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結論から言うと、直交表実験は大混乱だった!
長期戦を覚悟して効率的に実験しようとしたのに、あっちでしゅわしゅわ、こっちでほわほわ、そっちですぽーん。
同時多発的に酵母と問題が発生して、わたしたちは対応に追われた。
先陣を切ったのはカレファクトリウム組。
初日の夜には3つの瓶すべてで泡が立ち始めていた。
2日目の夜になると、レーズンと水の比率が一番濃い1:1の瓶を開けると「しゅわっ」と音がして、覗くと激しく泡立って心配になるほどだ。
レーズンと水の比率が1:2の瓶は泡が覆ってはいるもののそこまで激しくはなく、さわやかな甘い香りが鼻を抜けた。
比率が1:3の瓶は濃度が薄いせいか、控えめな白い泡がぽつぽつ浮いている程度だった。
そして3日めの夜。
わたしがカレファクトリウムで講義をしていると、「ぽんっ」という音とともに何かが転がってきたのだ。
「あら、何かしら……コルク?」
転がるコルク栓の近くにいたシスターが拾い上げて首をかしげる。
「……なんだか甘い臭いがしませんか?」
別のシスターが鼻をすんと鳴らした。
広がるラムレーズンのような匂いにシスターたちはざわめき、スパイ3人娘は冷や汗をかいたが、コンプレトの鐘に助けられてなんとかその場を切り抜けた。
「比率1:1の瓶の発酵が激しすぎて、ガスで押し出されたコルク栓が飛んだのね。この酵母、もう使えるんじゃないかしら」
「なんだか美味しそうな匂いがしました……」
「さっそく明日焼くパンに使ってみましょうか」
そう約束して翌朝、酵母を回収しに行くと、1:1の瓶は既に酸っぱい臭いを放っていた。
「一晩で酢になってる。暖かい部屋は進行が速い分、扱いが難しいわね……」
女神の前髪を掴み損ねてわたしが肩を落としていると、エッタが酢になったレーズン水を手の甲に垂らしてぺろりと舐めた。
「このお酢、イケますよ。酢漬けにするには足りないけど、ドレッシングに使ったら面白いかも」
初めて見る酸っぱい液体をいきなり口に入れるとは、エッタはなかなか豪胆だ。わたしは残り2つの瓶も手早く開けていく。
「1:2の瓶も、かなりしゅわしゅわしてるわね。もう1日待ったら、また同じことが起きそう。ちょっと早いかもしれないけど、今日使ってもらってもいい? 1:3の瓶は……」
レーズンに白い斑点が現れ、ほわほわした白い綿毛状のものが水面に浮いていた。
「……駄目ね。カビてるわ」
最後の瓶は泣く泣く捨て、次は楽しい試食タイムだ。




