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夕食後の休憩時間に、カレファクトリウムで寛いでいるわたしにアンヌが声をかけてきた。
「エルネスティーヌ様、こちらの写本の綴りを見ていただけますか」
昼間に書いた写本の出来を見て欲しいらしい。
「いいわよ。見せてごらんなさい」
わたしがアンヌの綴りを見てあげていると、エッタも食材の購入履歴をまとめた帳簿を差し出してきた。
「じゃあ、あたしもいいですか? 食費の帳簿、計算が合わないんです」
「まあ、エッタも? しょうがないわね、ちょっと待ってて。部屋から本とペンを取ってくるわ」
そうやってふたりの勉強を見てあげていると、ほかのシスターたちもおずおずと集まってきた。
この修道院には、婚姻前の貴族女性が行儀見習いに身を寄せていることも多い。聖書講読や写本を通じた読み書きだけでなく、家政を取り仕切るための計算、マナー、裁縫や教養なども幅広く学んでいる。
公爵令嬢として最高峰の教育を受けてきたエルネスティーヌに教えを乞えるのは、またとないチャンスだ。
「あっ、皆様、コンプレトの鐘ですわ。聖堂へ向かわないと……。また、お時間が合えばお教えしますので、私物の本などをここに置かせていただいてもよろしいかしら」
生徒たちに否やはなく、エルネスティーヌは手早く教本を部屋の隅にまとめて置いた。
聖堂に向かいながら、エッタが耳元に口を寄せてきた。
「やりましたね、エルネスティーヌ様。作戦通りです」
「本当ね。これでわたしはカレファクトリウムに私物を置くことが許された。目立たないように本の後ろにでもジャグも置いておきましょう」
寛ぎの時間にふたりが質問をしてきたのは、もちろん ′仕込み′ だ。こうなることを見越して、ひと芝居打ったのだ。
「でも、皆様とても喜ばれて……。実験が終わっても、お勉強会はやめられないのではありませんか?」
「それね」
悪戯が成功した子供のように軽い足取りで歩いていたアンヌが、わたしを案じて心配そうな顔をした。確かに、皆の反応は予想以上だった。しばらくやめられそうにないだろう。
少々疲れはしたが、わたしは意外なほど爽やかな気分だった。国母になるため受けてきた厳しい教育も、この修道院で使われることなく朽ちていくだけだと思っていた。
しかし、このささやかな勉強会を通して、彼女たちの行く末を照らしてくれるのなら、’ 私’ にとって何よりの手向けになるだろう。
わたしもアンヌと一緒に、弾むようなステップで道を急いだ。




