雨降るバス停
それからは、バスが来るまでの間、さくらと話して過ごすことが、僕の放課後の日課になった。
なんだか、僕の言うことが全部わかっているような気がして、なんとも表情豊かというか、とにかく可愛い。
あれから2ヶ月が経ち、春は終わって、梅雨が来ていた。
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「聞いてよさくら〜。
明日から、放課後も合唱練習って言われたんだけど...しかも僕だけ!」
さくらは、ふ〜んとでも言いたげに、手をなめている。
興味がないときは、こうすることがすっかり増えた。
時々家に連れて帰りたいな〜って言うと、驚くような速さでベンチの下に隠れるのも面白かったのに、最近は冗談とわかっているらしい。
「確かに、声が小さいからって言われたら、否定はできないんだけどさ......実は、音痴なんだよね。
童謡とかなら歌えるんだけど。
あ、童謡って、子どものための歌ね。
かーえーるーのーうーたーがーとか、そういうの。」
さくらは、手をなめるのをやめて、僕を見ている。
真っ直ぐに見ていて、思わずどうしたの? と聞きながら、手を伸ばすと.....
『...にゃぁ!』
と小声で鳴いて、僕の手をぺろっとなめた。
さくらに手をなめられるなんて初めてで、思わず嬉しくなった。
「慰めてくれるの?
ありがとう、明日はなんかいいことあるかも!
....って、明日から放課後に練習なんだから、よくないか。
今までより遅い時間になったら、さくらも多分いないよね?」
いつもなら、何か聞くと返事をしてくれていたのに、今日は返事をしてくれない。
慰めてもらったと思ったら、今度は無視されるのか...いや、それともノーとか?
今までイエスしかなかったし。
「あ、バス来るのが見える。
もう終わりかぁー、相変わらず早いなぁ。
次いつだろ、わかんないけど、また来るからね!」
ばいばい!と言うと、いつも通り『にゃぁ!』と鳴くさくらは、今日はいつもとなんか違う気がした。
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「口開けて、大きな声で歌ってね!」
はーい、と答えるものの、音痴だから歌いたくなんてない。
よくあったのは、お前音痴だな、口パクでいこうぜってやつだったけど....高校になればそれもないか。
というか、合唱ってもう必要ないだろ....
そんなことを考えながら、CDプレイヤーから伴奏が聞こえた時....
『バンっ!!』
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「さくら〜! 聞いてくれよ〜!」
なんだこのハイテンション、みたいな感じで、さくらはこっちを向いた。
ちなみに、今日は遅くなるからいないと思ったのに、なぜかいた。
もちろん理由は聞けないけど、いるなら嬉しい。
「実はさ、今日の放課後練習!
なんと黒宮さんが来たんだ!」
黒宮さん...あの超強い背が低い女の子のこと。
黒宮 さくらさんと言うらしい。
さくらさんって呼びたいけど、さくらに話す時にそれだとややこしいから、黒宮さんって呼んでる。
そしてさくらは、ふ〜ん? みたいな感じで、手をなめている。
もうちょっと驚いてくれたっていいじゃないか....なら、これはどうかな?
「実はね.....僕よりもすっごく音痴だったんだよ!」
そう言うと、さくらは突然『シャァーッ!!』と言って、僕に強烈な猫パンチをお見舞いした。
猫パンチって....もっとぷにゅってして、もふもふで可愛いのを想像してたんだけど....結構痛い(涙目)
「わかったわかった、黒宮さんは音痴じゃないよ。」
納得いかない僕に対して、さくらは納得したかのように攻撃をやめた。
幸い、爪で引っかかれたりはしていないから、大丈夫だ。
「にしても、やっぱりかっこいいなぁ!
呼ばれてないのに、わたしも下手だから練習するって言ってさ。
強いし正直だし...あ、いや正義のためには黙ることの方が多そうかも。」
なんだそりゃ...いや、にゃんだそりゃって感じで(多分)、僕を呆れたように見ている。
「でも、黒宮さんはやっぱりかっこいいよ!
先月ね...」
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5月が始まったころ、僕は自販機を求め、とにかく校舎の周りを歩いていた。
なんと水筒を忘れるという...初めてのドジに、とりあえず自販機だと冷静に行動していたはずなのに、どこにあるのか見つからない。
敷地内にないのであれば、別に学校の外へ行ってもいいんだけどね。
確かバス停にあったはずだから。
「あ? こんだけか?!」
ひあぁっ?! なになに、僕?!
なんて焦って思わず周りを見るけど、別に誰もいない。
てことはとりあえず僕じゃないよね、うん。
ていうか前もこんなことなかったっけ、あの時は黒宮さんが....ん?
さっきの声、あの更衣室覗きの人じゃなかったっけ。
スマホ持ってたからもしかしたら盗撮してたかもだけど。
まだ聞こえる怒声をたよりに、とりあえず角を曲がらずにそっと覗いてみる。
やっぱりあいつらだ。
で、囲まれてるのは、多分先輩だろう。
同じ学年にはいなかったはず。
女の先輩ではなかったから、とりあえず体目的でないのは確か。
じゃあ一体なんなのか...あいつらの手元にその答えがあった。
千円札、5枚くらいだけど、お小遣いとしてもらっているんじゃないだろうか。
もちろんもらっているのは...被害者の先輩だろう。
要するにカツアゲだ。
......でも、これどうやったら助けられるんだ?!
助けに行ったら僕までカツアゲされそうで怖いんだけど!
「てめーら、こいつに手出してんじゃねーよ。」
......この声、救世主!
黒宮さんだ!
そう思って見たら、ほんとに黒宮さんがいる。
こんなグッドタイミングで来るとは思ってなかったから、黒宮さんが来てくれたら! と思っても、あきらめていたのに。
「お、お前...今度は何の用だよ。」
さすが黒宮さん!
前倒しただけあって、ビビってる!
「てめーらに用はねーよ。
わたしはこいつの財布に用があんの。」
......え...えええぇぇぇぇぇぇっ?!?!
ま、まさか黒宮さん!
く、黒宮さんがカツアゲ?!
じゃあなに?! 救世主どころかただの悪魔?!
「あ゛あ゛?
こいつの金は俺らの金だ。
お前にやる金はねーよ。」
「悪いけど、これからこいつの金はわたしの金だ。
奪うってんなら...あんたらの金も奪ってやろうか?
女子の着替えを覗いて、盗撮までしてた、変態さん?」
最後の言葉だけゆっくりと言って、バラされたくなかったら、という雰囲気満載。
変態さんと呼ばれた先輩たちは、舌打ちをしてすぐにここを去った。
「...んで、あんた大丈夫?」
あ、やっぱり心配してくれてるんだ。
でもカツアゲ......いやいや黒宮さんに限ってそんなこと!
「だ、大丈夫です。
けど...僕のお金、取るんですよね....」
や、やっぱり取るの?!
うわぁー! 黒宮さんどうしてぇぇぇぇ!
「あ? 取らねーよ?」
「「......え?」」
驚いて思わず声出たけど、うん、多分被ってたからバレてない。
こっち見られてないし。
ていうか取らないってどういうこと?
あれか、助けるための手段だったってだけ?
「それ、小遣いだろ?」
「え、ま、まぁ...そうだけど」
もう無理、黒宮さんの意図がわかんないよ僕...
考えるのやめて、聞くだけにしよう。
ていうか盗み聞きじゃんこれ....
「じゃあ、それはあんたの親が稼いだ金だ。
あんたに使っていい権利があるだけ。
自分の金っていうのは稼いでから言うんだな。」
「......!」
な、なるほど!
やばい黒宮さんすごいかっこいい!!
さすがだなぁ!
そういえば黒宮さんバイトとかしてるのかなぁ?
「あ、ありがとう...」
「わたしは教えただけで何もしてねーよ。」
ヒーローのよくある当たり前だ感かっこいい!
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「っていうことがあってね?
すごくかっこよくない?!」
ていうか、なんかさくらめっちゃ照れてない?
なんで?
ま、いいや。 可愛いし。
そんなことを思いながら、さくらの頭をなでていると、バスが来てしまった。
「じゃあまた明日ね!
しばらく歌の練習あるから今ぐらいの時間だよ!」
『にゃん!』
黒宮さんじゃないけど、今のさくらは、素直に返事してくれた感じで、嬉しいなぁなんて思いながら、僕はバスに乗った。




