███████
「これは……罪深いですわ」
アンヌがほう、と吐息を漏らした。
「これで同じ材料だっていうんだから、たまげましたね」
エッタも思わず舌を巻いた。
出来上がったパンはほわほわと柔らかく、全粒粉特有のざらりとした舌触りはあるものの、レーズン酵母特有のワインを思わせる芳醇な香りを引き立てている。
もっちりとした生地は、噛むほどに甘みが増してくるようだ。
「焼いたら水分が抜けて固くなる。だったら焼かないで──むしろ水分を追加しながら──蒸せばいいのよ」
拙い言葉でわたしが蒸しパンについて説明すると、エッタは「要するにプディングですね」と頷いて、コルドロンに薄く水を入れ、二重鍋のような要領でパン生地を蒸しあげてくれた。
結果は期待以上。蒸しパンを初めて食べたエッタとアンヌは、その独特の食感に大喜びした。
「失敗して膨らまなかったパン生地も、蒸したら食べやすくなるかもしれません」
「次のバザーの売り物にしたらどうでしょう?」
「冷えると固くなっちまうんで、ほんの少し油を足して、ひとつの大きさを小さくしましょうか」
3人でいろいろと意見を出し合い、満を持して蒸しパンを提案したが、修道女長が難色を示した。
──美味しすぎたのだ。
禁欲を旨とする修道院で過度な美食は敵だ。という修道女長を煙に巻くエッタの弁舌は、しかし鮮やかだった。
「美食? 贅沢?! 馬鹿言っちゃいけません。これは、膨らまないパンを無駄にせず食べられる節約の知恵ですよ。──それにね、修道女長様。エルネスティーヌ様は慈悲の心でこのパンを考えなさったんです」
「へっ?!」
突然自分を引き合いに出されて、思わず変な声が出そうになったエルネスティーヌの脇腹を、並んで立っていたアンヌが肘で突いた。
「老人や歯の生えそろわない子供には、奉仕の日に施すパンは固すぎます。エルネスティーヌ様はね、そういった者たちには固パンの代わりにこれを与えたいと……! あたしは感動しちまいましてね。 そりゃあ、まとめて竈で焼くよりも手間はかかりますよ。でも、救済のための手間は惜しんじゃいけません。この蒸しパン……いえ、救済パン。救済パンは、そういったパンなんです!」
「なんと……!」
すっかり感動して目を潤ませる修道女長に、わたしは引き攣った笑顔を返した。
そうして、エッタの出まかせのおかげでわたしは慈悲深い令嬢ということにされ、「エルネスティーヌの救済パン」は、修道院の人気メニューとなった。




