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「井戸汲みをしたくない」
わたしは悩んでいた。
「エルスティーヌ様、でしたら私がやりましょうか」
アンヌが肩代わりしてくれようとしたけど、そういうことじゃない。
「そうじゃないのよ。力がなくても水が汲める装置が欲しいの。言うなればポンプ! 押したら水が出るようにしたいのよ」
「押したら、向こうに行ってしまうではありませんか」
アンヌにはぴんと来ないらしい。
修道院にある井戸はひとつ。車に渡したロープに桶を取り付けて引っ張るタイプだ。水の入った桶は重く、ロープは手に食い込む。
「ピストンを引くと、空いたシリンダーに水が流れ込んでくるでしょ。それから押すことで、逃げ場を失った水が押し出されるのよ。こちらの作った逃げ道に水を追い込んでいく感じかな」
機構はぼんやりと頭に浮かぶが、なにから始めたらいいのかわからない。
材料は何? 自分にも加工できて、水に入れても傷まない素材は?
どうやって加工する? 自慢じゃないが手先にはあんまり自信がない。
「ああ、技術のない己が口惜しい!」
「それでしたら、技師に相談してみては」
わたしが反故紙を前に呻いていると、アンヌが教えてくれた。石鹸と救済パンの功績で、わたしは多少奇矯なふるまいをしてもシスターたちから目こぼしされている。
「村外れにいるタクトという男はどうでしょう。偏屈であまり人づきあいをしないそうですが、元は王都から来た腕のある技師だそうですよ」
なるほど、自作が難しい場合はプロを頼るのは賢明な判断だ。異世界でポンプの機構を説明できる気はしないが、アンヌの顔を立てるためにもわたしはその男を訪れることにした。




