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第6話「私は全裸でずんだ餅を食すのだっ!!!!」

 *


 エラルド街門を潜り抜ける。すると、そこは異世界だった。


 竜に(またが)った騎兵が行き交い、武器や防具を扱う剣と鎧のマークの看板がお店に掲げられ、魔物モンスターを調理した、見たこともない出店が立ち並ぶ。


 辺りは人間だけでなく獣人やドワーフでごった返していた。視覚だけではない。現実世界では聞いたことのない、竜のひづめが大地を蹴る音、嗅いだこともない、おいしそうな匂い。


「……ゲームとはとても思えない。まるで現実のようなリアリティ……。現実世界にはない空間を擬似的に体験できるのは、このゲームの醍醐味だな!」


「うんっ、確かにっ!!」


 俺らは呆気に取られながら、一歩、エラルドの街へと足を踏み出した。すると、ぱんぱかぱーんとチープな祝砲が流れる。


『おめでとうございます!』


「「えっ!?」」


 俺とエトナは固まる。笑顔を絶やさない男から急に声をかけられば、そのような反応になるだろう。何か新手の宗教の勧誘だろうか……。スマイル教とかかもしれない……。


『あなたはこの街を訪れたちょうど10万人目の冒険者様です!! 福引券をお渡しします。この先の露店で福引をやっていますので、気軽に参加してみてください!!』


「は、はぁ……」


 《アイテム福引券×10を手に入れた!》


 今まで、景品など当たった試しがない。景品にハガキや電話で申し込んだとしても、応募先まで届いた試しがないのだ。ハガキはポストに投函しようとしたら、風に飛ばされてしまったり、電話での応募はなぜか繋がらなかったり、とにかく、不運続き。


 それに比べて、いまは【運の良さ】ステがカンスト状態。【固有才能ユニークスキル】の効果時間は説明文にもあったとおり、かなり長いみたいだ。【運の良さ】カンスト状態を継続中だったことで受けた恩恵だろう。


 これが現実世界ならば、声をかけられたとしても、逃走中の凶悪犯に間違えられたり、怪しい商品のセールスだったり。とにかく、ロクなことにならないので、いやに勘ぐってしまった。


 ビバ! 運の良さカンスト!!


 エトナも目を見開き、愕然とした様子だ。


「……普段の悟くんの運の悪さを考えると、今のクモキくんの運の良さは末恐ろしいよっ……」


「そうだな……、現実世界の運は全てこちらで使い果たしているんじゃないかと思うほどだな」


「そうなのかも……。だから、あのとき(・・・・)


 エトナは世界の終わりのような悲壮な表情を浮かべた。いつもの元気なエトナらしくない。俺は聞き返すことにする。


「あのとき??」


「あ……、ううん。なんでもない、ごめんねっ」


 何かの悩みを隠しているのは明確だ。だが、無理に聞くのも違うだろう。話してくれるまで待つしかない。


「そうか。まあ、話したくなったら、話すんだぞ」


「……うん。ありがとう」


 明らかに取り繕った笑顔をエトナは浮かべた。何かを隠していることは明らかだが、これ以上、踏み込むのは辞めておこう


「さて、まずはなにより同盟ギルドに寄らないことにはお話しになら……って。エトナ、何しているんだ?」


 ふと、エトナを見ると、瞳をきらきらと輝かせ、(よだれ)をだらだら垂らしながら、露店の食べ物をじっと眺めていた。先ほどまでの、悩める女子はどこに行きやがった!


「クモキ君、こ、これを見るんだよっ!! ずんだ餅が売っているっ!!!!」


 そこには『VR限定。グザイア豆のずんだ餅』の文字が。


 ま、まずい……、恵菜は大の甘味好き。恵菜の巨乳は甘味で出来ていると称されるほどだ!! ここは誘惑が多すぎるッ!!


「待て!! 早まるな、エトナよ。お前の所持金を見てみるのだ」


 視界の仮想ウインドウには自分のLVやHP、パーティメンバーだけでなく、左上に所持金の欄が存在する。そう、そこには絶望的な数字が刻まれているのだ。


 ゼロ。圧倒的ゼロ。0ギルである。基本戦闘による収入はないシステム。推測だが、クエストやアイテムの売却でないとお金が入らないのであろう。


 つまりだ。クエストを受けていない俺らが、数多くの動く骸(スケルトン)を倒したとしても、一切のお金が入らないのだ。


 つまり、俺等は文無し。


 エトナもその衝撃的な数値を目の当たりにして、わなわなと震えあがる。唇を噛み締め、血が出る程(仮想世界では血は出ないので、HPが減る程)の(さま)だ。


「PK」


「えっ!?」


「プレイヤーキルだねっ。NPCだろうし、店員を殺せば、ずんだ餅食べ放題だー、あはははっ!!」


 やばい、エトナが壊れた!!


「お、落ち着け。まずは同盟ギルドでクエストを受注しよう。初心者向けの簡単なやつを達成すれば、お金が手に入る。ずんだ餅が買えるはずだッ!!」


「待てないっ!! 私は一定期間、甘いものを摂取しないと死ぬ体質なの!!」


「そうなのッ!? 幼馴染だけど初めて知ったんだが!!」


「こ、こうなったら、錬金術だっ。私が今着ている服を全て売って金にするんだ。現役女子高生の残り香が匂う服ならば、高く売れるはずっ。そして、私は全裸でずんだ餅を食すのだっ!!!!」


「ヤメロッ、早まるなッ!!」


「ハ・ナ・セ!!」


 俺は後方からエトナを制止させようと羽交い絞めに。


 エトナから漂う甘露の匂いが鼻腔をくすぐる。たしかに、これだけ良い匂いならば、途方もない金額で取引されそうだが、幼馴染が道を外すのを黙ってみている訳にはいかない。俺が必死にもがいていると……。


 くんくん。くんくん。


 エトナは鼻の頭をひくひくさせて匂いを嗅ぐ。


「……あっちからも、ずんだ餅の匂いがするっ!!」


 俺は羽交い締めにしている。それなのに、何事もないように平然と歩いていく。抵抗しようと、つま先だけは地面につけているが、エトナの怪力に負けて、地に跡をつけていく。まるで、タイヤ引きみたいに。俺は驚きの声をあげる。


「えぇぇぇぇぇぇ」


 甘いものは女性の力の源。簡単に怪力に変えてしまうようだ。エトナを怒らせることだけは絶対辞めよう。俺は深く心に刻み込んだ。


 引きられること、はや五分。


 辿り着いた先は福引会場だ。


 露店の一角が改装されており、長机の上に六角形のガラガラが置かれている。また、景品リスト一覧が長机に立て掛けられており、一等から参加賞まで明記されていた。


 最下部には、虫眼鏡でないと見えないような小さい文字で、ただし書きがされていた。これらのアイテムは景品のため、売却することは不可らしい。金銭策にはならなそうだ。


 そして、参加賞。それがエトナの追い求めているもの。グザイア豆のずんだ餅である。


「クモキくんっ! 貰った福引券で参加賞のずんだ餅を手に入れるミッションを与えるっ!! 私がやるよりも、【運の良さ】カンストのクモキくんの方が望みがある。やるのだっ!!」


「ふっ、任せろッ!」


 現実世界なら、ガラガラが壊れて参加すらできないこともあったが、この世界の俺は違う。運の良さカンストだ!! 一発で決めてみせる!


 俺はガラガラに手を掛け、一気に回した。コロコロと出てくる小玉。なんと、色は金色だ。露店のおっさんも驚嘆しながら、鐘を鳴らしてくれる。


 カランカラン。


『お、大当たりぃぃいいい! 一等だあああ!!! 二泊三日の高級温泉旅行ペアセットになります!!』


「……やった、やったぞ! エトナ!! 一等だぞ!! ガラガラを回せたこと自体奇跡なのに、一等だぞ!!」


 エトナに目を向けると、顔をりんご飴みたいに真っ赤にさせて俯いている。しばらくしてからボソボソと小声で呟いた。


「悟くんは、私と温泉旅行へ行きたい?」


「当たり前だ。混浴を希望する!!」


「こ、混浴!? さすがに、その、まだ、明るいところは、ちょっと……」


「大丈夫だ。お風呂のときは、おっぱい以外は見ないようにするから!」


「全然ダメだよねっ! 何も解決してないよねっ! それに、ずんだ餅が目当ての品だよっ!!」


 そうでした……。一等が当たったという嬉しさのあまり、当初の目的を失念してました。よし、ならば次だ! 俺は再度ガラガラを回す。


『おめでとうございます! 三等の高級エリクサーの詰め合わせだ!!』


 次。


『お、おめでとうございます。 二等のプラチナソードだ……』


 次。


『も、持ってけ泥棒! 四等の金の粉だ!』


 次、次、次、次ィィ!!


『……同じく三等の高級エリクサー詰め合わせです(絶望)。もう……勘弁して下さい(号泣)』


 おっさんが机に伏せて人目を気にせず泣き喚いている。人間って本当に辛いことがあるとこんなにも泣くことができるんだな……。


 結局、一回も参加賞であるはずのずんだ餅を手に入れることが叶わなかった。


 エトナをちらりと横目で捉える。


 うっ、針を刺すような視線が痛い。


「……おっさん、これらの景品はいらない。代わりに参加賞のずんだ餅を十個寄越しな!」


 『若造っ!!』と泣き伏せていたおっさんは、急に立ち上がる。そして、俺とがっちりと握手を結ぶ。今度は歓喜の涙で机を濡らしたのだった。


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