第4話「俺の【運の良さ】ステは999《カンスト》だッ!!」
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「骸骨じゃねーかッ!!」
「骸骨なんだよっ!!」
骸骨の群れが隊列を成して向かってくる。右手には剣、左手には盾を携えて。俺たちを同じ姿にさせようと、呻き声をあげながら。
さらに異様なのはその数。二百体にも近い骸の大群が一斉に蠢く。
その先頭を率いている骸骨はくすんだ緑色のマントを身に着けている。おそらく彼こそがリーダー、骸の軍隊の指導者だろう。
「うぇ、アレ、ぜんぶ骸骨っ?」
エトナもこの光景に驚愕して、顔が引きつっている。無理もない。冒険初期のモンスターはスライムやゴブリンであるべきだろう。それがなんだ。
動く骸って……。
ターゲットカーソルの照準が合うとその名が表示。
【識別】の効果で敵のステータスを確認する。正直、一体一体自体は強くはない。だが、数が尋常ではない。全てを倒すには骨が折れそうだ。骨だけに、な。んなんてことを言っている場合じゃない。
ここは俺の矢で仕留めてやるか……って。
「……ちょっと待て!! あいつら速くね!?」
「!? クモキくんっ、に、逃げなきゃ!!」
俺らは踵を返し、全速力で迫り来る敵からの逃避を試みた。
「「うわぁぁぁあああああああ」」
俺らの絶叫が木霊する。
脚を動かしながらも、後ろを振り返った。迫り来る骸骨達の影。
「く、クモキくん! このままだと追いつかれるっ。なんとかしないと!!」
「わ、わかった! 俺に任せとけ!!」
エトナは心配そうにこちらを見つめてくる。俺の力が奴等に通用するか、思いやってくれているのだろう。
「はぁ、はぁ。任せるって言っても……、はぁ、く、クモキくんの今までの人生を考えると、とてつもなく不安だよっ……」
あ、そっちの心配ね。
「悪状況を最悪にするのが、クモキくんだからねっ……」
伊達に保育園からの付き合いではない。エトナの奴、完全に俺を信用していないぞ。まぁ、無理もないか。あれだけ色々とやらかせば、な。だが、故意じゃない、全てが偶然。単に運が悪かっただけなんだ。
というわけで、さっきのエトナの忠告に対し、無視を決め込むことにした。というか、走るので精一杯だ!!
足を止めたら魔物たちに踏み潰されてしまう。足は動かしながらも、俺は念じる。弓を俺の手に。
すると木製の弓が手元へと現れた。そして、数多の矢がこれでもかと詰まった矢筒が背中に。
俺は後ろを振り返る。先頭の動く骸へと狙いを定める。
標的のカーソルが骸骨達に焦点が合うと、距離が表示。100メートル。95……、90と、どんどん差が縮まっていく。
他の冒険者も巻き込まれて、逃げてきたのであろうか。全速力で俺らと並走する。
「だれか、だれかぁ!」
「お前なら動く骸倒せるだろッ!!」
「じゃあ、お前が残れやッ!!」
冒険者たちの怒号が飛び交い、さながら地獄絵図だ。コイツらを助けるためにも、ここで食い止めないといけないな。
俺は足を動かしながら、背中の矢を一本。弦に番える。
ここで、俺はやっと気づいた。今の絶望的な状況に。
たしか、運の良さは命中率に直結する。え、絶対に当たらなくね!? ……俺の固有才能。これを使えば少しは運の良さを上げることが……。ダメだ。一番低い能力である運の良さのステータスが下がるだけだもんな。
……つーか、最悪をさらに下げてどうするんだ。それを考えれば、気休めでも使っておいて、力を上げておいた方がマシか……。
俺は迷う事なく、思いっきり弦を引いて留めた。いつでも、手を離せば矢を放つことができる状態だ。
「固有才能発動! 【短を捨てて長を取る】!! ……そして、制御!!」
この才能を使えば、力は僅かに上がるはず。これを近距離からぶっ放すしかないッ!!
俺は自身のステータスを再度確認した。そこに表示されたのは異様な数値。その値を確認して、自然に笑みが溢れた。
「はは、……はははは!!」
これは予想だにしていなかった。力はもちろん上がっている。そこは能力説明の通りだ。だが、嬉しい誤算は最低のステータスの方。まさか、そんな……。
桁溢れを起こしているなんて。
もう忙しなく足を動かす必要はない。俺は脚を止めた。80メートル……、70……。瞬く間に骸骨たちとの距離が縮まっていく。
「く、クモキくん!?」
エトナの不安の声色が鼓膜を震わす。急に立ち止まって、笑い始めたら無理もないか。顔こそ見えていないが、エトナの心配が伝播してきた。
「……エトナ、【運の良さ】がうんちの俺は、いま、この瞬間生まれ変わった」
「えっ!? そ、それって、どういうっ……」
エトナが全てを言うより早く、俺は矢を放つ。
「俺の【運の良さ】ステは999だッ!!」
放った矢は風を切り裂き、何もない空へと直進する。
あっるぇー?
骸骨のリーダーにちゃんと標的を合わせたはずなのに。運の良さカンスト、つまり現状の命中率は百パーセントだと思ったが……。
そこに骸骨たちから逃げ惑うように飛び回っていた、モンスターが上空に現れた。
あ、なんか黒い物体が来た。……鳥型のモンスターだ。その様子を見て、エトナが叫ぶ。
「えぇぇぇぇええええええっ!! タイミングわっる!!!!」
あ、なんか鳥型モンスターの翼に、放った矢が的中した。
「えぇぇぇぇええええええっ!! なんで突っ込んできたのっ!? 止まれたよねっ!? 今確実に止まれたよねっ!?」
あ、なんか矢で貫いた鳥型のモンスターが中型の飛行モンスターに激突した。
「えぇぇぇぇええええええっ!! なに激突しちゃってんの!? 巻き込んじゃダメだよっ!!」
あ、なんか中型の魔物が骸骨の大軍に突っ込んでいく。
「えぇぇぇぇええええええっ!! 躱してっ!! 骸骨さん達、躱してっ!!」
ドゴォォォォン。
あ、先頭の骸骨のリーダーに中型モンスターが激突した。ボーリングのピンみたいに骸骨達の骨がばらばらだ。
「わーあ、ストライクぅ♡ ってならないからっ!!」
「「…………」」
俺とエトナは顔を見合わせる。まさかこんな結果になるとは思わなかった。ただ先頭の骸骨だけを倒そうとしただけなのだが……。エトナは瞬きを一切しない。
……。
…………。
「ピ、ピタゴラス○ッチ♪」
「それで誤魔化せるかぁああああっ!!」
ざわざわ。
逃げ惑っていた冒険者一同はゆっくりとこちらに近づいて来る。脱帽して開いた口が塞がらないようだ。品定めするようにこちらを凝視しながら。えーっと、こういう時は……。
「……ふっ、俺の狙い通りだ。あの魔物が横目に入ったからな。狙い澄ましたぜ(大嘘)」
ぱち。
ぱち、ぱち。
ぱち、ぱち、ぱち、ぱち。
次第に波のように伝播していく拍手喝采。歓声が轟き渡る。次々と称賛の言葉が投げかけられる。
「す、すげー!!」
「まじ、ぱねぇっす!」
「カッコいいぜ!!」
歓声を妨げるように色黒で恰幅の良い、如何にもヤンキーな冒険者が口を開く。
「……おめぇら……」
先程までの歓声が嘘のように急に静寂に包まれた。
え、なに、顔が厳ついんだけど……。物凄く怖いんだけど……。
「……今日という日を忘れやがるなよ! 俺たちは英雄の誕生に遭遇したしまったんだからな!」
やだっ、惚れちゃうっ!! アニキと呼ばせてくださいッ!!
アニキの熱量の篭った呼びかけに。
「「「うぉぉぉぉおおおおおおお!! ク・モ・キ、ク・モ・キ!!」」」」
唐突に始まるクモキコール。
片手を掲げて、声援に応える。歓声が包む冒険者達の隙間を潜って、人海を割りながら前進した。さながら凱旋パレードだ。
ワァァァァアアアアア!!
「……クモキ君、どうすんのっ、これ?」
「なせばなる。なるようにしかならん」
「そ、そんなぁ……」
エトナはなんとも言えない複雑な情を浮かべていた。仕方ないだろ、こうなってしまったんだから。祭り上げられたら乗るしかないだろう!
やっべ、超気持ちィィイイ!!
俺は束の間の英雄気分を味わったのだ。
ちなみに、エトナに何かを聞かなければならなかった気がしたが、何を聞くのか忘れてしまった。まあ、忘れるくらいだから、きっと、たいしたことではなかった、ということにしておこう。
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