第390話 ご当地ラーメンとは
「しかし、これでご当地ラーメン?」
幹太は目の前の魚や乾物を見て考える。
「このままだと、タバニププのラーメンになっちゃうぞ」
やはりご当地ラーメンというからには、全てでなくとも、何かその土地の食材を使うのが当然である。
「ってなると、せめて具と麺はご当地でって方向で考えるか…いや、でもこれだとアルナ村っぽくは…」
幹太はそう言いながら、タバニププの市場で買ってきた乾燥昆布の表面を濡れふきんで拭い始めた。
「ひとまずこれとさっきのアラと…あと、これはどうかな…」
そして次に一升瓶のようなものに入った液体を、小皿に移して味見する。
「お、こりゃやっぱり日本酒っぽいな…」
幹太は先ほどの市場で、米からできていると説明をうけた酒を買ってきていた。
「これを少し加えて…」
幹太はその酒を、一カップほどまだ火にかけられていないスープに加えた。
「アラと昆布…あとは、煮干しか…」
幹太は最後に、乾物屋で見つけたイワシによく似た魚の煮干しを、スープに加えて火をつけた。
「ひとまずこれでスープはオッケー」
幹太は寸胴鍋にフタをし、次の仕込みに取り掛かる。
「ん〜と、やばいな…最近、すっかり麺を作ってなかったから、細かい手順を忘れてるっぽいぞ…」
そう言いつつ、幹太はいつも肌身離さず持っている小さなメモ帳をポケットから取り出す。
「えっと…まずは小麦粉とかんすいを…」
幹太はメモ帳を読み上げながら、書かれていた食材を調理台に乗せる。
メモ帳には、幹太がこれまで作ってきたラーメン関係のレシピが書いてあった。
「おっ!そっか、こりゃご当地ラーメンにいいかも!」
そしてそのメモ帳に書かれた、ある食材に目をつける。
「よし。じゃあ麺は明日買い物をしてからだな」
「ただいま、幹ちゃん♪」
とそこで、アルナを実家に送り届けた由紀が戻ってきた。
「あぁ、おかえり」
「どう?上手くいってる?」
「始めたばかりだから、まだわからないよ」
「そうなんだ。問題のスープはどうなったの?」
そう言って、由紀は火にかけられた寸胴鍋の方を見た。
「ちょっと見てみるか?」
「うん♪」
幹太がフタを開けると、寸胴鍋の中から湯気と共にスープの香りがキッチン中に広がる。
「わっ♪すっごい海の香り♪」
「ホントにすごいな。俺もここまでとは思ってなかった」
「これってもう味は出てるの?」
「完成はまだだけど、少しは出てると思う」
幹太は蓋を調理台に置き、お玉でスープをすくって味見する。
「お、こりゃなかなか手強いな…」
「手強いってどゆこと?」
「由紀も飲んでみるか?」
「うん」
幹太はお玉を由紀の口元に近づけ、ゆっくりとスープを味見させる。
「ん…すっごい魚のダシだね」
そう言う由紀は、眉を寄せてむずかしい表情をしていた。
「ハハッ♪まだ美味しくないだろ?」
「うん…味が整ってないっていうか、ちょっと雑…な感じ?」
「うん。まさにそれだ。やっぱり、しばらく熱を通さないとダメだな」
基本的にラーメンのスープは、長い時間沸騰させることで、ある程度味が落ち着くものだ。
「しかしこりゃ難しいな…」
「これって、全部海のもので作ってるの?」
由紀は、鍋の中をゆっくり回遊する食材を見ながらそう言う。
「うん。とりあえず最初はそれで挑戦してみようかと思って…」
「じゃあ森の中で海鮮ラーメンなの?」
「う…い、いや、まだスープもこれで決まりじゃないし、それに他にもまだまだ食材は使うから、少なくともその時にアルナ村産のものを使って…」
と、再び可愛く小首を傾げる由紀に痛いところをつかれた幹太は、慌てて言い訳をする。
「フフッ♪そうなんだ♪」
「えぇ、はい…そうです」
幹太は由紀と共にそれからしばらくラーメンの仕込みを続け、ひと段落したところで今回の宿であるアルナの実家に帰った。
「なるほど、ラーメンでイベントですか…」
一方その頃、一足先にラーメン店を開店していたアンナは、幹太と同じくクレアからの手紙を受け取っていた。
「シャノンも読んでみますか?」
「はい」
シャノンはアンナから手紙を受け取り、ひと通り目を通す。
「…クレア様らしいですね」
「やっぱり、クレアもお店をやるんだね♪」
シャノンの後ろから手紙を覗き込んでいたマーカスがそう言う。
「ん〜?でしたらそのイベントに向けて、新しいラーメンを作りたいですね…」
「おや…?アンナは乗り気なのかい?」
「えぇ。私は乗り気ですよ、マーカス」
「フフッ♪そうなんだ♪」
「しかし、また幹太さんがいない中でご当地のラーメンですか…」
「自信ないのかい?今回のラーメンはあんなにあっさり作ってたのに」
「このラーメンはそれほどご当地になってませんから…」
アンナはそう言って、寸胴鍋の中を見つめた。
「あぁ、なるほど…」
「はい」
「だったら、アンナはここのご当地ラーメンって、どんなものがいいと思うんだい?」
マーカスは、いつもの笑顔でアンナに聞いた。
「ご当地ラーメンというなら、その土地の名物の食材を使うのが定番なんですけど…」
「うん」
「これだけ周りが森だと、食材って何があるんでしょうか?」
と、アンナはマーカスに質問を返す。
「ん〜と、僕が聞いた感じだとキノコとか山菜は豊富みたいだね♪」
マーカスはすぐにそう答える。
「キノコと山菜ですか…」
「その二つを使ったラーメンってないのかな?」
「ないわけじゃなさそうですけど、あまり見ないですね…」
「じゃあダメ?」
「いいえ。それはしてみてから考えます」
「ん〜と、あとは…アンナは麺を作るのが得意なんだっけ?」
「はい。アンナ、麺、得意です♪」
そう言って、アンナは小麦粉を練る手つきをする。
「じゃあ、ここの小麦を使うのもいいね♪」
「えっ!ここってお米だけじゃなく、小麦も作ってるんですか?」
「うん。まぁその二つは、この辺りならどこの村でも作ってるみたいだけどね」
そう話す二人を見ながら、シャノンは内心で驚いていた。
「そんなこと…マーカス様はいつ調べていたのですか?」
そして、思わずそう聞く。
「えっ!いつかな…?」
「…覚えてないのですか?」
「あぁいや…色々と話した人たちは覚えてるけど、別に調べるつもりじゃなかったからさ」
マーカスは少し困った顔でそう言う。
「ちゃんとわからなくて、ごめんね、シャノンちゃん」
「いえ。いいんです…」
つまりマーカスは、村の人と関わっていく内に自然とその土地の情報を集めていたのだ。
「さすがはリーズの王子ですね…」
「うん?シャノンちゃん、何か言った?」
「あぁ、いえ、別に…」
「じゃあアンナ、今日はどうするんだい?ラーメン屋さんはやるの?」
「もちろんやります!」
アンナは腕まくりをし、のれんをかけに外に出ていく。
「フフッ♪」
その背中を見て、マーカスは微笑んだ。
「どうしましたか?」
「あぁいや…アンナは相変わらずだなって思ってさ♪」
アンナと姉妹であるシャノンはもちろん、二人と幼馴染のマーカスも、アンナの成長を見守ってきた一人なのだ。
「ですね」
「しかし、どうかな…?シャノンちゃんから見て、この村のご当地ラーメンがアンナに作れると思うかい?」
「……」
マーカスの問いに、シャノンはしばし考える。
「…正直に言えば、難しいと思います」
「あ、できないわけじゃないんだね♪」
「えぇ。アナもここに来るまで、かなりの数のラーメンを作ってますから」
「じゃあ、シャノンちゃんはアンナの手伝いをするんだ?」
「はい。それもちろん」
「そっか…」
「マーカス様はどうなさるんです?」
「ん〜?シャノンちゃんは知ってるだろうけど、僕は料理はからっきしだから、何か他のことでお手伝いするよ♪」
マーカスかそう言って、エプロンをつけ始める。
「…では、よろしくお願いします」
「うん♪」
「マーカス、シャノーン!開店しますよ〜♪」




