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「……乙女ゲーム?」
拓人は呆れたような声を上げた。
「そうなのよ。知ってる? ' 私の王子様、選び放題?! 恋する☆彡 ロイヤルアカデミー ' っていうんだけど」
「知らないな。まあ、そもそも乙女ゲームなんてあまり知らないけど。随分安っぽいタイトルだな」
「そうなのよ! こんなの笑うしかない。……いや、やっぱり笑えない。何ならいいってもんでもないけど、こんな三流乙女ゲームに、わたしの人生握られてたなんて」
' 祈り ' の秘密を知ってから、なんども繰り返し思い知らされてきたのに。
わたしはまた、性懲りもなく傷ついていた。
「それで、どんな内容だった」
「わかんない。まだ全然読み切れてないのよ。バイナリで書かれたコードが混じって読みにくいし、とにかく設定が多くて……。古い歴史とかが延々と書いてある。乙女ゲーなんて設定が雑なのがお約束みたいなもんなのに、キャラ設定も、人物名だけ何百人だけ書いてあるのとか。まるで……まるで、創世の時代から稼働してたみたい」
わかんない。
──嘘ではないけど、やっぱり嘘だ。
本当は少しだけ分かったことがある。
でも、自分の中でうまく咀嚼できなくて、言葉にできないのだ。
長々と続く歴史設定。馬鹿みたいに延々と羅列された人名。
ずらりと並んだ人物名のステータスは殆どが ' TERMINATED ' で、作りこまれた綿密な設定というよりは、投げ出された墓標のようだった。
その中に知った名を見つけたのだ。
マクシミリアン・テオドール三世。数代前にこの国を統治していた王で、歴史上の人物だ。
つまり、 ' TERMINATED ' が意味するものとは……。
──死亡。
乙女ゲームに、無関係と思われる故人の設定をいちいち記載してあるのは何故か。全く想像もつかない。
ぞっとしたものを感じながらも、それを差し出して共有するには、まだ心の整理がつけられない。
わたしは拓人への報告を終え、またDETAILの世界へのめりこんだ。
' TERMINATED ' が故人であると目星をつけたわたしは、、それがついているものは読み飛ばすと決めて先へ進む。
1行だけの人名の羅列にやっと終わりが見えてきたころ、わたしは馴染みのある名前が並んでいるのに目を止めた。
・Obstacle ' Ernestine ' ...... REMOVED
・Remover 'GRANATO' ...... ACTIVE
ぐ、と喉の奥が鳴り、目の前が真っ赤になった。
この、古ぼけて擦り切れた冊子の中に、今まさに生きている人物の名前が記されている。
これは、わたしだ。
パッケージに立ち絵がある悪役令嬢ですらない、ただの ' 障害物 ' 。
たった1行で雑に退場させられたお邪魔虫。
それがわたしなのだ。
そして、それをしたのは 'GRANATO'。
「これってあの、いなくなった子のことよね? クレアっていう子の髪を切って、わたしが追放される原因になった、あの」
今となっては名前も思い出せないが、たしかグラナート伯爵の縁者だと言っていた。もしそうだとしたら、あれは不幸な偶然なんかではなく── ' 邪魔者 ' を ’ 排除 ' するために仕組まれた?
そういえばあの事件の後、国母の資質について声高に騒いだのもグラナート伯だった。すべてはわたしをREMOVEするための、一族ぐるみのマッチポンプ?
名前を思い出せないのも、初めから名前のないNPCだったから?
そして、Obstacleを追放して、ゲームが終わった後も稼働していて、まだ誰かを排除しようとしている?
──嫌な妄想ばかりが脳から迸る。
答えを求めて、逸る心のままにページをめくったけれど、人物ページはそこで終わりだった。
次頁からは、 ゲーム・ロジックの項目だ。




