぽこ魔人生  作者: 岸辺濫瀟
第4章

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5.魔人への第一歩

 翌日。タルバはフォスターと集落の中で話を聞きまわっていた。ファンタズマはテントのある場所にお留守番だ。ちゃんとご飯も与えたし、昼過ぎには戻るつもりだった。


 集落は皆忙しく動き回っていた。フォスターに確認すると人間から宣戦布告が届き、明日にでも開戦されるとのことだった。もう戦争は直前に迫っていた。


 そんな中で俺はフォスターに獣人という種族を知らなかったから色々聞いてみたいと頼み込んで色んな獣人たちを紹介してもらった。戦争を止めるために魔人として使える身体的特徴を増やす参考にできないかと考えてのことだった。

 

 幸い、獣人としての特徴や考え方を教えた貰う事ができた。ついでにこの辺での常識なんかも教えてもらった。今回紹介された獣人たちは虎、鷹、牛、ハリネズミ、ゾウ、サイの6種族。彼らから聞いた特徴を覚えながら、フォスターから昨日聞いた代表者殺害事件の話も聞くようにしていた。


 聞いて回っていると集落の若い世代は年配世代に仕方なく同調しているというのは本当のようだ。徹底抗戦を求めている過激派は本当に一部だけだった。


 それと水を出したことはフォスターに口止めして内緒にしてもらった。地下水でも湧いてきたことにしてくれと頼んだ。フォスターが泣くぐらいだから、他の獣人たちも感謝はしてくれるだろう。そうなれば立ち去りづらいし褒められるのは照れくさい。


 色んな話を聞いた中で気になった点は砂漠化の原因が全て獣人たちのせいだと人間にも思われている話だった。確かに獣人たちが片っ端から木を伐採してしまったことに根本の原因があるとは思う。だがそもそも伐採した木は人間の街に運ばれていたとのことだ。


 タルバが追い出された人間の街エヴェイユ。あの街に木材が出荷され、ベルルム王国で販売されていたと聞くことが出来た。つまり、人間側にも責任があったというわけだ。しかし現在のエヴェイユでは獣人たちが木を考えなしに伐採したことでエヴェイユ付近まで砂漠化が進行したことになっており、自分たちが伐採を頼んでいたことをひた隠しにしている。


 そのことで人間たちが都合がいいと憤る獣人もいた。20年ほど前は人間たちからの依頼で木を伐採し、その対価として様々な物を物々交換で得ていた。しかし10年前の事件以降、三種族の関りは全て断たれたという。


 フォスターも初耳だったようで、驚いていた。俺はこの人間にとって都合の良すぎる展開にさらなる疑念が生まれた。けれどイリムの話では人間が使う井戸や川に毒が仕込まれている。もしかしたらこの三種族以外に黒幕がいるのではないか?。どこに犯人がいてもおかしくない状況はタルバを思考の穴へと落ちていった。


 聞いたことを整理しながら歩く。この島では髪が綺麗で長い女性が富の象徴として扱われるようだ。それは人間、エルフ、獣人共通の認識だそうだ。エルフは髪の長い人が多かったように思う。だが獣人は長くとも肩くらいまでしか長いある女性はいなかった。砂漠という環境もあって髪を伸ばすことはしないのだろうな。


 集落の外れに向かう途中、フォスターは思い出したかのように質問した。


「なぁ、バット。お前は獣化ってわかるか?」


「なんだその獣化ってやつは」


「やっぱり知らなかったか。まぁ獣人にとって当たり前過ぎて今日聞いた皆もわざわざ話さなかったからもしかしたらとは思っていた。獣化って言うのは獣人が本来の獣の力を全開放して野生に戻る姿を指す言葉だ」


「野生……?それをするとどうなるんだ?」


「獣化すると姿が変化し、より持っている獣の姿に近づく。理性をなくして暴れてしまう。危険な技なんだ」


「だったら獣化するメリットは無いと思うんだが」


「いや、メリットはある。敵味方問わず襲うようになるが、魔法に対する耐性と膂力などの身体能力が爆発的に向上する。痛覚などの肉体の悲鳴も遮断する。純粋に戦闘に特化するように体が作り替わるイメージだな」


「おいおい、獣人にはそんな切り札があるなんて知らなかった。それに獣化した獣人は無敵なんじゃないのか?」


「そうでもない。もちろん、肉体的に非常に強靭になり、簡単にはやられない。だが無茶な動きをしていれば体が追いつけなくなって自壊する。痛覚遮断による弊害だな。それに魔法も効きづらいだけで効かなくなるわけじゃない。エルフの結界魔法のような搦め手には弱いというわけだ」


「本当に戦闘特化という感じだな。獣人は誰でも使うことができるのか?」


「基本的には使うことが出来るはずだ。だが普段から肉体を鍛えていない者と鍛えている者ではやはり獣化の個人差はある。その辺は本人の力量次第というわけだ」


「獣化……か。覚えておくよ。でも獣化のやり方はよくわからないな。どうすれば獣化できるんだ?」


「簡単な話だ。全てを捨てる覚悟で心の中で獣化と呟くだけだ。といっても俺は獣化したことがないからわからないがな。やったことがある獣人から聞いた受け売りだ」


「フォスターもやったことがないのか?今まで一度も?」


「メリットがあればデメリットもある。安易に使えるほど代償は軽くないのさ」


「その代償って?さっきの話しぶりからすると死ぬわけじゃないんだろ?」


「死ぬわけじゃないが、下手すれば死ぬ。理性がなく暴れまわるが時間制限はないんだ。つまり際限なく暴れまわる。獣化が解除されるには本人が止めるか魔法や能力などで意識を奪うかしかない」


「理性がなくなっている状態でどうやって自分で止めるんだよ……もうそれって死ぬ以外選択しなくないか?」


「だから簡単にはできないのさ。獣化のやり方は口伝で皆知っている。でもやろうとはしない。昔は獣化を制御できる獣人もいたようだが、今はいない。自爆覚悟で暴走するための切り札という感覚だ」


「出来ることなら見たくはないな。でも戦争が起きたらそうも言っていられないのだろうな」


「あぁ。だからお前にも一応教えた。使ってほしいとは思わない。でももしものときの切り札として覚えておいてくれ」


 フォスターはそういうとどこかへ飛飛び立った。彼にも何か仕事があるのだろう。空を飛べる獣人は偵察にしても単独で逃げることができる。自分が時間を取らせてしまっていたが、本当はやるべきことがあったみたいだ。


 タルバはテントとファンタズマが待つ場所へと向かった。


――――――――――――――


 集落の外れへと戻り、聞き込み調査の内容を精査する。テント内で胡坐をかき、情報を整理していく。


(今日聞いたことは獣人としての特性。獣化。そして人間側の伐採以来の隠蔽だ。まずは聞いた特性を試してみることにしよう)


 タルバは周囲に誰もいないことを確認して、テント内で獣人の特性を自分の肉体に適用してみる。イメージは朝方に見た獣人たちの身体的特徴をそのまま自分にもあてはめるだけだ。まずは虎の爪。自分の手が虎の手に変わり、肉球がついた五本の爪を持つ手が表れる。軽く動かしてみるが、このままではあまり使い道はない気がする。


 二足歩行しているのもあるが、爪の攻撃のリーチは剣の攻撃のリーチより短い。剣がない状態の近接戦闘では有用かもしれない。軽く振ってみたが使い道は限定されそうだ。


 次に鷹の足を再現するため、靴と靴下を脱ぐ。そして片足を鷹の三本爪の足に変化させる。トライデントのような足で、踵部分にも爪があることに違和感を禁じ得ない。動かしてみるが人間の足とは使用目的が異なるためか木の上に止まる時は役立つ程度だ。足を触ってみるが人間の足よりもかなり細くなってしまったので、打たれ強さや耐久度が気になってしまう。防具もうまく装着できないと考えると使用頻度は少ないだろう。


 次は牛だ。牛は反芻という食事の方法を行うことで効率的な栄養摂取を行えると聞いた。牛の獣人には4つの胃があり、それらを駆使して栄養を摂取している。この特徴のいいところは寝ている間でも栄養を接種が可能という点だ。自分の胃を増やしてどうなるのか確かめてみる。


 試しに残っていたビーフジャーキーを食べてみる。肉体をいじれることをいいことに、体内の動きを活発にしてみた。その結果、反芻して口に戻ってきたときに喉を逆流する異物感で気持ち悪くなった。俺は急いでテントから頭を出し、ビーフジャーキーを吐く。砕けて唾液にまみれたビーフジャーキーが地面にぼとぼと落ちた。

 これはだめかもしれない。胃だけ増やしてもそれ以外の感覚は人間のままだ。牛や牛の獣人たちにとって普通でも人間としての感覚が邪魔をして反芻はできない。


 気を取り直してハリネズミの特徴を試す。最大の特徴は針のような毛だ。腕の毛を硬化させて針に変えていく。だが試しているときに思ってしまった――いつ使うんだ?と。毛が針になったとしても生身の拳で殴りかかる敵など見かけたことがない。ザクスが装備していたようにガントレットくらいつけてくる。こちらが攻撃するにしても針を刺したからといってそこまでダメージなさそうだ。


 針の先っぽを触ってみたり、飛ばせないか試してみたところ、針を飛ばすことは出来た。魔人の肉体って便利だ。飛ばしてみたが速度も微妙で有効打にはならない。紙飛行機くらいゆっくり放物線を描いて飛ぶ。


(今のところ微妙だな。やっぱ部分的に取り入れたいというのは難しいのかもしれない……)


 若干諦めが入った気持ちでサイの特徴を試す。サイの厚くて固い皮膚と角を再現してみる。徐々に厚みを増す皮膚と鼻先に角が伸びる。角を触ってみるが、よくよく考えなくとも物理的に頭を使って攻撃することはほとんどない。角は使い道がなさそうだ。仕方なく角を元に戻す。

 だが皮膚は予想以上だった。先ほどのハリネズミの針や解体用の短剣で刺したり斬ったりしてみても傷一つない。流石に片手剣の刃では斬れたがかなり切れ味の鋭い刃物以外は通さない硬質さだ。これは使えそうだ。俺は軽装だから万が一にも防具で防いでない場所に攻撃が当たっても傷を浅くすることが出来る。思いがけない収穫だった。


 うきうきした気分で最後のゾウを試す。大きな耳と長い鼻を試そうとするが、少なくとも鼻はサイの角同様使い道がないため、耳だけ再現する。さっきまで聞こえなかった音が周囲から聞こえてきて頭がパンクしそうだ。遠くで雨の降るような音が聞こえる。聴力が劇的に向上したことが如実に理解できる。


 耳を元に戻しながら、戦場ではともかく平時では役に立つと感じる。もう少し使っていればコントロールもできるだろう。中々に嬉しい力かもしれない。


(これで一通り試せたか。収穫はサイの皮膚とゾウの耳だけだな。他のも使う機会は少なくとも使えるようにはしておこう。エルフの里で牢屋に入れられた時のように身一つになることはありえるからな……)


 タルバは獣化について思い出してみたが、そもそもタルバは獣人ではない。獣化は種族固有能力のようなもののため、再現は不可能だと思った。それにこんなところでもし獣化してしまったら取り返しがつかない。


 獣化はひとまず置いておいて、人間たちの思惑について考える。エルフ、獣人の話を聞いて明らかに食い違いが起きている。獣人たちは自分たちだけが代表を殺害されたと思い込んでおり、エルフ側はお互いに代表者が死んだとわかっている。


 イリムから聞いたエルフの言い分では何が起きたかわからず関係が解消されたということだった。つまりエルフ側はピステヴォを殺害されたことは理解しているが、会議で何が起きたのかは把握していないということだ。しかし、それはおかしい。会議場所にはエルフの死体はなかった。ならばそのピステヴォの死体はどこにいったのか。


 エルフ側もピステヴォが死んだことを理解しているならばエルフの代表者の死体はエルフに引き渡されていることになる。だがそれはおかしい。あの場所には代表者と護衛の4人しかいなかったのだ。オニロが死に、獣人の護衛者は集落へと走った。ではオニロを殺害したピステヴォはなぜ死んだのか?誰が殺害したのか?。


 獣人の護衛者は仇討ちのためにエルフの里へ走ったという。つまりエルフの里にオニロを殺害したエルフが戻る姿を見たのではないか。そこで1人だけ可能な立場の存在がいることに気づく。エルフ側の護衛者だ。この人物だけ安否が不明だ。会議の食事に毒を仕込めば殺害は容易い。自然に詳しいエルフなら毒を持つ植物など簡単に見分けがつく。


 聞いた情報を統合するとエルフの護衛者が殺害したという結論が筋が通る。しかし、情報があまりにも足りないな。自分が見たわけでもないため、どうしても断定ができない。

 そんな折、外から声が聞こえてくる。この集落の外れには俺しかいないはずだ。誰だろうか。


「おい。蝙蝠のやつ!出てこい!」


 荒い口調とかわいらしい声で声が聞こえる。蝙蝠の獣人として集落の外れにいるのは俺くらいだ。多分、俺のことを探しているみたいだ。


(なにかあったのか?それとも俺に用があるのかもしれない……話を聞いてみるか)


 タルバはテントを開け、外に出ると男性ではありえない胸元のふくらみを持つ女性が立っていた。背丈は150㎝にも満たない小柄で胸元の大きな双丘が薄暗闇を照らす明かりで際立って見える。褐色肌で茶髪。横髪を編み込み、獅子の耳が頭についていることと尻尾から獅子系の獣人であることがぱっと見でわかる。


「お前がフォスターの言っていたバットだなッ!」


「そうだが、何か用か?」


「用ってほどでもないがどんなやつか見に来ただけだ!」


 両手を腰に手を当ててこちらを見上げてくる女性は俺の顔を見に来ただけのようだ。手を腰に当てた時、腰元に装備している双剣がカチャカチャ音を立てる。


「じゃあもういいですか?テントに戻っても」


「いや、まだだ。まだ用は終わってないぞ!」


「いやいや、さっき顔を見に来ただけって言ってたが?」


 タルバは苦笑いしながら女性の顔を見つめる。よく見ると獣人の女性の中でも髪が長い。今日見た獣人の女性たちは肩より長い髪を持つ人はいなかった。一方目の前の女性は腰元まで髪がある。


「礼を言いに来たのを忘れていた!水をありがとな!」


(あっれ~フォスターのやつ喋りやがったな~)


「あ、大丈夫だぞ。あたししか知らないからな。いきなり水が出たからと言って手放しでは喜べないだろ?フォスターが大丈夫だって念押しするから何か知っていると思って問い詰めた!」


 笑顔で言っているがフォスターが逃げられないってこの娘、集落の中でも強いか偉いかのどっちかだな。


「だからあたしだけに教える代わりに誰がやったかを教えるように言ったんだ。それで集落の皆には大丈夫だと伝えておいたぞ!」


「それはどうも。でも特別なことはしていない。ただ出来るからやっただけだ」


「お前は良い奴だなっ!あっ名前を言ってなかった。あたしはアウローラ。アウローラ=フスクム。よろしくなっ!」


(アウローラ=フスクム――ん?フスクムだって?それってもしかして――)


「なぁ、フスクムってオニロって人の名前じゃなかったか?」


「そうだぞ。オニロはあたしのじいちゃんだ!エルフに殺されちゃったけど……」


「オニロの孫か。話しぶりからしてなんか偉そうだな」


「みんなよくしてくれるだけだ。族長のアトカースも次の族長はあたしにするって言ってるのもあって気にかけてくれる」


「族長って俺会ったことないわ。どんな人だ?」


「アトカースか?名前はアトカース=フィデス。じいちゃんの次に族長になったライオンの獣人だ。皆に信頼されてるけど枯れたお爺ちゃんみたいに覇気がないぞ!」


「会ったことないけどそんなこと言うなよ。なんか可哀そうだ」


「強さが特に重要な獅子系の獣人で覇気がないのは問題なんだぞ。強いのに自身を持って歩かないから皆に信頼されてるくせに悪く言われるんだぞ」


「もう本人に言ってあげろよ……自信もって歩けとかさ」


「言っても変わらないから仕方ないぞ。アトカースはこれは個性だから仕方がないとよくわからない理由を付けて受け入れているんだ。それに次をあたしに譲るから周りからの評価なんて気にしてないみたいだぞ」


(アトカース……顔も知らないけど達者で生きような)


 タルバの中でアトカースはなよなよした感じのライオンの獣人としか思えなかった。歩き方も縮こまっていそうで、ライオンの姿との落差が凄いだろうな。だがここまでずけずけと言われても皆に信頼されるってことはぶれない芯があるのかもしれない。


「礼は言ったしあたしは帰る。こんなとこにいなくても皆受け入れてくれるぞ?」


「あぁ、それはわかってるさ。でも俺は蝙蝠だから。暗いところが好きなのさ」


「そうか。それならいっか。じゃあな~」


 手を振りながらアウローラは帰っていった。背中に伸びる長い髪が左右に揺れて消えていく。


(あれがオニロの孫。エルフの話が出たときは暗くなったが、明朗快活という言葉が良く似合う明るい娘だった。あの娘も戦争に行くのかと思うと残念でならない)


 少ししか話さなかったタルバであっても彼女の明るさはとても魅力的に見えた。また獣人としての特徴が薄いようで、尻尾と耳くらいしか特徴はなかった。まだ20になるかならないかくらいの年齢で仲間のために戦争に参加せざるを得ず、祖父の仇討ちなんて残酷な人生だ。


 けれど、それは俺が何もしなかったらの話だ。もしも10年前の代表者殺害事件の真相が突き止められたのなら、この戦争を止めることができるかもしれない。そのためには人間の街を調査する必要がある。幸い、まだ日が落ちてすぐだ。時間で言えば18時といったところだろう。準備を整えれば可能性はある。


 タルバはテントの中で《ウォラキアの指輪》を自分に向けて起動するのだった。


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