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3/7

雨降るバス停

それからは、バスが来るまでの間、さくらと話して過ごすことが、僕の放課後の日課になった。


なんだか、僕の言うことが全部わかっているような気がして、なんとも表情豊かというか、とにかく可愛い。


あれから2ヶ月が経ち、春は終わって、梅雨が来ていた。




。:*━✿━*:。━☂︎━。:*━✿━*:。━☂︎━。:*━✿━*:。




「聞いてよさくら〜。

明日から、放課後も合唱練習って言われたんだけど...しかも僕だけ!」


さくらは、ふ〜んとでも言いたげに、手をなめている。

興味がないときは、こうすることがすっかり増えた。

時々家に連れて帰りたいな〜って言うと、驚くような速さでベンチの下に隠れるのも面白かったのに、最近は冗談とわかっているらしい。


「確かに、声が小さいからって言われたら、否定はできないんだけどさ......実は、音痴なんだよね。

童謡とかなら歌えるんだけど。

あ、童謡って、子どものための歌ね。

かーえーるーのーうーたーがーとか、そういうの。」


さくらは、手をなめるのをやめて、僕を見ている。

真っ直ぐに見ていて、思わずどうしたの? と聞きながら、手を伸ばすと.....


『...にゃぁ!』


と小声で鳴いて、僕の手をぺろっとなめた。

さくらに手をなめられるなんて初めてで、思わず嬉しくなった。


「慰めてくれるの?

ありがとう、明日はなんかいいことあるかも!

....って、明日から放課後に練習なんだから、よくないか。

今までより遅い時間になったら、さくらも多分いないよね?」


いつもなら、何か聞くと返事をしてくれていたのに、今日は返事をしてくれない。

慰めてもらったと思ったら、今度は無視されるのか...いや、それともノーとか?

今までイエスしかなかったし。



「あ、バス来るのが見える。

もう終わりかぁー、相変わらず早いなぁ。

次いつだろ、わかんないけど、また来るからね!」


ばいばい!と言うと、いつも通り『にゃぁ!』と鳴くさくらは、今日はいつもとなんか違う気がした。




。:*━☂︎━*:。━☂︎━。:*━☂︎━*:。━☂︎━。:*━☂︎━*:。




「口開けて、大きな声で歌ってね!」


はーい、と答えるものの、音痴だから歌いたくなんてない。

よくあったのは、お前音痴だな、口パクでいこうぜってやつだったけど....高校になればそれもないか。


というか、合唱ってもう必要ないだろ....



そんなことを考えながら、CDプレイヤーから伴奏が聞こえた時....



『バンっ!!』




。:*━☂︎━*:。━☂︎━。:*━☂︎━*:。━☂︎━。:*━☂︎━*:。




「さくら〜! 聞いてくれよ〜!」


なんだこのハイテンション、みたいな感じで、さくらはこっちを向いた。

ちなみに、今日は遅くなるからいないと思ったのに、なぜかいた。

もちろん理由は聞けないけど、いるなら嬉しい。



「実はさ、今日の放課後練習!

なんと黒宮さんが来たんだ!」


黒宮さん...あの超強い背が低い女の子のこと。

黒宮 さくらさんと言うらしい。

さくらさんって呼びたいけど、さくらに話す時にそれだとややこしいから、黒宮さんって呼んでる。


そしてさくらは、ふ〜ん? みたいな感じで、手をなめている。

もうちょっと驚いてくれたっていいじゃないか....なら、これはどうかな?



「実はね.....僕よりもすっごく音痴だったんだよ!」


そう言うと、さくらは突然『シャァーッ!!』と言って、僕に強烈な猫パンチをお見舞いした。


猫パンチって....もっとぷにゅってして、もふもふで可愛いのを想像してたんだけど....結構痛い(涙目)


「わかったわかった、黒宮さんは音痴じゃないよ。」


納得いかない僕に対して、さくらは納得したかのように攻撃をやめた。

幸い、爪で引っかかれたりはしていないから、大丈夫だ。



「にしても、やっぱりかっこいいなぁ!

呼ばれてないのに、わたしも下手だから練習するって言ってさ。

強いし正直だし...あ、いや正義のためには黙ることの方が多そうかも。」


なんだそりゃ...いや、にゃんだそりゃって感じで(多分)、僕を呆れたように見ている。


「でも、黒宮さんはやっぱりかっこいいよ!

先月ね...」




。:*━☂︎━*:。━❀━。:*━☂︎━*:。━❀━。:*━☂︎━*:。




5月が始まったころ、僕は自販機を求め、とにかく校舎の周りを歩いていた。

なんと水筒を忘れるという...初めてのドジに、とりあえず自販機だと冷静に行動していたはずなのに、どこにあるのか見つからない。


敷地内にないのであれば、別に学校の外へ行ってもいいんだけどね。

確かバス停にあったはずだから。




「あ? こんだけか?!」


ひあぁっ?! なになに、僕?!

なんて焦って思わず周りを見るけど、別に誰もいない。

てことはとりあえず僕じゃないよね、うん。

ていうか前もこんなことなかったっけ、あの時は黒宮さんが....ん?


さっきの声、あの更衣室覗きの人じゃなかったっけ。

スマホ持ってたからもしかしたら盗撮してたかもだけど。



まだ聞こえる怒声をたよりに、とりあえず角を曲がらずにそっと覗いてみる。


やっぱりあいつらだ。

で、囲まれてるのは、多分先輩だろう。

同じ学年にはいなかったはず。


女の先輩ではなかったから、とりあえず体目的でないのは確か。

じゃあ一体なんなのか...あいつらの手元にその答えがあった。


千円札、5枚くらいだけど、お小遣いとしてもらっているんじゃないだろうか。

もちろんもらっているのは...被害者の先輩だろう。

要するにカツアゲだ。



......でも、これどうやったら助けられるんだ?!

助けに行ったら僕までカツアゲされそうで怖いんだけど!





「てめーら、こいつに手出してんじゃねーよ。」


......この声、救世主!

黒宮さんだ!


そう思って見たら、ほんとに黒宮さんがいる。

こんなグッドタイミングで来るとは思ってなかったから、黒宮さんが来てくれたら! と思っても、あきらめていたのに。


「お、お前...今度は何の用だよ。」


さすが黒宮さん!

前倒しただけあって、ビビってる!


「てめーらに用はねーよ。

わたしはこいつの財布に用があんの。」




......え...えええぇぇぇぇぇぇっ?!?!


ま、まさか黒宮さん!

く、黒宮さんがカツアゲ?!

じゃあなに?! 救世主どころかただの悪魔?!



「あ゛あ゛?

こいつの金は俺らの金だ。

お前にやる金はねーよ。」


「悪いけど、これからこいつの金はわたしの金だ。

奪うってんなら...あんたらの金も奪ってやろうか?

女子の着替えを覗いて、盗撮までしてた、変態さん?」


最後の言葉だけゆっくりと言って、バラされたくなかったら、という雰囲気満載。



変態さんと呼ばれた先輩たちは、舌打ちをしてすぐにここを去った。


「...んで、あんた大丈夫?」


あ、やっぱり心配してくれてるんだ。

でもカツアゲ......いやいや黒宮さんに限ってそんなこと!


「だ、大丈夫です。

けど...僕のお金、取るんですよね....」


や、やっぱり取るの?!

うわぁー! 黒宮さんどうしてぇぇぇぇ!


「あ? 取らねーよ?」


「「......え?」」


驚いて思わず声出たけど、うん、多分被ってたからバレてない。

こっち見られてないし。


ていうか取らないってどういうこと?

あれか、助けるための手段だったってだけ?


「それ、小遣いだろ?」


「え、ま、まぁ...そうだけど」


もう無理、黒宮さんの意図がわかんないよ僕...

考えるのやめて、聞くだけにしよう。

ていうか盗み聞きじゃんこれ....


「じゃあ、それはあんたの親が稼いだ金だ。

あんたに使っていい権利があるだけ。

自分の金っていうのは稼いでから言うんだな。」


「......!」


な、なるほど!

やばい黒宮さんすごいかっこいい!!


さすがだなぁ!

そういえば黒宮さんバイトとかしてるのかなぁ?


「あ、ありがとう...」


「わたしは教えただけで何もしてねーよ。」


ヒーローのよくある当たり前だ感かっこいい!




。:*━❀━*:。━☂︎━。:*━❀━*:。━☂︎━。:*━❀━*:。




「っていうことがあってね?

すごくかっこよくない?!」


ていうか、なんかさくらめっちゃ照れてない?

なんで?

ま、いいや。 可愛いし。


そんなことを思いながら、さくらの頭をなでていると、バスが来てしまった。


「じゃあまた明日ね!

しばらく歌の練習あるから今ぐらいの時間だよ!」


『にゃん!』


黒宮さんじゃないけど、今のさくらは、素直に返事してくれた感じで、嬉しいなぁなんて思いながら、僕はバスに乗った。

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