第7話「称号付き《タイトルホルダー》に俺はなる!! ドン!!」
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「へー、ここが同盟の支部。豊樹の枝木か」
「ほへー、もぐもぐ、もぐ……もぐもぐ!(スケール感が違う建物だねっ!)」
ちなみにこれで九個目のずんだ餅である。すくすくとお胸に養分を蓄積中だ。
「エトナ、食すか、喋るかはっきりしようか……」
「はーいっ!」
露店のおっさんにずんだ餅と景品を交換してもらった後、道案内をしてもらい、クエストの斡旋所、いわゆる同盟へと辿り着いた。
一目すると、普通の木造の建物だが、普通とは異なる点がある。それは、大樹が屋根から突き出ている点だ。大樹には、見たこともないような果実が星の数ほどなり、この街の象徴となっているらしい。
ギィィィィ。
軋む両扉を開けて、中へと足を踏み入れる。檜と果実の良い香りだ。
おぉ!! さすがは同盟の要所。さながら、役所みたいだな。
右手にはクエストの内容をまとめた依頼書がびっしりと敷き詰められたコルクボード。左手には冒険者の情報共有のスペースだろうか。アンティーク調の木製机と椅子が並べられている。
そして、俺の真正面である、中央には、十個ものカウンター。女性が一人ずつ席に腰掛け、カウンターに書類を並べながら冒険者を案内している。
「受付のお姉さん、俺、クモキと、こっちのエトナの冒険者ライセンスを発行して欲しいんだが……」
「お願いしますっ!!」
『承知致しました。……コホン、ようこそ、豊潤の枝木へ。ここでは、冒険者としてのライセンス発行、クエストの受注、上位職への転職、全ての手続きを承ります』
あ、言い直した。NPCとしての責務を果たそうとしてくれたのか。たしかにRPGっぽさがあって良いな。
『今回はライセンスカードの発行ということですね。承知致しました。まずはこの書類に手をかざしていただけますでしょうか?』
受付のお姉さんはまずは書類を一枚、机の上に置いた。これがライセンスの申請書なのだろうか。
「なんか、面白そうっ!! 私から先にやるね!!」
「おう、いいぞ!!」
エトナは書類に手形を押すようにかざした。すると、ライセンスが煙と共にポンッと現れる。市役所の手続きもこれだけ簡単なら良いのに。
「これがエトナ様の冒険者ライセンスカードとなります」
「えっと、私の能力値がプリントされているね。LV6 体力60、力3、身の守り20、知力3、素早さ14、運の良さ5。どうなんだろう?」
『基本的にステータスは職業による補正が大部分を占めます。エトナ様の場合、騎士であり、味方を守護するタンク役として体力や身の守りに補正がかかります。反面、魔力の源となる知力はマイナス補正がかかるため、どうしても低い値が出やすいです。ですが、体力の値がとても高いですね! 現実世界で体力が必要な運動が得意なのではないでしょうか?』
「はいっ! 確かに陸上部で、長距離走を専門にしています!!」
『では、現実世界の補正が乗ってきたのでしょう。LV6でこのステータスは、素晴らしいステータスですね!』
ステータス以外に関しては、キャラクターネームと冒険者ランクEと印字されている。そして、顔写真か。ん? 名前の上に枠がある。が、空白だな……。
「エトナの名前の上にある欄は印字ミスか何か、か?」
『いえ、ここには称号が入ります。同盟内で貢献度が高い者や緊急クエストといったイベントをクリアした極限られた人に対してのみ、バルリレキア王から称号が授与されるのです。同盟全体でも数万人を越す冒険者の中で百人程度でしょうか。彼らには特権として、全てのクエストを冒険者ランクに依らず受注することができます。……そして、称号を獲得している者を我々は敬意を表して、こう呼ぶのです。────称号付きと』
「ふむ、なるほど……、称号か! よし、決めた。称号付きに俺はなる!! ドン!!」
ちなみに、ドンについてはちゃんと効果音を口で発したのだ。
『……はい、頑張ってくださいね。それでは話を進めさせていただきます』
俺のドンを軽く流すなんてひどいッ。
『ライセンスカードの裏面には現在のステータスが各項目、六角形で表示されておりますので、参考にしていただければと思います。値としては、制御の画面から表示されるものと差異はございません』
ライセンスカードの裏には六角形のパラメータ表が描かれている。ステータス最小1から最大999まで。六角形の面積が大きければ大きいほど、総合ステータスが高いことになるようだ。
まだまだ駆け出しなので、図形として認識出来はしないほどの小ささだが、数値も表示されているため、わかりやすい値になっている。ただし、俺の固有才能は、まだ効果が続いており、【運の良さ】がカンスト状態だ。よって、現状のステータスが反映されて、運の良さがMAXの歪な線系となっているのだが。
『これでクモキ様、エトナ様の両名とも晴れて冒険者となりました。他にも御用はありますでしょうか?』
「……あ、そうだ。受付のお姉さん、アイテムのレアリティや効果を確認する手段ってある?」
「収納内のアイテムのレアリティや効果を判別する手法ですか……。一つは、盗賊のスキルである【鑑定】を使用する方法です。一般的に殆どのアイテムが、この手法で鑑定可能となっています。レアリティだけじゃなく、メッセージ上に表示されなかった効果のダメージ倍率や軽減率といった値もわかります。もう一つは鑑定師による有償の鑑定です。この場合、全てのアイテムのレアリティと効果が判明することになります」
「ふむ、なるほど」
取得した装備品、【身躱しマント】がどの程度のレアリティか判明すれば、有益な防具かどうかが分かるかもと思って聞いてみたが、白うさぎの言う通り、盗賊がいないと効果が分からなそうだな。うちのパーティーには盗賊は居ないし、鑑定師に頼むしかないな……。
『他に何か御用はありますでしょうか?』
「いや、特にないな」
『承知しました。同盟はお金の回し者。お金の単位のギルは同盟が訛って、そう呼ばれるようになったという説もあるくらいです。いっぱいクエストを受注して、お金を稼いで下さいね! ……いくつか初心者向けのクエスト依頼書を置いておきます。お好みのものをお選び下さい!』
いくつか初心者向けのクエストの依頼書がカウンターへと置かれた。どれどれ、俺は目を通してみる。
《お風呂のカビ取り。500ギルから》
《整理整頓。400ギルから》
《雑草むしり。300ギルから》
《魔物討伐。魔物の種類問わず。5体討伐。300ギル》
「……さすがに、クエストの種類が現実的すぎるというか、なんというか」
なんで、雑草むしりと魔物討伐が同じ報酬なんだ……。魔物討伐は雑草むしりと同じ労力だということだろうか。しかも、現実世界で絶対にやりたくない家事を、なぜVRゲームの仮想世界まで来て、やらなきゃいけないんだ。
『そうですね。どれも、Eランクのクエストになるので、まずは体の使い方に慣れていただくという意味でも、難易度が高くないものが多くなりまして……』
「クモキくんしょうがないよ。ここは、報酬が高い『お風呂のカビ取り』を……」
「うん、絶対にやらないぞ。『魔物討伐』だ」
エトナの提言を完全に無視して、俺は魔物討伐のクエストを受注することにした。魔物討伐をしている中でレベルアップも出来るかもしれないし、一石二鳥だ。
《クエスト――エラルド郊外の魔物討伐――受注しますか?》
内容:エラルド郊外に生息する魔物が街の住人を襲う被害が続出している。魔物を5体討伐して、被害を最小限に食い止めよう!※魔物の種類は問わない
推奨:LV1
報酬:300ギル
《▶はい》 《いいえ》
仮想ウインドウに表示されたディスプレイに指を触れて、クエストを受注する。俺たちはさっそく、エラルド街郊外の草原へと繰り出した。