コムギさん、やる気出す
「こんにちは、ムギヤマさま。この姿でお会いするのは初めましてですミャ。わたしの名前はマフィンと申します」
眩い光とともに現れたのは、ふさふさと白く長い毛、そしてブルーの瞳をさせた何ともゴージャスな猫さんだった。
体は大きめだが、優美なオーラを感じる。
「マフィンさん……ですね。えっと、魔導機船を出してくれたのもマフィンさんが?」
「そうですミャ」
マフィンさんは魔導機船とセットなんだろうか。とりあえず、コムギさんに聞いてみるか。
「コムギさん、マフィンさんって――あれ?」
周辺が光で満ち溢れている中、コムギさんはもちろん、クウ、漁村の人たちも含めて、まるで時間が止まったかのように静止している。
「もしかして、俺だけ動いてる?」
それとも、マフィンさんの仕業なのか。
「……ムギヤマさま。お気づきのとおり、今、動いているのはわたしとムギヤマさまだけですミャ」
「何でですか?」
「魔導の力はとても計り知れない強さなのです。他の者たちに影響を及ぼす恐れがありますミャ。ですけど、ムギヤマさまにはこの力を少しでも感じてもらえたらなと思っていますミャ」
コムギさんよりも強い力の猫さんとなると、確かに良くない影響がありそうだが。
「……えっと、つまり?」
「魔導の力をムギヤマさまに少しだけ与えようと思ってここに来ましたミャ。そうすれば、魔導の力を動力源としてる魔導機船をムギヤマさま自身の力で動かすことが出来るようになりますミャ」
なるほど、その為に現れてくれたんだ。
しかし、知人のはずのコムギさんまで静止状態にするなんて一体どういう知人なのやら。
「そ、そういうことでしたら、魔導の力を使えるようにお願いします」
「わたしの手を握ってくださいミャ」
「へ? それだけ?」
「はい。それだけでムギヤマさまの潜在的なお力を開放出来ます……ミャ」
俺にそんな力が眠っていたなんて初耳だ。でも、魔導ボックスとか亜空間収納とか使えてるわけだし、魔導の力が使えても不思議じゃないんだよな。
マフィンさんに言われたので、とりあえず彼女の可愛らしい手に触れる。
「…………ではでは、ムギヤマさま。軽く目を閉じてくださいミャ。声をかけるまで目を開けたら駄目ですミャ」
「あ、はい」
言われた通りに目を閉じ、そのまま体内に起こるであろう変化を待ってみた。
「フフッ。これまで以上にあの子のこと、よろしくお願いしますね。それでは良い旅を!」
「……?」
何か気になることを言われたものの、マフィンさんの手からは一向に力のようなものを感じることはなかった。
てっきり体が熱くなったり、力がみなぎってきたりするとばかり思っていたのに。
それにしても。
「あの~? まだ目を開けたら駄目ですか?」
ずっと放置されてるような気がする。それに握ってるはずの猫の手はすでに感じられず、何もないところに手を差し出しているような気がしてならない。
――だが、直後。
「トージ、トージ! 目を開けてニャ!」
コムギさんの声が間近で聞こえてくる。
マフィンさんの声は聞こえてこないものの、コムギさんの声が聞こえる時点で静止状態から解放されたことを意味するので、俺はすぐに目を開けた。
するとそこには心配そうに俺を見つめるコムギさんの姿があった。コムギさんだけでなく、クウや漁村の人たちも俺の様子を不安そうに見ていた。
「トージ、大丈夫か?」
「お前だけずっと一点を見つめたまま動かなかったから心配したぞ」
「ニャ~ニャ~(大丈夫なのか、トージ)」
などなど、どうやら俺だけが異常な状態にあったことになっていたらしい。
「ご心配をおかけしました。俺は大丈夫です! 目の前に見えていると思いますが、魔導機船を出した時の疲れが出てしまったみたいでして」
……ということにしておく。
「なんだ、そうか。しかしこれが魔導機船なんだな!」
「トージ。よくやった! これでうちの宿への卸しはもちろん、メルバの漁獲量の増加が増えることが期待出来そうだ」
魔導機船の見た目は小型船舶くらい。猫たちと俺だけで乗るには結構な大きさと言えそう。
漁村の人たちが魔導機船を見ながら楽しそうに話をしている中、コムギさんだけ心配そうに俺を見つめている。
「な、何かな?」
「もしかして、魔導の力が使えるようになったのニャ?」
「まだ実感はわかないけど、使えるかも」
「……首輪を使った時、誰がここに現れたのニャ?」
浮かない顔を見せていたコムギさんだったが、やはり首輪から出た猫さんのことが気になるのか。
「あぁ、えっとね、マフィンさんだよ。白くて長い毛をした大きめの……」
「……マフィン? ウウウウニャ……あぁぁ、やっぱりそういうことだったのニャ。トージだけに会って力を与えるなんて、油断も隙もなかったのニャ……」
コムギさんはまるで落ち込むような姿勢で地面を眺めている。
「コムギさん。マフィンさんって?」
「魔導師ルーナそのものニャ。彼女は猫になれるからニャ……」
「えぇ!? ルーナさんだったんだ……そ、そうか」
コムギさんではなく俺に力を与える為だけに現れる、それも猫として現れるなんて、やはりどこかで俺とコムギさんの様子を眺めているってことなんだろうな。
「ウウ……仕方がないニャ。でも、これで貸し借りは解消されたからいいと思うことにするニャ。とにかくトージとの旅はこれからが本番ニャ。私もちゃんとやっていくことにするニャ!」
魔導師ルーナのことで悩んでいたコムギさんだったが、吹っ切れたようでやる気を見せていた。




