第383話 トントン拍子
「そう。ねぇタキタ…」
「は、はい…」
「あなたは嫌がらせなんかで手に入れた土地の木だけで、本当に村が良くなると思ってるわけ?」
そう言って、クレアはタキタに指を突きつけた。
「そ、それは…」
「ほら、やっぱりそんなもんじゃ村を豊かにできないってわかってるんでしょ?」
「うっ…」
図星を指されたタキタは、悔しげにうつむく。
「…で、ですが、この村で商売といえば木を売るぐらいしか…」
「ふ〜ん、本当にそうかしら…?」
クレアはそう言いながら、由紀の方へと振り返る。
「ねぇ由紀、あなたがこの村に来て最初に思ったことってなに?」
「ん〜と…すごい!本当に木の上で暮らしてる!って思ったかな…」
「ソフィアはどう?」
クレアは隣にいたソフィアにも聞く。
「私も同じですね〜♪木の上にお家がたくさんあってすごいなぁ〜って思いました〜」
「どう?」
クレアは腰に手を当て、ドヤ顔でタキタの方へと振り返る。
「ど、どうと言われても、やはり木なのかとしか…」
「ちがうわ。そうじゃなくて、二人が言ったのはここの環境ことよ」
「環境…?」
「えぇっと、たとえば…この村に宿はある?」
「はい。小さなものがひとつだけ…」
「…じゃあ、飲食店は?」
「いくつかあったものが減ってしまって、今では小さな食堂が一つあるだけです…」
「そう…」
クレアは腕を組み、部屋の中を歩きながら考える。
「ひとまず、いつも通りにやってみましょうか♪」
そして、満面の笑みでそう言った。
「ねぇタキタ、できればそんなくだらな争いやめたくない?」
「そ、それはもちろん。できたらそうしたいですか…」
「やめたいとは思ってるのね?」
「…はい」
タキタはクレアとしっかり目を合わせてそう答えた。
「じゃあ、やってみましょ♪まずはこの村に観光客を呼び込むのよ♪」
「あ、クレア様、もしかして…」
クレアの笑顔を見たゾーイは、彼女が何をやろうとしていのか気づく。
「ここで、ラーメン屋さんをはじめるつもりですか?」
「えぇ、そうよ♪さすがゾーイね♪」
「ですけど、ここに旦那様はいませんよ」
「それはまぁそうだけど、幹太の奥さんなら三人いるでしょ」
「それは、いますけど…」
そう言って、ゾーイは自分の後ろにいた二人を見る。
「由紀さんとソフィアさんはどう思います?」
「ん〜?お客さんに出すっていうのなら、私の知識じゃぜんぜん足りないと思うよ」
と、クレアの求めているものに気づいた由紀はそう答える。
「この間とは違うしなぁ〜」
先日、テントの宿で由紀が他の妻たちと一緒に作ったラーメンは、あくまで身内向けだった。
「細かく覚えてるのはせいぜい正蔵おじさんのスープの中身ぐらいかな…」
学生時代からこれまで数えきれないほど屋台の手伝いはしてきたが、できればラーメン以外の部分で幹太を支えたいという気持ちが、なぜだかずっと由紀の中にはあるのだ。
「私はどちらも基本はわかるって感じですね〜」
なので由紀よりも、毎日姫屋で働いているソフィアの方がラーメン屋の知識は上である。
「ゾーイさんはどうなんだっけ?」
由紀はそう聞き返す。
「私が知ってるのは紅姫屋の食材と仕込み方ぐらいですかね…」
幹太がリーズにいる時にずっとラーメン作りの手伝いをしていたゾーイは、当然、紅姫屋のレシピを知っていた。
「うん。各自がそれだけ知ってれば大丈夫そうね♪」
クレアはそう言って、ゾーイの肩に手を置く。
「でもクレア様、アンナ様たちはどうするんです?」
ゾーイは振り返りながらそう聞いた。
「ん〜?アンナはもう大丈夫そうだし…」
「でしたら、マーカス様は?」
「あ!そうよ!お兄様…」
こういった状況の村などを放っておけない性分のクレアは、一番大事なお兄様のことをすっかり忘れていた。
「まぁあのお兄様なら、自分でなんとかするでしょ」
クレアはあっさりそう言う。
「…でも、だったら幹ちゃんを呼んでからやればいいんじゃないですか?」
「それは…でも、ちょっと待って…」
その言葉を聞いたクレアは、再びタキタの前に戻った。
「タキタ、この村と争ってる村はいくつあるの?」
「二つです」
「ってことは、三つの村で木の生える場所を争ってるのね?」
「はい。ここと、セ・ベッラ・カリナ、それとセ・ベッラ・アルナ村の三つです」
「あ!そこ、幹ちゃんと待ち合わせしてる村です!」
「えっ?そこって、どっちよ?」
と、クレアは由紀に聞く。
「セ・ベッラ・アルナ村の方です。そこで、幹ちゃんとアルナさんと待ち合わせてて…」
「つまり…幹太とアルナはそのなんだかアルナ村にいるのね?」
「はい」
「そう…だとすると…」
クレアは再び腕を組んで考える。
『争ってるってことは、そのアルナ村ってとこも、ここと状況は変わらないってことよね…』
ここより色々と豊かな村なら、木の生える場所などのことで争うことなどないだろう。
『…だとしたら、あいつは絶対やるわね。えっと、だから…一人はしょうがないのか…な』
クレアはそこまで考えた後、由紀を見る。
「クレア様?どうしました?」
「由紀、もしよかったら、あなた一人でそのアルナ村ってところに行ってくれないかしら?」
「えっ!ま、まぁいいですけど…」
一人でとは思っていなかったものの、由紀はクレアに言われるまでもなくそうするつもりだった。
「でも、私だけでいいのかな?」
由紀は自分と同じく、幹太の妻の二人見る。
「私はクレア様といます」
最初にそう言ったのは、ゾーイだ。
「私はアルナ村にいけないんしょうか〜?」
そしてソフィアは、ちょっと怖め真顔でクレアにそう聞く。
「私も幹太さんに会いたいです〜」
いつも遠慮がちなお姉さんキャラのソフィアではあるが、実は幹太と一緒にいたい気持ちは由紀に負けないほど強い。
「も、申し訳ないけど…ラーメン作りの基本を知っているソフィアには、ここに残って欲しいの…」
目力ギンギンで詰めてくるソフィアにちょっぴりビビりながら、クレアはなんとかそう言った。
「それは絶対ですか〜?」
「で、できれば…」
と、そこで由紀が二人の間に割って入る。
「大丈夫だよ、ソフィアさん。幹ちゃんを連れて、すぐ戻ってくるから」
「フフッ♪わかりました。約束ですよ〜由紀さん♪」
「わかった。約束ね♪」
由紀は小指を差し出し、ソフィアと指切りをする。
「あ、けど私、道がわからないんだよね…」
「それでしたら、先ほどの衛士に案内させます」
タキタは部屋を出て、自分の部下に先ほどの女性衛士を引き留めるように伝えて戻ってくる。
「だったら、由紀を見送るついでに、村の中を見てみようかしら…」
その様子を見ていたクレアは、そう言いながら窓に向かって歩く。
「…木の上って言っても、全部木の上ってわけじゃないのね」
今、クレアたちのいる場所は、大木に囲われた円形の土地の中心である。
「この辺りのどこかにお店をやる場所はないかしら?」
クレアは振り返ってタキタに聞いた。
「お店…ですか?」
「そうよ。新しいお料理のお店」
「なるほど…でしたら、ここを使ってください」
タキタは少しだけ考えて、そう答える。
「えっ!いいの?」
「はい」
「あ、でも、集会所じゃ設備がダメね…」
「それも大丈夫です。皆さん、こちらへどうぞ…」
タキタは奥の扉を開け、クレアたちについてくるよう促す。
「実はこちらがキッチンで…」
タキタの言う通り、扉の向こうは集会所にしては大きすぎるキッチンだった。
「そして、先ほど皆さんがいた部屋が客席でした」
「客席…?っていうことは…」
「はい、クレア様。ここは元々、私が持っていた飲食店…というか、酒場だったのです…」
こうしてクレアはアンナと同じく、なんなくラーメン屋をやるための店舗を手に入れたのだ。




