25.結末は唐突
今回は短めです。
タルバの帰還はカナンもカエデも気づいていた。だがそれ以上にアタナシアのことが気に掛かってそれどころでなかった。
タルバすらも知らないことではあるがアタナシアが復活する理由は古の勇者が腕を権能で切断したことに端を発する。
彼は切断時にしれっとアタナシアに対してマーキングを施してしまった。意図せず付与されたそれは創造神由来の強力な運命の呪い。タルバの使命を果たすためにはアタナシアという踏み台が必要なことからタルバ以外が倒してしまうことがないようにタルバのみが殺せるようになってしまった。
その結果、創造神が作り出した他の神々の権能が発動したとしても全ての結果を無効化し、それ以前の状態に戻っている。
毎回再生させられているアタナシアはまともに戦うこともできず、ミンチになっては体を戻させられる拷問になっていた。
破壊神の権能は本来痛みを感じるまでもなく破壊されて消滅するのだが、この呪いのせいで消滅する結果は訪れない。体を戻させられるため尋常じゃない痛みが全身を包んでいた。
イメージするならば、体を粉微塵にされたあとその痛みを常に感じながら体が再生していくのだ。完全に再生するまでその痛みは消えない。
アタナシアは脳みそが焼き切れるような全身の痛覚を否が応でも受け入れざるを得なかった。まともに思考する余裕もないほど痛覚のシグナルが駆け回っていた。
そんな折、タルバの鶴の一声でカナンは攻撃をやめることとなった。
「もういい。カナン、君ではアタナシアを倒せない。俺の使命にも関わるから下がってくれ」
タルバの一言は依頼ではなく命令。声色に感情は込められず、ただ淡々と述べた。
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本当にこれでいいんだよな!?カナンに喧嘩売ってない?古の勇者
言動も行動も堂々たる勇姿をしていたが、タルバの内心はてんてこ舞いだった。
それもこれも古の勇者がタルバに助言したのだ、カナンに対して命令口調で下がれと伝えるようにと。
(これでいいんだよ。アタナシアには強い呪いが着いてしまってるからカナンじゃ倒せない。相性というものが良くない。ここで君の出番ってことさ)
ケタケタ笑いながら心のうちにいる古の勇者は戯けてそう言った。この状況の何が面白いんだ。古い人間のツボはわからんな。
(誰が古い人間だって?君よりも戦況やパワーバランスを見極める目はいいんだけど?)
心の自由を侵害しないでいただきたい。何でもかんでも聞かれるなら気分が悪いじゃないか。それに俺よりも遥か昔の人なんだから古い人間は正しいでしょ。
(確かにそうなんだけど、僕と話せるようになってから僕に対する尊敬の念が無くなってない?これでも世界を救った英雄ぞ?)
では少し丁寧に話しますね。世界を救ったことは素晴らしい功績ですが、俺は偉人の功績と人格は別だと思うんですよ。凄いことしたんですから少しは謙虚になりましょうよ。ドヤ顔で自慢されても凄いですねしか返せませんて。むしろ世界を救うことより凄いことした人間いないんじゃないですか?
(聖人君子を求められても嫌だけど、粗雑に扱われるのも嫌だね。もうちょっと崇めてもバチは当たらないよ?)
創造神様には感謝しておりますが、あなたを崇めるくらいなら創造神様を崇めますよ。今の所自分の魔人にうっかりポエムを聞かれて大声で叫ばれちゃったドジっ子みたいな可愛らしさもありますし。
(創造神様をドジっ子って…君は神をも恐れないのかい?不敬じゃない?)
そうは言っても事実は事実ですし、心でどう思おうと自由にさせてください。
(まぁ目を瞑っておいてあげるよ。さて、アタナシアは創造神様由来の呪いがある。でもそれは君には無関係だ。彼はもう瀕死で君が戦えば結末はすぐだ。)
そう言われましても、反撃とかされるでしょ。そんなに簡単に言わないでくださいよ。あいつ結構強いんですよ?
(あのミンチ状態で無理やり生かされてるだけの魔人が反撃すると思う?)
最後に一矢報いようと思ってるかもしれませんよ。気を抜いたらダメです。
(警戒するのはいいことだけど、楽にさせてあげたら?僕はどうでもいいんだけど、多分あの状態でも五感は死んでないからずっと苦しいんじゃない?)
相手を思いやる余裕は無いんです。俺は貴方ほど強くはないんですから。
空から降りてアタナシアと思われる物体の前に降り立つ。蠢くだけでアタナシアは反撃すら取ろうとしてない。
まだ再生途中のうちに畳み掛ける。これで幕引きだ。俺は手をかざして権能を発動させる。
「長かったよ。もういいだろ?じゃあな」
俺の権能が発動し、手から光線がアタナシアへと伸びる。アタナシアは光に包まれ焼かれて消えた。不死身のごとき再生力を発揮せずおとなしく消えたアタナシアの姿にやっと一息つけると安堵した。
これで終わりか?あまりにもあっけない気がする。あんだけ手こずっていた相手だとは思えない終幕だ。
(そりゃそうさ。君と僕でかなり弱体化させて、カナンに何度も打ち砕かれてまともに力を振るえなかったんだからさ。アタナシアという魔人に関してはこれで終わりで合ってるよ)
古の勇者の含みがある言い方が引っかかるけれど、やっと帰れる。下心満載で来たら余計ないことに巻き込まれ、他の魔人と敵対するとは思わなかった。今度から他の魔人のテリトリーには注意しよう。事前に調べてから動かないと同じことがおきそうだ。
帰る気満々の俺だったが、そんな気持ちは地下から発生した振動にかき消された。アタナシアが消滅した途端感じ取れるようになったその気配は、アタナシアとは比にならない死者の雰囲気を纏っていた。だからといって恐怖は感じなかった。
しかし、後方に待機していたカナンとカエデはその雰囲気が感じ取れる方角を凝視して、全力の警戒を向けているようだった。
(彼女たちはここに置いていこう。邪魔されると面倒だからね。カナンは存在は知っていても対処できないことを既に知っているはずだ。アタナシアと同じで創造神様の影響で君以外倒せない仕様だし)
え。例のゾンビってそんなことになってるんですか?前に聞いたときは強力なアンデッドになっているだけで倒せないなんてこと言っていなかったような気がしたんですが。
(状況というのは刻一刻と変化するんだよ。具体的には僕が君に取り込まれ番人になったことで、アンデッド達との繋がり方が変わったのさ。今まではアンデッド達を縛るしか出来なかったけど、今じゃ君の加護の影響でアンデッド達の存在が別物に進化してしまったみたいだ。もう普通のアンデッドと同じように攻撃してくるし、他の魔人や人間たちですらも制御できないよ)
なんでそんなことに…家帰りたいんですが。それに俺でもわかりますけど、あのアンデッド下手したらアタナシアよりも強いですよね?相性良くても倒せないんじゃないでしょうか。
(これがなんと僕がいることで楽勝になるんだな~。ワンパンだよ多分。いけるいける)
世界を救った勇者基準だと酷い目に遭うことは確定だから気は進まないんだけど、カナンもカエデも気づいている以上、放置はしない気がする。直感でしかないんだけど、そんな未来が見える。アタナシアを何故倒せなかったのか知らないカナンが、名誉挽回で挑んでもおかしくはないんじゃないか。その考えが脳裏に浮かんだとき、行かないという選択肢が選べなさそうだと気づいてしまった。
無理そうなら逃げればいいか。準備してくればきっと大丈夫。そう俺は言い聞かせることにした。
「カナン、カエデはここにいてくれ。あれは俺が対処する。邪魔しないでくれ」
突き放すように告げて、俺は例のアンデッドの元へと飛んだ。
――――――――――――――
「失望されてしまったのでしょうか…」
残されたカナンは意気消沈していた。タルバから戦力外通告ともとれる言葉を受けて、生涯で初めてと言っていいほどの挫折を味わっていたのだった。
アタナシアを倒しきれなかったことが原因だろうとはわかりきっていますが、なぜ倒せなかったのか最期までわかりませんでした。それにタルバ様は一瞬で片づけていました。つまりアタナシアを倒す術はあったということです。私の権能の使い方が悪かったのでしょうか。それともタルバ様の権能が特別相性が良かったのでしょうか。
考えが堂々巡りで結論へと辿り着けない。アタナシアという存在が消滅したことで、結論を自力で出すことも困難になりました。タルバ様にお聞きすればよろしいのだと思いますが、好感度という点では最早下り坂でしょう。
「カエデ、どうしたらいいのでしょうか…」
すぐそばで見ていたカエデに助けを求めてみる。私が気づいていないことでもカエデが気づいているかもしれません。一抹の希望を胸に問いかけました。
「私にもさっぱりわかりません。ただ一つ、今はタルバ様のご指示に従いましょう。タルバ様は何か御存知なのかもしれません」
「…それしかありませんね。これ以上お邪魔をしてはいけませんね」
落ち込むカナンを励ませず無力感を感じるカエデはタルバが帰ってきたら励ましてくれないかと願いながらタルバの帰還を待った。
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