紅葉贈るバス停
あれから梅雨が終わり、夏が過ぎ、涼しくなった。
つまり、今はちょうど秋。
いつものバス停には、ルンルン気分な僕と興味なさげなさくら。
今なにをしてるかと言うと、楽しかった修学旅行の想い出をさくらに話しているのだ。
今まで学校行事以外で東京を出たことがないから、京都なんてすごくテンションが上がってしまった。
ちなみに黒宮さんと同じ班になった!
好きな人とかってわけじゃない...いや、そうかもしれないけど!
僕が思うに憧れの人!
そんな人と同じ班だなんて、余計にテンションが上がるに決まってる!
なーんてことも、さくらに話していた。
「それでねー、黒宮さんと仲良くなったんだよ!
最初はちょっと無愛想っていうか、馴れ馴れしいんだよてめーって感じだったけど、だんだん悪くねーなって感じになってったんだよね!」
『にゃ、にゃぁ』
さくらは、何よそれ? あ、いや違うな、にゃによそれ? と戸惑っている(はず)。
やっぱり、同じ〝さくら〟だからか、ちょっと似ている気がする。
「そうそう!
班の中でお土産をひとつ、ランダムで交換するゲームでね、黒宮さんのもらっちゃった!
美味しそうなお饅頭だったよ、ていうか美味しかった!
だから....お礼のプレゼント買っちゃった!」
『にゃぅ?!』
プレゼントという言葉に、今まで聞いたことのない『にゃぅ』という言葉で驚かれた。
なんでさくらがそんなに驚くんだよーとか文句を言いつつ、僕は鞄の中からプレゼントを取り出した。
「まだ綺麗にラッピングとかしてないけどね、これをあげようと思ってるんだ!
ねこのグッズいっぱい見てたから、好きそうだな〜って!」
そういって僕が見せたのは、小さな鏡だった。
パチッと開けると、中が鏡のタイプ。
蓋には黒猫のシルエットと、桜の花びらが舞っていた。
「やっぱり、この黒猫ってさくらっぽいよね〜!
なんとなく黒宮さんとさくらって似てるし!」
さくらは鏡をじーっと見つめていて、横を向いてみたり上を向いてみたり、もちろん下にも向いてみる。
なんでこんなことしてるんだろう? と思っていたけど、僕はすぐに納得の答えを叫んだ。
「そっか!
さくらは鏡見たことないから、不思議なんだよね。
ここにいるのは君なんだよ〜?笑」
とか言うと......
『....にゃんっ!』
それくらい知ってるわよと言わんばかりに、手を引っかいた。
もちろん、鏡にはあたらないようにしているから、力は強かったけど優しい攻撃だ。
「あ、じゃぁ自分の姿を見たことないから不思議なの?
さくらって、綺麗な毛並みだし、艶のある黒だし。
黒は女性を美しくみせるって言うしね!」
図星のように口を開けて固まったり、また鏡の中の自分を見たり......さくらっていつも忙しそうだなぁ。
とか思っていると、もうバスが来た。
鏡を入れる袋か箱を相談しようと思ったけど、仕方がない。
今日は帰って、候補だけ決めて写真を撮っとくか。
明日さくらに見せようっと!
早く黒宮さんの驚く顔が見たいな〜♪ と、にやけた顔のままでさくらに挨拶する。
「明日も話そうね! またね、さくら!」
『にゃぁ!!』
「あ、そうだ! これあげる!
ここら辺にはあんまりないから、珍しいかな?」
そう言って僕は、さくらの足元に1枚の紅葉を置いた。
さくらはこれまたびっくりしたような顔で、僕と紅葉を交互に見ている。
もうちょっと見てたいんだけど、もうバスが来てしまっているので、僕はバスに乗ってまたね! と手を振った。